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EP:07

「レイニー、君は薬物中毒者か?」


……は?

びっくりして、キョトンとした顔をしてしまった。


「メノールから半年分の鎮痛剤が欲しいとの報告が入っている」


続けて彼は言った。


「更に先ほど、シュラクから鎮痛剤を貰った直後に飲んだそうだな」


あ……

確かに。そういえば薬の成分に「ネル」が入っていたのを思い出して、そう思われても仕方ないかと思った。

ネルは長期間の使用で中毒症になる、乱用すれば幻覚作用なども引き起こす。


「何か弁論はあるか?」


ふふっと笑って答える。


「説明不足でしたわ。誤解させてしまい申し訳ありません」

「誤解だといいがな。荒療治も考えているよ」


まぁ怖い。普通の女性にそんな脅迫したら泣いて出て行ってしまうわよ。


「そうですね……ジャックは私の事をどこまで知っていらっしゃいますか?」


彼は仕返しか?と、言いたげな顔で答える。


「優秀な神の遣いで、奇跡の扱いも一流、それから今は俺の犬、くらいだな」

「よくご理解頂けていて嬉しいです」


続けて答える。


「ご存じの通り、私は国に仕えております。カーソン家は代々魔法操作を得意としており、魔道具の製作も一任されております」

「それは知らなかったな」

「ジャックがお使いのそれも恐らくカーソン家が作ったものでしょう。私ではありませんが」

「国からの支給品だ」

「魔道具は全て国が管理しております。その中の一つでしょう」


彼は琥珀石に目を向けた。


「それで?それと薬に何の関係がある」

「ジャックは察しが悪いですね」


わざと呆れたような顔で言ってやった。あーちょっとスッキリ。

ピクッと眉毛を動かした彼はこちらを向いて、少し悲しそうな、でも笑顔で言った。


「レイニー、あまり意地悪を言わないでくれ」


一瞬怯んだ。だってそんな素敵な顔でそんな事言われるなんて思わなかった。

耐性のない私はそんな一言とそんな仕草でちょっとドキッとするのだ。


こいつ、自分の事をよく分かっている。

こほんっと、わざとらしく咳払いをしてから発言する。


「魔道具の製作はとても危険な行為です。失敗すれば最悪、奇跡が使えなくなります」

「つまり、レイニーは魔道具を作ったという事か?」


「そうです。そしてミスしました。結果的に、私は今左腕に痛みが生じています」

「そうか、優秀だと聞いていたが」


ちょっと嘲る様に、彼は笑った。


「はい、とても難しい魔道具でしたので」

「どんな魔道具だ?」


まぁそうなるか、と思ったが未だ保留の懐中時計は渡せない。


「それは依頼内容に沿うもの、ですわ」


笑顔で返す。


「そうか、それで、痛みは半年続くのか」

「察しが良くて助かりますわ。実際にはもう少し長いかも短いかも分かりません」

「随分曖昧だな」

「治療は本人の回復力以外にありません。経過もまちまちです」

「うちには優秀な医者が揃っているが」

「申し訳ありません、そういう事では無いのです」


彼は少し考えた後、奇跡に関係する事なのだろうと理解した様だ。


「わかった。それならいい。報告にも薬物中毒者とは記載がなかった」

「ご理解いただけた様で助かります」


「左腕を負傷している、との記載もなかったが」

「女性に秘密は付き物ですわ」


ニコリと笑って返す。


「まぁいいだろう。それで、何か言いたいようだが?」


何のことだ?と思考する

まぁ言いたいことは沢山ある、演技派ですね、とか。


「ジャック、何のことだか分かりかねます」


本当に何のことか分からない。


「そうだな、では一つずつ確認していこうか」


「はぁ」とため息をついたジャックは続けた。


「侍女はどうだ。気に入ったか」


あー、なるほど。という事は誰かから報告が入ったのかな?

