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第2話 赤覇王 案の定無双する

「行きなさい! ローレライ! バブルマシンガン!!」


 水野さんの指示が轟き、ローレライの口から泡状の銃弾がピクシーに向かって真っすぐ延びる。


「かわせ。ピクシー」


 ピクシーは小さな羽を使って空中に大きく飛翔し、マシンガンをかわし続ける。

 ピクシーがかわした泡の銃弾はバーチャル世界の岩に大きなヒビを入れていた。

 まさにマシンガン。

 だが、銃弾の速度は緩めであり、ピクシーは余裕で回避を続けることが出来ていた。

 なるほど。まずは様子見といった所か。舐められているな。


「あの妖精——なんて速さだ」


「バチャモンってあんな自在に飛び回れるものなのか?」


「ていうかローレライのバブルマシンガンを避けることのできるバチャモンなんて初めてみるぞ!?」


 あ、あれ?

 ギャラリーの皆様はどうして驚いているの?

 ピクシーの動きは別に特筆してすごいものでもないはずなのに……

 水野さんもなぜか目を見開きながら驚きの表情を俺に対して向けている。

 周りとの温度感を怪訝に思いながら、俺は反撃のタイミングを計ることにした。







    【main view 水野スミカ】



 先手必勝、ローレライの初手バブルマシンガン。

 初見の相手には絶対を誇るいつもの私の勝ちパターン。

 そのはずが……


「(な、なによ、あれ……)」


 バブルマシンガンはその名の通り高速で放たれる水の銃弾だ。

 一撃打ち込まれるだけでも相手のバチャモンは致命傷。

 それが連射で放たれるのだ。

 無敵。不敵。必勝。

 相手が強いか弱いかなんて関係ない。

 相手の強さを図るまでもなくいつも私は勝利しているのだから。


 でもなんだこれは。

 銃弾を『かわせ』なんてめちゃくちゃな指示を出すこのトレーナーはなんなんよ。

 それを余裕でこなしているこの小さなバチャモンななんなのよ!?


 このままでは埒が明かない。

 ローレライに別の指示を与えないと……!


「ローレライ! えと……んと……」


 まずい、いつもバブルマシンガンだけで勝っているものだから他の戦術が思いつかない。

 そうだ! 別の技! バブルマシンガンが駄目ならば別の技で対応すればいいんだ!


「ローレライ! アクアウイング!」


 相手のピクシーと同じようにローレライの肩後ろに水色の翼が生えた。

 そのまま相手のバチャモン目掛けて真っすぐに飛翔する。

 高速飛翔による翼の体当りで敵に大ダメージを負わす物理特化のわざなのだけど——

 ダメだ、相手の方が圧倒的に速い。攻撃が届かない。


「——ピクシー、『ひっかく』だ」


 ——えっ?


 『ひっかく』

 バチャモンが初期で覚えている技の一つ。私のローレライも最初覚えていた。


 バチャモンは技を4つまでしか覚えることができない。

 故に新しい技を覚えたら真っ先に忘れさせる候補でもある。


 ここで私の中に一つの仮説が生まれる。

 もしかしてこのトレーナーは初心者ではないだろうか。

 技を5つ以上覚えたことのない素人だからこそバチャモンに『かわせ』とか訳の分からない命令を飛ばした。

 バブルマシンガンをかわすあのスピードは厄介だけど、きっとそれだけだ。

 ここで初期技を選択したことが手の内を明かしたといっても過言では——


 ビヒュォ!!


 手のひらサイズのバチャモンが繰り出した『ひっかく』は宙を空振り——

 空振りによって生じた膨大な風圧が鋭利となり、ローレライの水の羽を無惨に切り裂いていた。

 切り裂かれた水の羽根が雪のようにヒラヒラ宙に舞っている。


「……は?」


 何が起こったのかわからず、私はしばらくその場で呆然と立ち尽くしてしまった。







【マスターランク】 レッド様実況スレ ver.45 【現代に蘇った悪魔】


 名無しさん667:

 レッドの動画みてきたわ・・・なにあれ・・・


 名無しさん668:

 なんで『ひっかく』で鋭利カッターが飛んでいくん?

 いつからひっかくは遠距離技になったんだよwww


 名無しさん669:

 悪魔の使い魔だからとしか言いようがない


 名無しさん671:

 あのちっこい妖精みたいなバチャモンなんであんなに強いの?


 名無しさん672:

 まず対戦相手はあの愛らしい見た目に騙される

 恐るべき悪魔が使役する使い魔ということを念頭に入れておかないと話にならない


 名無しさん673:

 ていうかどの動画もわざ1個しか使ってないんだが

 あとの3つはどんな凶悪なわざなんだ?


 名無しさん674:

 ピクシーたんのわざは未だ2つしか知られていない。

 わざを4つも使う必要なく勝つからな赤覇王は


 名無しさん675:

 2つめのわざってどんなの?


