第1話 ネット最強のトップランカーがノラバトルをやってみた
『弱いなお前』
——約束があった。
『なんで初期技にこだわるんだよ。トレーナーと一緒で技まで最弱か?』
——二年半前。二人で交わした約束。
『俺様の最強技構成を少しは参考にしたらどうだ?』
——高飛車で、傲慢で、いつも俺を見下してくる幼馴染と。
『俺様はいつかこの街に帰ってくる。その時にまた再戦だ』
——再戦の約束を。
『それまでに最強の俺様にちっとは近づいておけよな』
——そして俺には野望もあった。
『んじゃな。自称ライバルさんよ。バイビー!』
——最強のコイツを初期技だけでぶっ倒してやると。
「いけぇ! 俺のモンスター! 『レッドパンサー!』」
「うわぁ!? お前のモンスター、めちゃかっけぇ!」
今、日本中で流行っているゲームがある。
バーチャルモンスター。通称バチャモンだ。
基本一対一でモンスター同士を戦わせるゲームであり、相手を倒すとスキルポイントが溜まって技を解放したり強化することができるようになる。
一見よくある対戦ゲームのように見えるが、それだけではここまで流行ったりはしない。
近年、ウイルスの蔓延によりパンデミックが起こった。
その対策の一手として政府は国民全員に布マスクを配ったことは記憶に新しい。
だが政府はそれだけに留まらず『もう一つ』国民全員に配った物がある。
それが『バチャモンボール』である。
国民に元気を取り戻してほしいという願いを込めて政府が用意した娯楽であった。
最初は政府ちょっと頭おかしいよね? と叩かれまくったのだが、遊んでみればこれがまためちゃくちゃ面白い。
今や歴然の大ブームとなっているのだ。
「レッドパンサーの小指でつつく攻撃!」
「うわぁ! お前のモンスター、めちゃかっけぇくせに攻撃手段がめちゃしょぼい!?」
バチャモンボールにはランダムで一匹のモンスターが入っている。
モンスターの種類は多様すぎて全何種類あるのかも判明していない。
大沢くんが繰り出したレッドパンサーのように迫力満点だけどそんなに強くないモンスターもいれば、愛くるしい動物のようなモンスターが凶悪攻撃を放つこともある。
もちろんバーチャル映像での戦いなので実際に被害はない。
「反撃だ。僕のバチャモン『金色サクレ』! ブリザードスプラッシュ!」
蓮田くんのアイスクリームに顔が映えたような可愛らしいモンスターが口から氷のつぶてを繰り出した。
放出された氷柱がレッドパンサーの爪を凍てつかせる。
「甘いぞ蓮田くん。炎タイプに氷の攻撃はこうかはいまひとつ。そんな攻撃では俺のレッドパンサーには傷一つ——うあぁ!? レッドパンサーの小指にしもやけができている!?」
「甘いのはそっちだよ大沢君。僕の狙いは最初からレッドパンサーの指を冷たさでふにゃふにゃにさせることなのさ」
とまぁ、こんな感じで非常に自由度の高いのがこのゲーム。
政府もたまには良い税金の使い方をしてくれるなと思いながら俺は放課後の学校を後にした。
『ねぇ、サトルくん。今日もレートバトルしないの?』
バチャモンボールから俺のモンスターが顔だけひょっこり出して問いかけてくる。
「うん。ていうかしばらくはレートには潜らない」
『なんでなんでなんで!? なんでバトルしないの!? サトルくんもバトル大好きだったじゃん! 戦闘狂だったじゃん!』
「バトル大好きすぎて俺がレート戦でなんて呼ばれているか知ってる?」
俺はネット上のレートバトルを主に日々バトルを楽しんでいた。
バーチャルモンスターという名前だけあって当然インターネット対戦も可能なのだ。
プレイヤーとバチャモンは仮想空間に誘われてVRでバトルを行い、その戦績によってランク値も上がっていく。
俺は『レッド』という名前でエントリーし……その……ちょこーっとばかりのめりこんでしまい、最上位のマスターランクでチャンピオンとなってしまっていた。
曰く——心を折られたくなかったらあの戦闘狂に当たったら回線切断すべし。
曰く——バチャモンで無双するために生まれてきた男。
曰く——もう殿堂入りとしてシロガネの樹海へ幽閉すべし。
「ついたあだ名が『赤覇王』。本当にどうしてこんなことになったんだ」
『睡眠時間削ってレートに潜り込んでいたからでしょ』
レート戦はしばらく控えておこう。
てことはノラバトルか。
ノラバトルはそこらの通行人に勝負を仕掛けてバトルする方式だけど……
知らない人に声を掛けるのって無理ゲーじゃない?
