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26話 機転をきかせて。


その後も俺たちは、ほぼまったく苦戦することなくダンジョンを攻略していった。

襲い来る魔物を次々と倒し、順調に『深層の森』を攻略していく。



そうして、あっと言う間に、立ち入り禁止区域を超えた。

植物魔・ビッグトレントが根を張る最奥地が目前に迫っている。



「なんだか、あっさりここまで来れましたね?」

「うち、あっさりすぎて怖いくらいや。というか、なんか急に瘴気濃くなってへん? うちの気のせい?」


身長は高くとも、小心者らしい。


セレーナは、俺の冒険者冒険者衣装の上着の裾をきゅっと握って、影へとかくれる。

こちらは本当に怖がっているようだが……


「いやー、チェーロさん私もこわーい」


うん、こんな時でもレベッカは平常運転であった。

わざわざ反対側まで回って、セレーナの真似をする。



お世辞をぬきにしても、美少女二人だ。くっつかれすぎると、平常心を保てない。

正直、さっきホムラオーガに出くわしたときよりよっぽどだ。



両脇から漂いくる、えもいえぬ甘い香りから逃れるようにして、俺はやんわりと離れてからつぶやく。



「たしかに瘴気が濃くなってるな。前に来た時とは大違いだ。ビッグトレントがかなり肥大化しているらしいな……」

「前ってきたことがあるんですか、チェーロさん」


「まあな。前のパーティはAランクパーティだったから難易度の高いクエストも受けててな。このビッグトレント討伐も請け負ったんだ。けど、やっぱり討伐しきれてなかったか」

「やっぱり、ってことはわかってたんですね?」


「そういうことになる。俺は、ちゃんとトドメを刺すよう進言したんだ。でも、前パーティのリーダーが、頑固として聞き入れなくてな」

「はぁ、なんか聞けば聞くほどムカつく奴ですね。チェーロさんの元パーティリーダーって」


レベッカの口が悪くなる。


「結局トレントはビッグトレントになっちゃって、立ち入り禁止指定までされてるんだから。ほんと百害あって一理なしですよ、そんなやつ。冒険者自体の評価が下がるから、とっとと引退したほうがいいですね」


……どんどん、悪くなる。


怒りを覚えるのはもっともだ。

あたりに散らばる武器や防具の破片は、どれだけの冒険者がこのビッグトレントにより犠牲にされてきたかを示していた。


あのとき忠告が聞き入れられていれば、これは起こらなかった出来事だ。


「まぁどうせ悔いても時が戻るわけじゃないしな。とりあえず、今日で絶対に倒す。それだけのことだ」

「なんや、めっちゃ本気やね?」

「まぁな。荷物持ちで発言権ゼロだったとはいえ、俺も一応パーティの一員だったから」


この討伐戦は、前パーティの時に達成し損ねたクエストだ。


それが今、新パーティになって再び巡ってきた。


「たぶんこれは俺に与えられた仕事なんだよ。今度こそ、最後まで責任を持って遂行しないとな」


俺が決意を込めて言ったすぐあと、行く手の地面がとたんに膨れ上がる。


「…………くるぞ!!」


耳にキンキンくる地鳴りとともに盛大に割れた地面から顔を覗かせたのは、うねり狂う太ましい根だ。


ビッグトレントの触手である。


俺は察知してすぐ、短剣でそれを薙ぎ落とすが、それで終わるわけもない。


「そ、そこら中の地面から、木々の間からトレントの触手がうにょうにょしてきましたよ、チェーロさんっ!」

「ひ、ひぃっ! うち、こういうの無理無理無理!」

「かなり肥大化してるみたいだな……。尋常じゃないぞ、この触手の数」


まだ本体がどこにいるのかさえ把握できていないのに、トレントにより、猛攻が始まる。


俺は二人を防御魔法で守りながら、少し後ろに下がった。

よくよく観察していて気づく。


あまりに本数が増えすぎたせいだろう。

トレントは自分の触手をコントロールできなくなっているらしい。

一部の枝や根が複雑に絡まり合っていた。


「うぇぇ、うねうね動いて気持ち悪いです……。チェーロさん、あれ私の雷で燃やしても?」

「待った待った。気持ち悪いのは同意するけど、一つ一つ対応しててもキリがないぞ。それに、あれはむしろチャンスだ。

なあセレーナ、トレントの触手にヒーリングボール打ち込んでくれるか?」


「えぇ、そんなことしたら、えらいことになるんやない!? う、うち、トレントに服脱がされたくはないかも……。あんなこととか、そんなこととかされたくないかも」

「大丈夫だって、そうはならないから」

「ほ、ほんまに?」


セレーナが俺に身体を寄せて上目に聞くから、その頭をぽんとひと撫でする。


「絶対大丈夫だ。万が一があったら守ってやる」


この言葉がキッカケとなってくれたらしい。


「……! あれ。なんやろ、その言葉聞いたら、いける気がしてきたかも!」


彼女が作り出したるは、人ならばゆうに五人は読み込めそうなサイズの光属性の魔法玉。


それがトレントへと打ち込まれる。



すると、触手はさらに太ましいものへと変化する。


そしてそして、


「えっ、動かなくなりましたよ!? ビッグトレントががんじがらめに!?」

「うん、思惑通りだな。そもそも、触手が絡まって動きづらそうにしてたしな。光属性の魔力を浴びて活性化なんかしたら、そりゃあこうなるよな」

「……すごいな、ほんま。チェーロくんは強いだけやなくて、頭もえぇなんて!」


動きを封じることに成功した。


枝や根がぎちぎち音を立てて、みっちりと固まっていた。



目を瞑りたくなるようなグロテスクな光景だが、動かないのであれば敵ではない。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] >でも、前パーティのリーダーが、頑固として聞き入れなくてな」 「頑として」と「断固として」が混ざっちゃってますよ。
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