つまり屋敷の全員が敵、というわけじゃなさそうだけど


「メノールの事ですか?とてもよくして頂きました」

「そうか、では今日は誰に手伝ってもらった?」


うーん、困った。恐らく私の髪型が目についたのだろう。

公爵家であれば、常に身なりに気を使わねばならない。

上流階級であれば尚更である。不測の事態に対処できなければならない。

公爵家に仕える使用人がそれを知らないはずがない。

そういった対応も教育されているはずだ。


「お目を汚してしまいすみません。実は、着いてから左腕が痛みましたので自室で休ませて頂きました。侍女には自分で準備をするからと、手伝いは遠慮させて頂きました」


ジャックはなるほどと、まぁそういう事にしておくかという顔をした。


「わかった、何かあれば伝えてくれ」

「大丈夫ですわ。ありがとうございます」


まぁ、秘密にしてほしいといった薬の件だとか、準備を手伝ってくれなかった件とか、呼んでもこなかった件とか、

そのうち改善するだろうし、そんな事を告げ口する方が嫌われる。

今はそっとしておこう。彼女達の気持ちは大いに分かる。


ジャックは少し言いにくそうに、次の話を続けた。


「……それで、21時以降の話だが」


何か問題があったかな? 日課をしようと思ったのだけど。


「はい、少々やることがございまして」

「……」


「すみません、何か不都合がありますでしょうか?」

「いや、そういう事ではないんだが」


なんだ?歯切れが悪い。何か問題があるかな?

ジャックの言葉を待ったが、何も言わない。

本当に何も分からないのか?という顔をしてくる。


「すみません、不都合であれば止めますが」

「いや、君が何をしていようと構わない。自由にしてくれていい」


では何が悪いのだろう?

沈黙が流れる。諦めたように彼は説明した。


「俺たちは契約婚ではあるが、仮にも夫婦だろう」

「そうです」


私の言葉を待ちながら、彼は続ける。早く理解してほしそうだ。


「では、21時以降部屋に入らないでほしいというのは、周りからどう見える?」

「……?」


二、三時間くらい自分の時間があってもいいのでは?

さっきからなにを言いたいのか分からない。伝えたい事は簡潔に、明確に話してほしい。


彼はまた「はぁ」とため息をついた。

結局全部言うのか、という呆れた声だった。


「私たちの関係が、おかしく見られるだろう」


……!

そうか、そうだ、やっと理解した。その通りだ。

理解して少し顔が熱くなる。恥ずかしい。


「……すみません、理解致しました。取り下げます」


分かってくれたか、という顔だ。


仮にも夫婦。この契約婚は私たち二人と、陛下と、私の家族と、後数人しか知らないだろう。

それなのに、21時以降の立ち入り禁止は、妻が夜の営みを拒否している様に映るだろう。

旦那様にも伝えると、メノールが言った時に何も反論しなかったからだ。


大問題だ。使用人たちに更に不審がられただろう。


厳しく躾けられているはずの使用人、仮にも妻の侍女であるメノールは更に優秀であろう。

そんな彼女だからこそ、私の態度に、随分と信頼を失くしたのだろう。

本来なら、当主の妻に対し、ボイコットの様な行動は首が飛ぶ程の処罰を受けるはずだ。

それでも、彼女は当主ジャックに対する忠誠を示したのだ。

貴方(私)の行動は、ワイルズ家に対する侮辱であると。


これは私の失態だ。後でメノールにはきちんと説明をする必要がある。

彼女には申し訳ない事をした。


「別に無理強いしたいわけじゃない。だが、形は取り繕う必要がある」

「そうですわね、その通りですわ」


「触れられるのが嫌だとか、何か俺に不満があるのか?」

「いいえ、何もありませんわ。ただ、日課の時間が欲しかっただけですの」


「日課?」

「えぇ、伯爵家にいた時からの日課ですわ。奇跡の鍛錬みたいなものですわ」


「そうか、わかった。それであれば夫婦の寝室を使えばいい。あの部屋は呼ばない限り、使用人は入らない」

「ありがとうございます」


いまいち夫婦というのが理解できていない。

この間まで人間関係を壊してきた方の人間だ。

知識では理解しても、実感があまり湧いてないのも原因だ。


「ジャック、すみません。あまり実感が湧いてなくて、ご迷惑をおかけしましたわ」


ジャックはワインを飲んでこちらを見る。


「そうだな、もう少し優秀だと助かる」


そう言って彼は琥珀石を手に取り、ポケットにしまった。

防音障壁がなくなる。


彼は笑顔で、続ける。


「また何かあれば遠慮なく教えてください」

「はい、お心遣い痛み入ります」


彼は使用人を呼び戻し、次の料理を運ばせている。

それからシュラクに何かを耳打ちしていた。


まずい、そろそろ髪色の効果時間が切れる。


まだ食事の時間が続く。


これ以上腕に負荷をかけたくないし、魔力もほとんど残っていない。

かといって髪留めは手元にない。

食事の途中で退出するのはマナー違反だし、そんな事も知らずに嫁いだと思われたくもない。

これ以上使用人への印象を悪くしたくない。


どうしようどうしよう。

ジャックが話を続けてくれるが、頭に何も入ってこない。

適当な相槌で乗り切る。


考えた末、結論を出した。

仕方ない、こういう時に頼るのは、話術と、色気……!


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