 名無しさん676:

 聞いて驚くなよ・・・

 『たいあたり』だ







「ピクシー。もう一度ひっかくだ」


 今度は鋭利の刃を飛ばすひっかくではない。

 その名の通り、相手の身体を引き裂く物理型ひっかくだ。

 ピクシーは空で大きな半円を描くように下降し、尖らせた爪を真っすぐに立てる。

 その光る爪はローレライの右足を掻き——

 ローレライの右足が『消えた』。

 これはあまりにもダメージ量がでかすぎるときに生じる映像バグであり、ピクシーのひっかくを浴びたバチャモンは大抵こうなってしまう。


「う……うそ……!?」


「勝負あったかな。これでもうローレライは動けない」


「ま、まだよ! ローレライ! 水の癒し!」


 地中から大渦が現れ、負傷したローレライの右足箇所に水がまとわりつく。

 これは——!?


「消えた足が……再び現れた!? まさか再生したのか!?」


 自己再生技はバチャモンでは珍しくない。

 だけどあれ程の大きな負傷をこんな一瞬で治された経験は一度もない。

 なるほど。これが県大会入賞者の実力。 

 どうやら一筋縄ではいかない相手のようだ。


「ピクシー! 距離を取りながら遠距離用『ひっかく』!」


「ひっ!? ローレライ! アクアバリア!!」


 先ほどローレライの傷を癒していた大渦が今度はローレライの身体全体を覆い隠す。

 どうやら防衛用の技のようだ。

 でもピクシーのひっかくの前にはこんなバリア無意味に等しい。

 三日月形の鋭利の風圧カッターが水のバリアをあっさりと破った。


「ローレライ! もう一度アクアバリア! その後すぐに水の癒し!」


 バリアでひっかくの威力が軽減されてしまい、ローレライに致命傷を負わすことができない。

 その上すぐに回復を施され、新しいバリアも張り直されてしまう。


 なんてやっかいな……

 いや、なんて攻略しがいのある相手なんだ。


 どうやら俺はお相手を舐めていたようだ。

 この相手は強い。

 相手の強さを認識できた瞬間、俺はつい嬉しくなって口元で笑みを浮かべていた。


「ピクシー。遠距離ひっかく」


 先ほどと同じように風の刃を飛ばす。


「その攻撃なら……なんとか耐えられる!」


 そう——水野さんの言う通り耐えられてしまう。

 この相手を倒すには『ひっかく』では駄目なのだ。


「ピクシー。風の刃の後ろの位置を飛べ」


 ピクシーは俺の指示通り、自分で繰り出した刃のすぐ後ろにピッタリと張り付くように飛翔する。


「な、なによ!? その指示!?」


 トレーナーの指示というのは基本技名を選択するだけのものであり、それがスタンダードだ。

 でもそれだけではレート戦では勝てない。

 技だけでなく、より細かい指示を出してあげなければあっさりと敗戦してしまう。


「ピクシー。風の刃が水のバリアをやぶった瞬間に——」


 俺が指示を出す前からピクシーは小さく微笑み、俺に頷いてみせた。

 さすが相棒。俺がやりたいことなんてお見通しってわけか。

 苦笑し、俺はこのバトルにて最後の指示をピクシーに与えることにした。


「——『たいあたり』だ」


 技の指示と同時にピクシーの羽根から赤色の光が放たれる。

 眩い赤光は形を作り、球状となってピクシーの身体全体を包み込む。

 その赤光から放たれる熱量は激しく、サウナのような熱気がピクシーを中心にして噴出される。

 それはまるで熱を帯びた大筒の球。

 ローレライのバブルマシンガンが水の散弾銃ならば、ピクシーのたいあたりは炎の大砲といった所だろうか。

 連射はできないが一発限りのロマン砲。


 先行した風の刃がローレライのバリアを粉砕した瞬間——

 赤光の膜に覆われたピクシーが加速度を上げて、ローレライの胴元へと突進——


 次の瞬間には手のひらサイズの大穴がローレライのお腹に広がっていた。



『サトル選手が勝利しました。報酬としてスキルポイント160が付与されます』



 戦闘不能状態にローレライが陥ると、字幕アナウンスが俺の勝利を知らせてくれた。

 ふぅ、と一息吐いて俺は水野さんの近くへ歩みを勧めた。


「対戦ありがとうございました。今のバトルすごく勉強になりました」


 今の対戦は本当に勉強になった。

 防御技の重要性、回復技のやっかいさ、それをどう破るかを問われる判断力。

 久々に充実したバトルを繰り広げることができ、テンションが上がった俺はつい水野さんに握手を求めてしまった。

 水野さんは口を半開きにしたまま反射的に俺の手を軽く握る。

 わわ、手小さっ!? 手柔らか!? えっ? 女の子の指ってこんなに細っそいの?

 握ったら潰してしまいそうな柔らかさにドギマギしながら、俺は慎重に彼女の手を握り返した。


「そ、それじゃ、俺はこれで。ピクシー、ボールに戻れ」


 同年代の女の子と握手したことで気恥ずかしくなり、俺は逃げるようにその場から去ることにした。

 さっさと家に帰って、スキルポイント振り分けでもしよう。

 160ポイントも付与されたなら『ひっかく』と『たいあたり』に80ずつ振り分けで強化させるのが無難かな。

 そんなことを考えながら帰路に付く。

 この時の俺は、先ほどのバトルの余韻から抜け出せない多くのギャラリーの怯えた視線に気づくことができなかった。

✿読んでくれてありがとうございます✿


本格的なバトルって初めて書いたのですがとっても楽しい。

早く次のバトルも書きたいです(*''▽'')


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