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EP:05

自室だと案内された部屋はとても美しかった。

流石公爵家、ベッドの大きさも、インテリアも、全てが高級品であろう事が分かる。


「全ての荷物はお部屋に運んでおります。何か他に必要なものがあれば使用人に声をかけていただければ用意致します。」

「何から何まで感謝いたします。ありがとうございますわ」


失礼致します。と、シュラクは部屋を出て行った。


一息ついて、思う事は一つ。


冗談じゃないわ!!!!!!

冷めやらぬ興奮を胸に、荷物の整理をまとめる。


確かにちょっと、ちょっとよ?

優しいイケメン公爵様とのラブロマンスがあるかも……!

なんて夢みたいな想像したよ!

だって、沢山の令嬢が噂していた、あの公爵様よ?確かにいい噂は聞かなかったけど、、、

あの、公爵様が私をご指名なのかと思った!はっきりいって、期待した!


それが、想い人を探したいだぁ?どうでもいいわ、勝手にやってろ!


そもそも私暗殺者だし、全然、護るとか専門外だし!!

もう意味わからんすぎて腹立つ。まじでムカつく。

何が人格者だ!私の事なんっにも考えてないじゃない!

なんなのあの腹黒公爵!!もう最悪!!!!


この気持ちをどこにぶつければいいものか、荷物を扱う手に力が入る。

ズキズキと腕が痛んだ。


「いたい……」


忘れていた。今朝の鎮痛剤の効果が切れた。

当分はこの痛みと付き合わなければいけない。


後で鎮痛剤もらわないと……。


そう思って痛む腕を庇いながら荷物をまとめる。

痛みのおかげで良くも悪くも、少し怒りが落ち着いた。


荷物の中に黒い箱を見つけた。


あ、そうだわ、懐中時計……


中には魔法陣が描かれた懐中時計が入っている。昨夜寝ずに作った魔道具だ。


どうしようかな……せっかく作ったしなぁ……


護衛であれば必要になる気持ちと、なんであんな奴に、という気持ちで葛藤している。

とりあえず一旦保留として、机の中にしまっておいた。


さて、少し気持ちも落ち着いた所でアメリア宛てに手紙を送ることにした。


『オニキスの月が沈む時、道足りる事なかれ』

(公爵様の想い人を探せ)


