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EP:22

ウォーロンに挨拶し、宝石店を後にする。

次の目的地は郵便局。


ジャックは多分、これ以上は付き合ってくれないのだろう。

帰ってこない気がした。


腕の痛みがピタッと止まった。


痛みがなくなったから、相手に届いた事が分かる。

別の意味で便利ね……。


メノールが声を掛けてくる。


「奥様、旦那様よりこの後はウェディングドレスの仕立てを、と仰せつかっております」

「そうね、それは日を改めましょう」


「かしこまりました」

「あら、理由が気にはなりませんの?」


「はい」


凄い。本当に素晴らしい。

その忠誠心に敬意を示しましょう。


「申し訳ないわね、不誠実な物言いをしてしまったかしら」


メノールは、沈黙を守ったまま答えない。


「先ほどのやり取りをお聞きでしたでしょう?

ウェディングドレスには、ひと工夫が必要です」

「左様でございますか」


「ええ。本音を言えば、黒のドレスを纏いたいのだけれど

――さすがに、それは我儘が過ぎるわね」


それは、私にとって理想的な演出ではある。

けれども、それが現実的でないことくらい、よく理解している。

もし、もっと時間があれば……とは思うのだけれど。


「それでなくとも、アンクライトの指輪の件で、多くの反感を買うでしょう。

時間もなく、しかも印象はマイナスからの出発点――。

その印象を覆すに足る一着でなければなりません」


メノールは、ただ静かに耳を傾けてくれている。


「公爵家の威信は、決して揺るがせにしてはならない。

そして、その矜持を守るに値する品を、誰かに提案していただかねばならないのです」


一息つき、メノールに視線を向けた。


「さて、メノール。あなたは一体、誰がその品を提案すべきだとお思いかしら?」

「恐れながら、どの店舗におかれましても、最高級品をご提示いただけるかと存じます」


――「何故なら公爵家でいらっしゃいますから」。

そう言いたいのね。


「では、あなたは“最高級品”であれば、品格は保たれるとお考えなの?」

「相応しい装いではあると存じます」


「ええ、確かに“相応しい”でしょうね。でも、それだけでは満たされないの」


メノールは黙したまま。


「私が求めているのは、“マイナスの印象を覆しながらも、公爵家の品格を損なわぬ一品”。

その条件を満たす提案をしてくれる人物を、私は知っております。

問題は、彼が現在どこにいるのかということ。そして、時間に限りがあるということです」


「直ちにお調べいたします。どのような人物でいらっしゃいますか?」


「彼の名はモランジュ・グランド。確か、子爵家の次男だったかしら」

「かしこまりました」


相手が男性であり、しかも子爵家の出であるというのに、何一つ眉を動かさぬとは。

驚嘆を通り越して、感服すべき態度ね。


「彼は私の学友でして、若くして類稀なる才覚を有しておりました。

彼であれば、私の求める一着を創り上げることでしょう」

「奥様がお認めになる方であれば、きっと並々ならぬお力をお持ちなのでしょう」


「ええ、とても素晴らしい人よ。

皆が納得せざるを得ない、そんな品をきっとご用意くださるはず」

「承知いたしました」


郵便局に着いて、アメリア宛てに手紙を出す。

それから薬屋に向かう。鎮痛剤の為だ。


「ところでメノール。私に対して、何か申し上げたいことはなくて?」

「特には、思い当たる節がございません」


表情は変わらない。ではやり方を変えよう。


「では、話題を変えましょう。私、ジャックと少々言い合いをしてしまって……。

どうすれば仲直りできるかしら?」


しばしの沈黙ののち、メノールが口を開く。



「奥様が傍らにおられるだけで、十分かと存じます」


「そう……。けれど、何か彼の好物でも贈りたいの。思い当たる節はあるかしら?」

「申し訳ございません。お力にはなれそうもございません」


「書斎には書物が山とございましたわ。本など、どうかしら?」

「嗜まれるかと存じます」


「では、お酒は? 専用のワインセラーを拝見しましたもの」

「嗜まれるかと存じます」


「お菓子はどうかしら? 食しているところは存じませんけれど、手作りであれば喜んでくださるかしら」

「それは、旦那様もきっとお喜びになるかと」


……駄目ね。結局、何一つ教えてくれない。

メノールにとって、主はあくまでもジャックなのね。


「そう……。では毒でも仕込んで、贈り物にしようかしら?」

「それは……」


メノールが、はっと口をつぐんだ。


「どうかなさった?」

「……いえ、なんでもございません」


「そう? では、本当にやってみようかしら」


今度は、一切の反応がない。

肯定も否定も、戸惑いすら示さない。


まだまだ溝は深そうね。


「冗談よ」


メノールともっと仲良くなりたいわ。

今後、彼女の協力は必要不可欠ですもの。

内心でため息をついた。


鎮痛剤の瓶を買い、他にやる事もないので帰宅することにする。

結局ジャックと合流することは無かった。


邸について、夕食の時間になってもジャックは帰ってこなかった。

明日からは遠征だと言っていたし、今日は帰ってこないのかもしれない。


次に会えるのは2か月後かな……?

そう思いながら夜を過ごした。

次は来週かも

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