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6話 【side:ガーバー】辺境伯様が来訪するも、その目的は無能呼ばわりしてきたチェーロに感謝するためだった


引き続きよろしくお願いいたします。



数日ののち。

多くの冒険者を抱える大手ギルド・『星のまたたき』にて。


チェーロがもともと所属していたパーティのリーダー・ガーバーとギルド長は、酒を酌み交わしながら、けたけたと笑っていた。


「いや、そうかいそうかい。あのカス、半べそかきながら逃げていったか」

「ええ、そりゃもう情けなかった、と受付の者から聞いておりますよ」


「はははっ。最後に感謝の一言ぐらい残していけねぇのかね、あのカスは。あんな荷物持ちのお荷物を抱えてやっていたんだぞ?」

「いやはや、まったくですな」


 ギルドは所属する冒険者によって、その格が決まる。

 ガーバーたちのような優秀で強いパーティに、ギルド長は頭が上がらないのだ。


ギルド長がガーバーに酒を注いでやっていると、一人の職員が入ってくる。


「後にしないか! 今はガーバー様をおもてなししている最中だ」

「失礼しました。しかし、緊急事態なのです。スカッピア辺境伯さまがご来訪されました」


「な、な、なんだって? 領主様が!?」

「えぇ、詳しい用件はまだ聞いておりませんが、なんでも魔物討伐のお礼がしたい、と」


なんのことか分からず、ギルド長が眉を寄せていると、ここでガーバーが口をはさむ。


「もしくはこの間、俺さまたちが植物魔・ビッグトレントを討伐した件か? 冒険者たちを苦しめていたという割には、あっさり倒せたがな」

「おお、それかもしれませんな。というか、それしか思い当たりませんぞ」

「はははっ、ついに辺境伯すら俺様を認めるってわけだな。うむ、わざわざ出向いてくれたんだ。ご苦労なこった。会ってやろう」



かくして、ギルド長とガーバーの二人で、辺境伯の元へとあいさつに向かう。

待ち受けていたのは、白髪・白髭。正装に身を包んだ紳士だ。


柔らかな物腰の中に、権力者らしい威厳を感じさせる。



「このたびは、初級ダンジョンに現れたウォータードラゴンを退治した冒険者がここにいると聞いて、お礼を申し上げたく来訪した次第だ」


飛び出た話は、二人にとってまったく予想外のものだった。



「はて、どちらの冒険者でしょう?」

「うむ、青空のごとくあざやかな髪色をして短剣のみを提げた青年だと聞く。調べさせたところ、チェーロ・アレッシという名前だと聞く」


これを鼻で笑ったのは、ガーバーだ。


「ははんっ、ありえないな、あのグズで愚鈍なカスにそんな強力な魔物を倒せるわけがない」


しかし辺境伯も引かなかった。


「いや、チェーロという冒険者でまず間違いない。しかるべき機関から、そう報告を受けている。

なんでも身を挺して、初級冒険者たちを守り、一撃で退治して見せたそうだ。これほど強く勇敢で正義をも持ち合わせた人材はそういない。

彼がいなかったら、どれほど被害が拡大していたことか……。あなた方は優秀な人材をお抱えのようだ」


この言葉を聞き、ギルド長の額には脂汗がにじむ。


その優秀な人材と称されるチェーロを追放した、さらには殺そうとしたことまでが知れれば、いったいどうなるか。


自分に無能という烙印が押され、ギルドの存続にかかわるかもしれない。



だが、逆にこのピンチをうまく乗り越え、辺境伯から優秀なギルドだとの評価を受けられれば、ますますの発展も期待できる。


もちろんチェーロの活躍事態は、非現実的な話だと思っていたが、ここは話を合わせることとする。


「は、ははは……。あいにくチェーロは今日、すでにギルドを去ってしまっていまして。後日、必ずお目にかけましょう」

「うむ、承知した。できれば直接お礼がしたい。それに、彼のような強者にこそ折り入ってお願いしたい依頼もあるんだ」


「…………といいますと、どんな依頼ですか?」

「植物魔、ビッグトレントの討伐だ。どうも、どこかの冒険者が退治したつもりになって、仕留め切っていなかったらしい。下手に刺激されたトレントはさらに肥大化して、猛威を振るっているそうだ。衛兵団でも対処できず、今はそのあたり一帯を立ち入り禁止区域としている」


この話を聞いて、今度冷や汗をかいたのはガーバーだ。


仕留めそこなった冒険者が自分であると気づいたためだった。

そうして思い返せば、あまりにあっけなかったのは、それが理由かもしれない。


思い返せば、チェーロには「きちんとトドメを刺した方がいい」と忠告を受けていた。


だが、荷物持ちに進言されたことが心底腹立たしく、それを断固として拒否したのだ。

自分が意地を張ったあまりに問題を大きくしてしまったのである。



おのおの窮地に追いこまれた二人は、辺境伯が少し席を外す間にひそひそと打ち合わせをはじめる。


「なに、ギルド長。心配することはないぜ。ウォータードラゴンを倒したのが、あのチェーロなわけがない。あの辺境伯は勘違いしてんのさ。つまり、同じような髪色をした適当な影武者を用意すれば事足りる」

「いい案ですね、さすがはガーバーさまだ」


「はははっ、そうだろう? それで、植物魔・ビッグトレントの方は俺様たち超一流パーティが倒してやればいいのさ。

そしたら、ウォータードラゴンを倒した手柄も、ビッグトレント討伐の手柄も、俺様のもの。むしろチャンスじゃねえか」


話が終わったころに、辺境伯が戻ってくる。


「実は俺様・ガーバーはチェーロの属するパーティのリーダーなんだ。その依頼、俺様達が受けてやるよ」

「なんと……! 頼もしいお方だ。それはぜひとも、よろしくお願いいたします」

「ふんっ。大舟に乗ったつもりで待ってな」


計画通り。二人はそう思っているのだが…………



この付け焼刃の誤魔化しが、うまくいくわけもない。




誤魔化そうとしても往々にしてうまくいかないもので……。

次回もガーバーサイドのお話になります。


よろしければ、お気に入り登録、評価などいただければ幸いです。


よろしくお願いいたします。

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