30話 結婚式の予行演習? 【一区切りです】
街へと帰った俺たちは、まず衛兵団の屯所へと向かった。
事の顛末を伝えるとともに、殺そうと斬りかかってきたことを説明し、ガーバーを罪人として引き渡す。
次に、街にある役所へと向かい、ビッグトレントの討伐を伝ると、報酬などの説明を受けた。
街に帰ってきたときには高かった空が、もう暮れかかる時間だ。
「いやあ、報告って疲れますねえ。まさかこんなに時間を取られるとは。でも、これで帰ったら、ごちそうです!」
「せやね、ゆで卵の時間やっ!!」
「おいおい、セレーナ。それ単体だと、ごちそうって言わないと思うんだけど」
開放感からパーティ三人。
何気ない会話を交わしつつ、荘厳なつくりをした役所の門から出ていく。
「おお、英雄さまたちが戻られたぞ!!!!」
そこで待ち受けていたのは、よもやのお出迎えであった。
門の両脇えを囲むのは、たくさんの大衆たち。その身分などは見たところ、さまざまだ。
冒険者から商人、薬師、聖職者、さらには主婦のような人まで――。
おのおのが歓声をあげる。
「な、なんでもう広まってるんや……。ひっ、う、うち、見られすぎるん苦手やねんけど」
「大方、誰か役所の人間が触れ回ったんだろうな……」
それくらい、ビッグトレント討伐は大きな一件だったらしい。
「これでまたダンジョンに潜れるようになった……! あんなけた違いの魔物がいたら、一生入れなくなっちまうところだったぜ。まじで、ありがとうな!! 英雄さんよっ!!」
ある冒険者はこう感謝を捧げていたし、
「いやあ、あのビッグトレントのせいで、上級ダンジョン内の資源が掘削できなくて困っていたんだ。ありがとう、これで、まだまだこのマーレシティで仕事ができるってもんよ!」
商人はひざまずいて、お金を俺に握らせてこんとする。
「あぁ、この者にさらなる幸があらん事を! ビッグトレントにやられた御霊もこれで安心して、この世界から旅立てる……!」
聖職者らは、こうだ。
とにかく思い思いの言葉が伝えられる。
みな、事情はさまざまだが、ビッグトレントに迷惑していたことだけは共通しているようだ。
「ほら隠れてちゃだめですよ、セレーナさん。だって、大ヒーロー。チェーロさんと同じパーティにいるんですから♪ 今後も、これくらいは覚悟しておいてください、セレーナさん」
「そ、そやったね……! うん、チェーロくんのそばにいるためやったら……」
衛兵らにより、通り道は確保されていた。
俺たちがそこを歩いていくと、両脇から花束や、食料、ぬいぐるみといったものが差し出される。
「でも、まあわかりますよ。まるで貴族学校の卒業式みたいな光景です。っていうか、それ以上かも……! まさしく花道ですよ!」
レベッカが少し頬を赤らめながら言う。
貴族どころか超貧乏農家出身の俺がまさか、そんな体験ができるとは。
人生分かったものじゃないな、これ。
「でも、いい経験ができましたね、チェーロさん。予行演習になりましたよ」
「……というと?」
「分からないんですかー? 将来、私と結婚するときも、これくらい盛大に祝ってもらうことになるでしょうから♪ その予行演習ですよ。ほら、私の腕、持ってくださいな」
レベッカがそう言って、俺に身を寄せてくる。
「な、な、な、そんな……! う、うらやましい。チェーロくん。う、うちの腕も取ってくれへん? こんなデカ女の腕なんか嫌かもやけど、その……」
私にしましょ? と、右腕を引くレベッカに、恥じらいながらも左の袖をちょんと摘まむセレーナ。
突然にそんな選択を迫られても答えられるわけもない。
そしてなにより、この姿を大衆に見られていると思うと、恥ずかしさが一気に頂点までこみあげてきた。
「と、とにかく帰ろう、二人とも!!! 屋敷に戻ったら、エミリイさんのご飯だ」
どちらの腕を取るとか、取らないとかじゃない。
その場を早く立ち去るために、俺は二人の腕を同時にとって、大衆の中を駆け抜けたのであった。
一旦の区切りとさせてもらいます。
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