EP:29
それから数日後、ようやくメノールから調査報告書が届いた。
待ってました!
込み上げる焦燥を押さえつつ、すぐさま報告書に目を通す。
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「進捗無し」
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「……」
嘘でしょう……?
何が起きたの。
ありえない。
なぜ、こんな報告書になるのか。
――ありえない、ありえない。
そんなことが本当にあるの?
いいえ、恐らくない。
なぜ、今回に限ってこのような結果に至るのか。
今まで、こうした報告が上がってきたことは一度もなかった。
アメリアはとても優秀な人材だ。
指示の内容を取り違えるとは考えにくい。
実際、今回と同様の形で依頼した案件はこれまでに何度もある。
つまり、アメリアは確かに調査を行ったはずだ。
ジャックの「想い人」について。
ジャックは最初に言っていた。
「ずっと探している女性がいる」と。
ならば、探している痕跡はあるはずだ。
しかも、表社会。
情報を提供した相手を口封じすることもできないだろう。
ゆえに、裏社会に比べれば、その痕跡ははるかに辿りやすいはずだ。
痕跡さえ掴めば、そこから手綱を手繰るのはそう難しいことではない。
つまり、アメリアは調査を遂行し「想い人に関する情報」を手にしたはずなのだ。
そして、最終的に「私には伝えられない」と判断した。
そう結論づけるほかない。
何故?
分からない。考え得る可能性……
極めて低いが――
「対象が神の遣いであると、アメリアが気づいた」
意外に考えられない。
他の可能性……
たとえば、対象が私にとって不利益な人物であった?
あるいは、皇帝陛下から口止めを受けた?
……本当に調査に進捗が無かった?
いいや、考慮に値しない。
可能性は低すぎる。
アメリアが私に報告できなかった理由が、どうしても分からない。
本当に?
本当に神の遣いであると気づいたの?
……。
仮に、もしそうだとすれば――
アメリアがその人物をすでに知っていた可能性が高い。
だからこそ、報告できなかったのだ。
アメリアが知る「神の遣い」が誰のことか、今は見当もつかない。
「対象が誰か」という推測は困難だし、それ自体が本質ではない。
問題は、結局何ひとつ分からなかったということ。
対象となる人物の情報が、一切、手に入らなかったという現実。
それが最大の問題だ。
自分で調査するには、自由になる時間があまりに少ない。
他の者に依頼するにしても……
二流、三流の手合いでは話にならない。
私が調査していることがジャックに露見すれば、不信を買うのは避けられない。
証拠を一切残さずに動ける人物でなければならない。
だが、正直なところ、自ら依頼をかけることなど、滅多にない。
さらに言えば、信頼に足る人物は過去にいたが、すでに引退している。
アメリアに頼み、一流を紹介してもらう以外打つ手はない。
その用途が「神の遣い」の調査であるならば、これもまた出来ない。
そもそも、アメリアが調べきれなかった可能性のある相手に対して、他の者が成果を上げられるとは到底思えない。
まともな報告書が上がってくるとも思えない。
――ああ。
解放条件が一つ、可能性が途絶えた。
流石に苛立ちを抑えきれない。
アメリアが悪いわけではない。
それは分かっている。
けれど期待していた分だけ、落胆もまた大きかった。




