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EP:19

修正:2025/05/10 DONE

やはり、私の予想は正しかった。


「一つ誤解していますが、ジャックが望めば契約は破棄できましょう」


「確かに即離婚というのは世間体が悪い。しかし、その程度」


「一時的な気の迷い、公爵家であるにもかかわらず、全くの痛手にはならない」


ジャックは私を見つめる。

早く答えを教えてほしそうだ。


「ですが、ジャックは絶対に破棄しない」


「それだけの価値が、私にはある」


意味が分からないという様に、言葉を待っている。


「ジャック、昨日を覚えていますか」


「貴方は私に「他の神の遣いについて」質問しましたね」


「あれは悪手でした」


「貴方にとっての生命線を、私に教えてしまった」


「その意味が分かりますよね?」


ジャックの表情は変わらない。

凄いですね、貴方の求める想い人に関することなのに。


「さて、これ以上の言葉は必要でしょうか?」


ジャックは変わらず反応しない。


あぁ、なんて御立派でしょうか。

直ぐにでも聞きたいでしょう。

気持ちに焦りはありませんか?本当に?


「レイニー、すまない、何を言っているか分からない」


ジャックの声は冷たい。


それは、私に二つの事を聞いていますね。


何を持って、それを「確信しているのか」でしょうか?

それについて、「何を知っているのか」でしょうか?


ふふ、可愛いですね。


「ジャック、それも悪手ですわ」


ジャックは答えない。


「そうですか、では契約を破棄して頂いて構いません、お好きになさってください」


「決まったら早めに教えてくださいませ、公爵家のマナーは、今後必要にありませんもの」


冷たい声で、冷たい表情で伝える


「言っただろう、契約は破棄しない」

「何故?ジャックにとって、私は都合が悪いでしょう」


ジャックは答えない。

それも悪手だ。私の発言を肯定している。

それは、本人も分かっているだろう。


「これ以上、無意味な探り合いが必要でしょうか?」



この交渉は、私の勝ち。

何故なら、私は何一つ、嘘を付いていない。

確信を話していないだけで。


それに対して、ジャックは回答を持たない。

そして、それが私の発言が全て真実であると肯定している。


やはり、そうか。

“ジャックの想い人は神の遣いである”


そう考えれば、辻褄が合うのだ。

最初からあった違和感も、急に態度が変わった理由も、ジャックがこの契約を結んだ理由も。


そしてこれは、私の切り札となる。




「今度は私が言いましょう」


「ジャック、私は良い旦那を貰って幸せです」


私がニッコリと笑えば、ジャックも、笑顔で返してくれる。

あの日と、立場が逆転して。



私は皇帝陛下に縛られている。

ジャックは想い人に縛られている。


お互いが、この契約婚に縛られている。




思い返せば、最初からおかしいのだ。


後天的魔力保持者、国が管理するのは当たり前だ。

しかし、ジャックはその管理に対し、異議を唱えていい。


そもそも、イレギュラーな事態に国も直ぐの判断が出来なかったはずだ。

しかし、ジャックが「女性を求める」という形で、管理できる事になった。


あまりにもおかしい。

「都合のいい女性」と引き換えにしては、あまりに代償が大きすぎる。


つまり、ジャックは、国の管理下に置かれる事にメリットがあった。


どんなメリットがあるか、答えは昨日、ジャックが教えてくれた。

ジャックは知っていた、求める女性が”神の遣い”である事を。


だからこそ、妻として、護衛として、私を受け入れた。


神の遣いに関する情報の秘匿性を、彼は知った。

その為の質問だった。


結果として、私から情報を得られそうになかった。

元々私から情報を引き出そうと考えていた彼は、急に私に興味が無くなった。


考えれば、彼の行動原理は全て”想い人”である。


そして、この推測は正しいと、肯定してくれた。




一息ついて、私の要求を口に出す。


「私がジャックに求める事は変わりありません。平穏に、契約満了まで旦那様を演じて頂ければ構いません」


「お互いに、仲良くやりましょう」


そう言うと、ジャックは驚いた顔をして、少し考えた後、笑顔で答えた。


「レイニー、分かりました。貴方の夫として、妻を支えましょう」


「猫は、被らなくて構いませんわ」

「そうか、君から好印象を貰いたいのだが。円満にするために」


「関係ありませんわ、例え大嫌いとて、妻としての私に影響はありません」

「それはまた、随分だな」


ニコッと笑えば、笑顔を返してくれる。


さて、とりあえず「契約破棄」の問題は無くなった。

破棄されないのであれば、任務遂行はできる。


そのやり方についても、釘を刺した。

あまり自由にされるのでしたら、こちらも容赦しませんよ、と。



ジャックの私に対する不信感は測れないだろう。

ジャックの生命線を握っている、と感じさせたのは大きなストレスを与えたはずだ。


どれだけの執着か分からない。それだけが怖い。

私の扱いをどうするか。好転するか、悪化するか。

少なくとも、直ぐに殺される事は無いだろう。


「想い人」に関しても、もっと情報が欲しい。

その為にも、やはりジャックから情報を聞き出したい。



ジャックは、何を考えているだろうか。

私は、ジャックを好きになりたいと思ってる。

例え、捨てられるのだとしても。

例え、他に想い人がいたとしても。




馬車が目的地に着く。

御者が扉を開けてくれる。


ジャックは笑顔で、「レイニー、行きましょう」と、手を差し伸べてくれる。

その笑顔に、優しい目に、やっぱりドキっとしてしまうのだ。


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