EP:【ジャック視点】
修正するかも
ジャック視点
『こちらを見てください』
酷く冷たい声に、思わず反応した。
先ほどまでの愛くるしい彼女とは打って変わって、笑顔にも関わらず、危機迫るモノを感じた。
そして、彼女はそのまま笑顔で言う。
『例え、命に換えても』
その発言は、重みを感じた。
レイニーは皇帝陛下の命令に逆らえないのだろう、それは分かる。
だがしかし、そこまでの覚悟でなくても良いのでは、と思う。
レイニーのその言葉の重みに、何か意図を感じた。
レイニーは俺が何かを感じ取ったのを理解して、いつもの雰囲気に戻る。
そして『分かりますよね?この意味が』と、俺を脅す。
つまり、何でもする、という事か。
命を懸けて、俺の妻を演じ、俺を護ると。
そのやり方は、俺に準ずる必要はない、と。
確かに、彼女のご主人様は皇帝陛下だ。
その陛下の指示に”やり方”が指定されていないのであれば、彼女は手段を択ばない、と。
随分な言いようだ。
なぜ今、そんな事を言うのか。
『分からないな』
聞いても答えはもらえない。
つまり、彼女の任務遂行において、俺の行動が目に余ると、そう言いたいわけだ。
無下にしたつもりは一切ないが、彼女の求める夫像とかけ離れてしまったのか。
今のままでは任務遂行できないと。
……本当に?
もしかして、強硬手段にでます、と警告しているのか?
は、随分と傲慢だな。
『今まさに、破棄できるぞ』
『いいえ?できませんわ』
飄々(ひょうひょう)と答える彼女は、わざとらしい素振りで首を傾げる。
嫌な予感が、頭を掠める。
いや、そんなことあるはずない。
レイニーの事を見くびったのか?
いいや、彼女は従順だった。
そう、ここ数日の付き合いだが、彼女は年相応の愛らしい淑女の位置付けだった。
少なくとも、今朝まではそうだった。
嫌な予感は、外れるはずだ。
『教えてくれるか?』
そう言うと、彼女は愛らしい笑顔を見せる。
今は、この笑顔が憎らしい。
『それだけの価値が、私にはある』
心臓が跳ねる。ドクンドクンと脈が速く鳴る。
『貴方にとっての生命線を、私に教えてしまった』
『その意味が分かりますよね?』
背筋が、凍った。
動揺した。
その動揺を、表に出さない様に、顔に出さない様に。
何があった?
今朝から、この瞬間まで、彼女に何があった?
思考が答えを導き出さない。
考えても、直ぐに出てこない。
『レイニー、すまない、何を言っているか分からない』
情報が欲しかった。
何でもいい、何か、どうなっているのか、彼女の言葉からヒントを得たかった。
『ジャック、それも悪手ですわ』
そう笑う彼女は、少し残念そうだった様にも見える。
『契約を破棄して頂いて構いません』
レイニーから、破棄してもいい、なんて言葉がでると思わなかった。
なんだ、何故そんなことが言える?
レイニーは、逆らえないはずじゃなかったのか?
契約破棄は、皇帝陛下に逆らうことにならないのか?
契約が切れたら、問題ない、という事なのか?
前提条件が崩れる、頭が回らない。
はっきり言おう、冷静さを欠いていた。
気が気じゃなかった。
嘘だと言ってほしい。
「君」の事じゃないと、そう言ってほしい。
確かに、女性を探しているとは言った。
だがそれ以外の情報は与えていないし、仮に昨日の話から推測したのだとしたら、それは考え過ぎだと言える。
仮にもし、仮にもしそうだったとして、何故レイニーは、俺の”生命線”だと位置付けた?
その女性を、何故”生命線”だと、俺の弱点だと紐づけた?
どこで失態を犯した?くそ、分からない。くそっ!!
『これ以上、無意味な探り合いが必要でしょうか?』
彼女の目は、まっすぐに俺を見つめた。
あぁ、彼女を見誤ったのは、俺か。
傍若無人な振る舞いも、従順な振りをするその姿も。
全て、俺を陥れる為の策だったのか。
国からの命令なのだろう。
俺の弱みを握れと、そう命令されているのだろう。
それもそうだ、希少な後天的魔力保持者。
実験したいに決まっている。
俺の価値は計り知れない。
だからこそ、俺は自分の切り札を事前に伝えたのだ。
そうすることで、自由を手に入れたつもりだった。
見誤った。
それにもかかわらず、舞い上がってしまった。
「君」への糸口に、焦った決断をしてしまった結果だ。
終わった。
下手に行動を起こして、「君」に危害が及ぶのは何よりも嫌だ。
完敗だ。
『私がジャックに求める事は変わりありません。平穏に、契約満了まで旦那様を演じて頂ければ構いません』
『お互いに、仲良くやりましょう』
その意味が、理解できなかった。
いや、厳密には、理解できた。
彼女の本気を示し、俺に協力を求め、そして、「君」を使って、俺を脅している。
今、この尋問は、彼女の任務遂行において必要な行動なのだろう。
彼女のその目に、他意は無いように思えた。
いや、それもそう見せているだけなのかもしれない。
そして、俺にはその意味が理解できていない。
王宮で俺を拘束し、拷問でもすれば話が早いのだ。
お得意の「奇跡」で自白でもさせればいい。
俺の切り札も意味をなさない。
その後は、多分そのまま研究されて終わる人生だ。
そして彼女は、晴れて自由の身だ。
だからこそ『仲良くやりましょう』の意味が分からない。
何故そうしない?
情か?情けか?
いいや、ありえない。
俺は最初から、彼女の人権を無視している。
飼殺し、するつもりか。
それとも、切り札がまだ機能しているのか。
もしくは、彼女は決定権を持っていない?
それか、決定打に欠けているか。
彼女は確かに口に出さなかった。
口ぶりは核心的だったが、まだ結論は出ていないかもしれない。
であれば、俺の反応は肯定的に捉えられたかもしれない。
失態だ。くそっ
分からない。彼女の意図が。
それでも、まだ、彼女はこの契約婚を続けるつもりでいそうだ。
多少の猶予はある。
くそ、くそっ、くそっ!!!
焦るな、慌てるな。
対策を立てろ。まだ彼女の掌の上じゃない。
自分で書いててなんだけど、想いがすれ違いすぎて草
いつになったら交差するの
こんなに長くなる予定じゃなかったんだけどなぁ




