5話 ホワイトすぎる新パーティの雇用条件
引き続きよろしくお願いします。
「え、俺と……?」
「ほかにだれがいるんですか、チェーロさん。私の暴れ馬みたいな能力が制御できたのは、あなたのおかげです。
これまで何人かサポート魔法を持つ人に援護をお願いしましたが、これまで一回もうまくいってなかったんです」
レベッカは、冒険者用のスカート型戦闘着の裾を、きゅっと握りしめる。
そこからの話を聞けば、彼女も俺と同じく、落ちこぼれ扱いをされてきたらしい。
「でも、あれだけの威力があるんだ。一流のバフをかけられる補助魔法士のいるパーティに入れれば力を発揮できるんじゃ……」
「私の能力って自分で言うのもなんですけど、めっちゃピーキーなんです。実際、この威力の高さを見込まれて、Aランクパーティに誘われたこともありますが、それでも制御できなくて。残念ながら、すぐにクビになりました」
冒険者失格、とまで言われたそう。
それでも、どうしても諦めきれなかった彼女は、一人で初級ダンジョンに臨み続け、制御するために日夜、特訓に励んでいたらしい。
こういっちゃなんだが、愛らしい見た目とは裏腹に熱い思いを持っているようだ。
「どうして、そこまで冒険者にこだわるんです? お金も地位も十分にあるように見えますけど」
「あはは、よく言われます。私、夢があるんです。いつかはギルドを作って、たくさんの人を助けられるクリーンなギルドを作りたいっていう、大それたもの。
自分の力さえまともに扱えない半端者ですけど、本気です。それを叶えるためならなんでもしたいくらい。令嬢として結婚させられるとか、そんなの最悪です」
「もしかして必死で特訓していたのはそれが理由?」
「まぁそうなりますね。冒険者として結果もだせないままじゃ、いつ戻ってこいと言われるか。政略結婚とかさせられちゃいます」
なるほど、令嬢は令嬢で大変だ。自由が限られている。
それを乗り越えてでも、人助けのためにギルドを作りたいといえる彼女の思想はかなり立派だ。
感心していると、彼女は思い出したように言う。
「……ってこれだけ話すと、チェーロさんの能力を利用したいからパーティを組む、みたいになってますけど、違いますからね?」
「……えっと、要領を得ないんだけど」
「夢とか婚約の話とか自動バフのこととか。全部がなかったとして、私がその辺の女の子。ただのレベッカだったとしても、私はチェーロさんと組みたい。きっと、そう思っていました」
言葉に真剣みがこもっていた。まっすぐに、彼女は俺の目を見て、そして微笑んだ。
そこに打算などは感じられない。その灰色がかった美しい目にこもるのは、どこまでも透き通った純粋なる思いだ。
「アクアドラゴンが襲来したとき。危険をかえりみず人助けのために、自分を投げ出したあなたの行動には、胸を撃たれました。今思い返しても、胸がじんとします。
私はあなたみたいな尊敬できる人とパーティを組みたい。そう、ずっと思っていたのですチェーロさん」
「……レベッカさん」
心の天秤はもう完全に傾いていた。
というか、はじめから断る理由を探す方が難しい。
落ちこぼれで、荷物持ちがせいぜいだった俺をここまで必要としてくれる人がいる。
その時点で俺は、彼女に力を貸したいと思ってしまっていた。
どうせ、能力が発現したと訴えたとことで、もうあのパーティにもギルドにも戻りようがないし、そうしたいとも思えない。
殺すとまで言われた身だ。もう金輪際、奴らとかかわるのはごめんだとさえ思う。
だから、俺に行く当てはない。
さらに加えるなら、人助けのためのギルドを作りたいという考え方にも賛同だ。この世から不当に虐げられる人が一人でも少なくなればいいと心底思う。
すぐにでも受けたい話ではあったが、俺には痛い目を見てきた過去がある。
一度冷静になった。
「あの、ちなみにパーティ組むとして、待遇ってどうなります?」
「待遇?」
「えぇ、前のパーティに入ったときは、『雑用全般』とか『口をきかない』とか『給料は最高でも月8万ベルまで』とか色々な条件があったんで」
「そんな恐ろしくむごい扱いを受けてきたのですか!? 生活が心配になるレベルのお給金だし……。8万ってごはんと宿も満足に得られないんじゃ」
「いやいや、たまに野宿なんかして、あとはボロ宿に泊まって、雑草かじってればなんとか仕送りに少しは回せてましたよ」
むろん、かなり切り詰めた生活ではあったけど。
って、なんだ? レベッカが口をあんぐりと開けているんだが?
「な、なんておいたわしいっ! 心配いりませんよ、それなら。私も一応、公爵令嬢です。
お給金なら、私しばらくは要りませんし、もし月で稼げた額がゼロでも、最低保証しちゃいます。なんなら、屋敷にたくさん部屋がありますから、お宿ならばお貸ししますよ」
「……えっと」
「もちろん、ごはんもつきます。さらにさらに! お休みもちゃんと設けますよ。月に最低10日以上!」
なんだそれ、なんだそれ!
好条件とかいうレベルじゃない。ともすれば、自堕落に陥りそうな極楽環境じゃないか!!
今までが今までだったので、夢物語にしか思えない。
「ありゃ? まだ少ないですかね……。むむ、ならえっと、お風呂とかも入り放題ですし、たまには温泉旅行に行く権利! とか?」
俺が黙り込んでしまったのを、レベッカは曲解したらしい。
どんどんと条件が豪奢になっていく。
これ以上は、望むまい。
「そ、そこまでいりませんから! 俺なんかでよければ、よろしくお願いいたします」
ぱあっと、元来華やかなその笑顔が、さらに温かくなって弾ける。
「やったあ!! これから、よろしくお願いしますね、チェーロさん♪」
「こちらこそ、お世話になります、レベッカさん」
「もう固いですよー。チェーロさんの方が年上なんですから、ため口で大丈夫です」
「でも、公爵令嬢さん相手にそれはまずいんじゃ」
「それ以前に、パーティの仲間ですよーだ」
かくして、俺の新パーティへの加入が決まったのであった(超好待遇)。
やべぇブラック環境で働いていたチェーロくんでした。
世の中の全てのブラックが消滅してしまえ!
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