目が合えばバトルスタート! なんてゲームの中だけの話だ。
バトルするには互いの同意を得ないといけないのだ。
『ほら。頑張りなさい。コミュ障ぼっちを治す良いキッカケじゃないの』
「わ、わかったよ」
俺は道の真ん中でキョロキョロ辺りを見渡して一緒にバトルしてくれそうな人を探す。
出来たら同年代か年下がいいな。大人に話しかけるの本当無理。
てか傍からみたら俺不審者過ぎない? バトル相手よりも先に警察が先に話しかけてこない?
「——誰か~! 私とバチャモンバトルしませんか~!? ねえ誰か~!」
不意に後方から女の子の声が耳に入ってきた。
なんて僥倖。
「…………」
『あの、サトルくん? どうしたのよ? あの子とバトルする流れなんじゃないの?』
「い、いや、俺みたいな陰キャがあんな可愛い女の子に声を掛けていいものかどうか本気で悩んでた」
『向こうから話しかけてきてほしがっているのにそこでヒヨってどうすんのよ!』
「わ、わかっているけどさ……」
陰キャ舐めんな?
こちとらクラスメイトとすら何ヶ月も会話してないんだぞ?
そんな風に卑下に浸っていると——
「——ねえ。そこのあなた」
「えっ?」
先ほどの女の子がいつの間にか俺の目の前にまで近寄ってきていた。
栗色のショートヘアをサイドで纏め、目がクリクリと大きく見開かれている。
夏らしい露出多めな服装に思わずドギマギしてしまった。
うわ。うわ。目の前で見るとめちゃ可愛い。
「私と同年代くらいの人かしら? もし良かったら対戦どう?」
「う、ううう、うん! ぜ、ぜぜ、ぜひお願いしますぅ!!」
バカみたいに声が上ずってしまった。
相手の女の子もちょっとビックリしている。
ざわ……!
なぜか俺ら二人の周りにギャラリーがワッと湧き出してきた。
えっ? なに?
ざわめき声の方向へ耳を澄ませてみる。
「——あの女の子ってもしかして……」
「——ええ。おてんば半魚人のスミカちゃんだわ」
「——県大会で好成績を収めたっていうあの!?」
県大会?
えっ? もしかしてバチャモンって公式大会とかあるの? 普通に知らなかったんだけど。
しかし、なんだよおてんば半魚人って。俺の『赤覇王』も含めてだけどそういう二つ名って誰が考えているの?
「対戦受理ありがとう! 言っておくけど私——強いわよ?」
「よ、よろしくお願いしますっ!」
こうして大衆に囲まれた中で俺のノラバトル復帰戦が始まった。
【マスターランク】 レッド様実況スレ ver.45 【現代に蘇った悪魔】
名無しさん143:
最近赤覇王いなくね?
名無しさん145:
確かに
もう4日くらいみてないな
名無しさん146:
あのバトル狂が4日も姿を現さないって異常事態だぞ
もしかして病気か?
名無しさん149:
レッドは最初からバトル狂い病にかかっているぞ
名無しさん150:
じゃあバトル病が悪化して入院しちゃったのか
名無しさん152:
ごめん 初見なんだが赤覇王とかレッドとかって誰のこと?
