29話 元パーティリーダーとの一騎打ちは一瞬で。
「貴様………ふざけるなよ? 誰に向かって反論してやがる!!!」
俺の答えをきっかけに、ガーバーが激高する。
「赤の他人に対してだよ」
「上等だぜ、荷物持ち! 思い出させてやるよ、お前のご主人様が俺様であることをな!」
ガーバーは剣を抜く。
負傷した右腕はろくに使えないらしく、左腕一本で握り、リーチの長い剣をまっすぐ俺へと向けてくる。
「怖いだろぉ? お前には何回もこうして刃を向けてきたもんなア?」
ガーバーは、昔から少し気が立つとこうだった。
『次、俺様の気に障ることをしたら串刺しにしてやるぞ、カス!』。
こう脅された回数は、数えきれない。
「恐怖しろ、怯えろ、そしてひざまずけ、俺様に!!! さもなくば、お前を本当に串刺しにしてやるぞ!!」
「悪いけど、それもお断りだよ」
「なっ、なんだと!!!! もう殺す!!! キエエエエィッ!!! フレイムスラッシュゥゥッ!!!」
まるで魔物じみた声。
ガーバーは上段に剣を構えながら、魔法を詠唱する。
気の狂ったガーバーには、いっさいの躊躇いがなかった。
殺意の籠った火の塊が俺へ向かって飛んでくる。
「チェーロさんっ!?」「チェーロくん!」
その人間とは思えない気迫に押されたのか二人が声をあげる。
……だが、技自体はなんということもない。
水属性魔法による防禦魔法を張ろうかと思ったが、やめる。
ぶっちゃけ当たっても、全然なんということはないレベルの火であった。それに遅いし、見切るのは容易だ。
試しにガーバーのステータスを見てみて、あらびっくり。
『魔法属性:炎
体力 80/200
魔力 200/500
威力 120
俊敏 25
耐久 60
命中率 55/100
その他特殊スキル なし』
……弱い、なんてものではなかった。
少なくともこの能力を手にしてから見てきた冒険者や衛兵たちの中では、ダントツで低い。
ほぼすべてのステータスが、俺の40分の1ときた。
「な、なにィ!? ま、まったく効かないだと!? だったら、直接切り殺すのみだァ!!!」
そんな圧倒的な差がついていることなど、ガーバーが知る由もない。
直接攻撃に打って出てくる。
もう、本当に救いようがなさそうだ。
これ以上、ガーバーが剣を握っていたら、どこかで死者が出てしまうことも考えうる。
ガーバーは、隙だらけもいいところだった。
うーん、昔から魔法の強さに頼ってきたタイプだったからなぁ……。
型も基礎も、なにもあったものではない。
ガーバーの剣は金にものを言わせて買った名刀、魔法伝達力も俺の短剣とはくらべものにもならないだろう。
…………ま、どんな立派な剣であっても、それを一切活かせないのでは意味ないんだけどな。
俺はあっさり間合いの中に入ると、ガーバーの左肘を狙って、短剣の柄を強くぶつける。
「グワアアアアアアアッ!!」
ボギッ、と骨がえぐれる音がした。肘から血があふれ出る。
ガーバーの握っていた長尺の剣が、からんと音を立てて転がり落ちた。
「チェーロっ、貴様っ!!!」
「まず間違いなく、もうお前が剣を持つことはできない。金輪際だ」
「な、なんだとっ!?」
これでも手加減もいいところ、手加減してやった。
魔法剣技を使っていたら、危うく殺してしまうところだ。
こんな奴を殺した罪で服役するなんて、まっぴらである。
地面に倒れこみ、肘を抱えると、うめき苦しむガーバー。
彼の散らした血がおびきよせたのか、現れでたのはコボルトの群れだ。
噛んだり、蹴とばしたり、とコボルトはガーバーを好き放題にもてあそびはじめた。
彼はそこで泣きながらにして懇願する。
「た、助けてくれえええっ!! わかった、謝る。これまでのことは全部謝る! 俺様、いや俺が悪かった、思いあがっていたのは俺の方だった。許してくれ、チェーロ!! 頼む、このとおりだっ!!」
ガーバーが助けを乞うて、懇願する。
「無視でいいですよ、こんなやつ。このまま餌にしちゃいましょ」
「……たしかに、どうしようもない奴やけど…………。どうすんの、チェーロくん」
レベッカとセレーナの意見が食い違う。
「助けてやるか……。ここで死なれても俺たちの寝覚めが悪くなるしな」
「チェーロさんがそう言うならいいですけど……。甘いですね、チェーロさん。私は正直、こいつをまったく許す気がしませんよ。私の大事な大事なチェーロさんを虐待するなんて、サイテーすぎますし」
レベッカの思いは、ありがたく受け止める。
だが、許すつもりなどないからこそだ。
「むしろ厳しいんだよ。安易に殺してやるほうが甘いと思ったんだ。
こいつにはこれまで散々な振る舞いをしてきた罪を償ってもらわなくちゃならない。おれだけじゃない、いろんな人にかけてきた迷惑すべてだ。せいぜい獄中で重労働にでもいそしんでもらうとしよう」
――こうして、ビッグトレント討伐ならびに元パーティリーダー・ガーバーとの一騎打ちは、あっさりと決着したのであった。
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