7話 【side:ガーバー】なぜか弱い魔物に歯が立たないんだが!?
今夜もよろしくお願いします。
翌日、ガーバーたちパーティはさっそくダンジョンへと出かけた。
新メンバーを含め、4人のパーティだ。
自分たちの失態がビッグトレントを暴走させたことを知られないためにも、早急に討伐してしまいたかったのである。
「立ち入り禁止区域だろうが、俺様たちはなんたってAランクパーティ。危険だろうがなんだろうが、余裕ってもんだ。なぁ?」
ガーバーが問いかけるのに、パーティメンバー3人が答える。
「えぇ、まったくですよガーバーさん。僕の分析からして、せいぜい10分あれば済みますね。風魔法で、葉をすべて散らしてやりますとも」
長身で眼鏡をかけた魔術師・ワンダー。
「ふん。水の矢で、今度こそ根から腐らせてやるさ。すぐに終わらせよう、疲れることはしたくない」
無駄を嫌い、さぼりぐせのひどい弓使い・ボーゲン。
既存メンバーの二人は自信満々だったが……
「えぇっと、とにかく頑張りますけど」
新メンバーのディアナだけは、状況に戸惑っていた。
パーティに入って間もない彼女は、どういう事情で、禁止区域まで魔物を狩りに行くのか聞かされていなかったのだ。
しかし、内気な彼女にはそれを尋ねることもできなかった。
そのうちにも立ち入り禁止区域を目指して、森の奥へと進んでいく。
「へっ、コボルトごとき雑魚が俺様たちの前に立ちはだかろうって? 無謀すぎるぜ」
その序盤も序盤で出くわしたのは、コボルト。
上級ダンジョン深層の森においては、かなり弱い犬型の魔物だ。
ガーバーは詠唱をしながら剣に炎をまとわせて、コボルトへと飛び斬りをしかけた。
「ちょっと大きな犬ごときが俺様を襲おうだなんて、生意気な! この一撃必殺と呼ばれた剣で切り落とせないものなんてないんだよぉっ!!」
いつもなら、これで終わり。雑魚魔物くらいは一撃で倒せる。
そう思っていたのだが、その刃はあっさり避けられてしまった。
「……ガーバーさん、あなたともあろう方がなにをやってるんです?」
「ふん、我らの出番らしい」
呆れ半分に、ワンダーとボーゲンもそれぞれの武器で攻撃をしかけるが、しかしそれもどういうわけかそれも当たらない。
今度は三人で攻撃するが、まとめてかかっても結果は同じことだった。
リーダー・ガーバーにいたっては、背中から襲い掛かってきた別の個体に反応できず、コボルトの引っ掻く攻撃に剣をはじかれる。
続いて、ガーバー自身も吹き飛ばされてしまった。
負傷した腕を抑えながら、よろめき後ずされば、その背後から現れたのはコボルトの群れだ。
少し後ろをついて歩いていたディアナをのぞく三人の周りを群れが囲む。
抵抗するのだが、やられ放題になるだけだった。
いつかチェーロをこうして魔物の群れに放り込んだときの記憶が、ガーバーの頭によみがえる。
あの時は、余興気分で観覧し、ケタケタとあざ笑っていたガーバー。
それが今や、自分の立場となっていた。
「く、くそが!! な、なにが起こっている!? 俺様たち最強パーティの攻撃がこんな雑魚一匹にも一切、通じないだとっ!? 調子が悪いらしいな、今日の俺様は」
違う。
「な、なぜ僕の超高尚な魔術が通じない……? まさか変異種コボルトか」
「……その可能性が高そうだ。俺の弓が当たらないことなど、ここ最近はありえなかった」
これも違う。
真の理由は、思いあがった彼らに気づけるよしがあるわけもないものだ。
その実力の大半が、ただの荷物持ちだと思い込んできたチェーロの自動バフによって、底上げされたものだったのである。
それくらい彼らの実力は、チェーロの強い願いにより発生したバフに支えられていた。
それを失った今、彼らの実力はAランクには到底及ばない。
せいぜいDランク程度だろう。
底上げされた力に甘んじて、ろくな鍛錬もしていなかったのだから、自業自得だ。
だがプライドだけは立派に大きくなっていた彼らは、引き時すら見極められなかった。
荷物持ち兼サポート担当を務めていた新入り・ディアナが止めるのにも構わず、無駄な戦いに身を投じ続ける。
「こ、こんなに弱いなんて聞いてないんですけど……。話が違うんですけど……。と、と、とにかく退却なんですけど……!!」
最後の最後、ディアナがその風魔法でコボルトらをひるませ隙をつくり、逃げ出していなければ餌食になっていたかもしれない。
結局、ビッグトレントにたどり着く以前の話であった。
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