手紙の内容は簡潔に、目的だけを明確にする。


本来は魔法で送るところだが、今は極力使用を避けたい。

外に出たときにでも送ることにした。


とりあえず、当面の目標はジャックの想い人を見つける事。

奇跡は本人ができてないと言えばそれまでだし、100年に一度の奇跡の再現なんて見当も付かない。

どちらも気長にやっていこう。契約がすぐに切れる事はないのだから。


それから、ジャックの妻として振る舞わなければならない。

全く不本意ではあるが、公爵家と伯爵家では格が違う。


仕事で付け焼刃のマナーを身に着けた事は何度かあるが、流石にきちんと教育を受けるべきだ。

専門の教育係の手配をお願いしなければ。


領地経営も学ばなければいけない。

ジャックの言う「その力を遺憾なく」が、どこまでを指すのか分からない。

表社会の評価を変えない為にも、出来る部分はやっておきたい。


その他にも、護衛に関する知識とか、誰に狙われているのか調査するとか、陛下にも話を聞きに行かなければいけないとか、

やるべき事が沢山あるなと、ため息をついた。

扉からコンコン、とノックの音がする。


「はい」


返事をするとドアが開く。


「失礼致します。奥様の専属メイドをさせていただきます、メノールと申します。宜しくお願い致します」

「初めまして、メノール。よろしくお願い致しますわ」


彼女はお辞儀をして、言葉を続けた。


「本日の予定はございません。夕食は19時頃、旦那様もご一緒されます。その後、湯浴みなど私どもでお手伝い致します」

「分かったわ、ありがとう。湯浴みは事情があって一人で入ります。これは前の家からの習慣なの。決してあなた達に後ろめたい気持ちがあるわけじゃないわ」


「かしこまりました。その他に何かご要望などはございますか?」

「教育係をお願い致します。相応しいマナーや領地経営も学ばねばなりません」


「かしこまりました。それでは旦那様に相談致します」

「ありがとう。それから21時以降は誰も部屋に来ないでほしいの。できれば緊急時以外はノックもしないで頂戴」


「かしこまりました。使用人含め、旦那様にも伝えておきます」

「求めてばかりで申し訳ないのですが、鎮痛剤を頂けないでしょうか?」


「かしこまりました。後ほどお持ち致します。どこかお怪我でもされているのでしょうか?」

「少し腕が痛むの。原因は分かっているから気長に治すわ」


「必要であればすぐに医者を呼びます。何なりとお申し付けくださいませ」

「ありがとう。でも大丈夫よ。多分半年くらい鎮痛剤を飲めば治るの。旦那様には秘密にしてくださいね」


メノールは少し困った顔をしていた。でもすぐにかしこまりました。と、了承してくれた。

流石できるメイドだわ、と感心した。


「また何かあれば声をかけさせていただきます」


そう伝えると、彼女はお辞儀をして部屋を出ていった。


ズキズキと腕が痛む。思ったより損傷しているのかもしれない。

はやいとこ鎮痛剤が欲しい。痛みに慣れているけれど、痛いモノは痛いのだ。


気を紛らわせたくて、それから昨日の寝不足も相まって、少しベッドで休もうと思った。

髪留めも外し、服装もラフな物に着替える。


髪留めを外した時、付与魔法が解けた。

レイニー本来の髪色である、美しい赤髪に戻った。


本来であれば自分で魔法をかけて、目立たない茶髪にするのだが、今は奇跡を使いたくない。

この部屋が監視されていない事は見て回って確認したが、誰かが入ってきたら咄嗟に髪留めを付けられないかもしれない。

何故隠しているのかと説明を求められたら面倒だと思い、結局簡単に髪留めを付けなおした。


薬をもらって少し仮眠しようと思い、侍女を待っていたが、一向に部屋に来る様子が見られない。


伯爵家の使用人とはいえ、さすがに突然現れた妻なんて、得体の知れない人を慕う気にはならないか。

使用人の気持ちはとても良く分かる。仕方ない。


鎮痛剤は諦めて、そのままベッドに横になった。髪留めは外した。

探知を使いたいところだが、更に腕を痛めたくない為諦めた。


ズキズキと痛む腕と、神経をすり減らして警戒した為うまく寝付けず、結局良い休息はとれなかった。


17時頃に目が覚め、あぁ、そろそろ準備をしなくては、と重たい体を起こした。

髪留めを簡易的につけて、ちょっとだけ期待して部屋のベルを鳴らしたが結局誰も来なかった。


それもそうだ、寝ている時も誰もこの部屋に寄り付かなかった。

相当嫌われてしまったのだろう。


仕方なく自分で準備を始める。

極力動きやすく、それでも品のある物を選んだ。

左腕がうまく動かない。痛みを我慢し過ぎて感覚がおかしくなっている気がする。

髪の毛が上手くまとまらない。髪留めをすると不格好になってしまう。

このままではまずい。公爵家の妻の威厳が損なわれる振る舞いはしたくない。

使用人に、1人では何もできない世間知らずのお嬢様と思われるのも避けたい。

これ以上、醜態を晒して嫌われたくはない。



どうしようかなと考えたが、良い案が浮かばない。

体調のせいもあり、思考力も鈍る。


結局、一番手っ取り早い奇跡に頼る。激痛に耐える選択だ。

効果は3時間。

鎮痛剤を貰えば何とかなるからその間くらい我慢しよう……

そしたら戻ってきて、髪留めをつけてから食事に行けばいい。


意を決して、魔法陣を描く。髪色と、時間を指定した。

時間を指定する事で魔力の消費量を節約する。

昨日からあまり休息を取れておらず、魔力が十分に回復していないからだ。


奇跡を発動する。髪色が赤色から茶色に変化する。

左腕が大きくズキンッと痛んだ。まるで針で神経を刺激されたような。

思わず片膝が床についた。


結構痛みには強い方なんだけどなぁ……。


ズキンズキンと痛む左腕を支えながら部屋を出た。


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