名無しさん153:
>>152 狂人
名無しさん154:
>>152 ちきう上で一番バチャモンが強いヤツ
名無しさん155:
>>152 現マスターランクトップランカー『レッド』
あまりにも覇道が過ぎるんで『赤覇王』って呼ばれちゃってるやつ
名無しさん157:
真面目に公式戦のチャンピオンとどっちが強いんだろ
名無しさん157:
あー、ワタリか。
あのドラゴン使いも相当チートだからな……
お前らどっちが強いと思う?
名無しさん158:
レッド
名無しさん159:
赤覇王
名無しさん160:
赤覇王に1億ぺそ
名無しさん162:
いやいや いくらレート1位とはいえ現チャンプには勝てんやろ
よくて善戦できるかどうかじゃね?
名無しさん163:
>>162 初見さんちーっす!
名無しさん165:
>>162 レッドのバトル動画そこらに転がってるから一度見てみな チビるから
名無しさん166:
俺 一週間前に初めて戦ったけどガチでチビったわ 悪魔だろアレ
名無しさん167:
おれもトラウマだわ
二度と対戦したくない
「私は水野スミカ。そしてこの子が——」
水野さんは真上に大きくバチャモンボールを遠投する。
飛翔する最中にボールがパカッと開き、水野さんのバチャモンが姿を現した。
「私の相棒——ローレライよ」
水しぶきを荒立てるエフェクトと共に人型に近いバチャモンが現れる。
顔は美しい人間の女性でありながら、肩から下は魚の鱗のようなもので着飾られていた。
まさに人と魚の融合体。
「なるほど。だからおてんば半魚人か」
「その二つ名本当にやめて!? 可愛くないから!」
やっぱり本人は気に入ってなかったか。なんで名付けた人は半魚人の所を人魚とかにしてあげなかったのだろう。
「さっ、キミ達も自己紹介してよ」
「ああ。俺は真辺サトル。そしてこっちが——!」
俺も水野さんと同じように真上にバチャモンボールを遠投した。
水野さんの時より手前で失速する。えっ、俺の遠投って女の子より飛ばないってマジ?
「……俺の相棒——ピクシーだ」
手のひらサイズの小さな妖精。それが俺の相棒である。
金色のロングヘアーと虹色の羽がチャームポイントの小型タイプの妖精バチャモンである。
「か……かわいいいぃ!!」
水野さんが目を輝かせてピクシーを舐め回すように見ている。
その視線から逃げる様にピクシーは俺の背中に姿を隠した。
恥ずかしさで逃げ回る姿はとても愛くるしく、ギャラリーも思わず微笑んでしまっていた。
「あらら。背中に隠れちゃったわね。ねえ、その調子で大丈夫なの? その子ちゃんとバトルできる?」
「ああ。バトルになれば戦場から逃げたりしない子だから大丈夫」
「でも……その……こう言ってはアレだけど……あまり強くはなさそうね。私、手加減とか苦手だから」
うーん。やっぱりそういう反応になるよね。
ピクシーは愛くるしさに全振りしたような見た目故によく対戦相手から舐められる。
まぁ、舐められる要因はトレーナーの俺がなよなよしているせいもあるのだろう。
「大丈夫だ。手加減されるほど柔じゃない。それに——」
俺は眼光を鋭く研ぎ澄ませ、狩りを始める前の漁師のように殺気を纏った覇気を水野さんとローレライに向けて放った。
急に雰囲気が変わった俺の迫力に圧され、思わず一歩下がってしまう水野さん。頬に一筋の汗が垂れる。
「——手加減できないのは俺も一緒だ。負けても泣くなよ。おてんば半魚人」
初めまして!
「にぃ」と申します。
読んでくれてありがとうございます!
普段はラブコメばかり書いているのですが、この度新しいジャンルに挑戦したいと思いましてモンスターバトル物を立ち上げることに致しました。
成り上がり、主人公最強などスカっとする要素もたくさん盛り込んでいこうと思います。
稚拙な所もあるかと思いますが、末永くお付き合い頂けると幸いです。
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今後も当作品をよろしくお願い致します。