4.最後の試練
夜の森を照らすものは、夜空から差す月明かりのみ。
音は風が木々を揺らす音と川のせせらぎの二つ。一週間程前は綺麗な虫の鳴き声も聞こえていたのだが、何故か今はもう聞こえない。
魔法が使えるようになってからというもの、少し五感が研ぎ澄まされた気がする。私はルージュと目配せをして、深呼吸を一つ。
「行こう、サテン」
「うん」
「「『解放』」」
ルージュの言葉を合図に、地面を思いっ切り蹴って、クレオメに迫る。
『解放』。この魔法は体の中の魔力の流れを高めるもの。身体能力に五感。そして、魔法の発動、精度が上がるバフ魔法。
「ほおっほおっ、遅いの。『魔力壁』」
ここ一週間、クレオメに教えてもらって分かったのは、私達とクレオメの魔法には圧倒的な差がある事。そもそもの魔力の密度が桁違い。
だから、目の前の薄っぺらい魔力壁一つ、私達は貫通出来ない。本気の魔法をぶつけない限りは。
「『青炎玉』」
「『暴風息吹』」
私は風と光が、ルージュは火と水が得意な形の魔法らしく伸びが良かった。
ルージュの青く綺麗な炎の玉がクレオメの魔力壁を貫通し、私の無数の風の刃がクレオメを襲う。
「『暴風』」
クレオメは慌てることなく、周りに風が渦巻いたと思ったら、私の刃全てがその風によって相殺される。それを見て、一旦距離を取る。
「良いぞ、良いぞ。もっと魔力を練ってみよ」
クレオメはこちらを見ながら、両手を広げて頭上に雷が中でうねる風船のような風の塊を作る。
「ルージュ」
「分かった」
直撃すれば確実に死ぬそんな魔法に対抗する為には、二人で一つの魔法の壁を作る。
「『『双壁・風水』』」
「耐えてみよ『雷震風』」
クレオメの魔法は物凄い速度を持ってして、私達の魔法とぶつかる。物凄い音を立てながら、辺り一帯に風と雷を振り撒き、私達の魔法を壊していく。
気を抜けばすぐにでも貫通される程に重いクレオメの魔法。
「うっ……」
ほんの少しだけ空いた隙間から、風が通り抜けて私の頬を掠る。痛い……浅い切り傷のはずなのに異様にズキズキと痛む。
「ほおっほおっ」
クレオメの笑い声と共に、私達の魔法は押され壊れていく。このまま当たれば確実に死ぬ。もっともっと耐えないと……
「まだ……まだっ!」
私のその声に応えてくれるように、魔力がほんの少しだけ高まる。けれど、足りない。圧倒的に足りない。もっと……もっと……!
「サテン、サテンっ!」
焦っている私にルージュは思い切った声で言ってくる。
「流すから、行ってっ!」
「流すって……でも……」
私とルージュの体の中の魔力量はそう変わらない。私はもうあと少ししか持たない。ならば、ルージュも一緒のはず。新しく魔法を作るには魔力がもう……
「大丈夫」
ルージュはそう言って後ろをちらっと見る。後ろには川がある……
「サテン……勝とう!『流々水』」
ルージュの合図で、私達の魔法が破れる。けれど、代わりに大量の水が川から物凄い勢いでクレオメの魔法にぶつかり、軌道を逸らす。
その隙に私はクレオメまで一瞬で近付き、片手を突き出し最後の魔力を振り絞って叫ぶ。
「『雷震風』」
「なんと……」
クレオメに私の魔法が当たり両者とも後ろに吹き飛ぶと同時、ルージュが流したクレオメの魔法が地面へとぶつかり爆発する。
辺り一帯にこれでもかと風が吹き荒れ大きな音ともに雷が落ち、昼のように明るくなる。
「はぁ……はぁ……ルージュ」
「サテン……良かった」
水蒸気のような白い煙の中で、どうにかルージュを見つけて名前を呼ぶとその声に気が付いてくれ、ルージュは心配そうな顔をしながらも、私に駆け寄ってくれる。
魔力が空になると、体に力が入らなくなる。私は荒い息を繰り返しながらもなんとか、ルージュに支えられてその場に座りぐったりする。
やがて私の息が落ち着いた頃、白い煙は晴れて辺りが見えてくる。風の刃で切られた地面に、雷のせいで焦げた木々。そして、ルージュが川の水を使ったために、辺り一帯はびしょびしょに濡れて水が滴っている。
落ち着いた私を見てルージュは、ほんの少しだけ私に魔力を分けてくれる。
そして、力が入るようになった私はルージュと一緒に立ち上がり、奥から歩いてやってきたクレオメと対峙する。
「ほおっほおっ、強くなったのう。川の水を使って魔力の消費を抑え、儂が教えてもいない魔法を見様見真似で真似しおった。合格じゃ」
「……合格だって、サテン」
ルージュは嬉しそうにそう言うと安心したように私に抱き付いてくる。本当……久しぶりにルージュにハグされた気がする。
「ルージュ……ありがとう」
私はそれだけ言って笑みを浮かべて、久しぶりにルージュを抱きしめ返した。
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