25話 上級ダンジョンも余裕の道中
区切りまで投稿します。
商談が無事にまとまり、その後。
俺たちはついに上級ダンジョンへと足を向けた。
「いやぁ、ドキドキします、私! はあああ、ついに上級ダンジョンだっ」
「うちも。これまではノワール商会に引き摺り回され放題やったからね……。パーティ組むなんて考えたこともなかったし」
「ですよね、楽しみです! メイドのエミリイに美味しいものを準備しておいて、ってお願いしておいたから、帰ってきたらぱあっといきましょうっ! あ、もちろんゆで卵もたっぷり用意してもらってますよ、セレーナさん♪」
レベッカはよほど嬉しかったらしい。
ぴょんぴょん跳ねるさまは、傍目に見れば、もはや遠足に出かける少女だ。
背中に差されている魔法杖の方が不釣り合いに思えてくる。
「おいおい、少しは気を引き締めてくれよ。上級ダンジョンは、魔物だって相応に強いだろうし……なにが起こるか分からないから身構えておいた方がいい」
「分かってますよ〜、オンオフの切り替えは得意技なんで大丈夫ですって。というか、それを言うならチェーロさんのそれはいいんですか?」
レベッカが指すのは、俺が腰に提げた短剣だった。
「もっといいものを揃えてからでもよかったんですよ? それこそ今日だってお金が入りましたし、パーティのお金はまだ余裕もあります」
「んー……とりあえずはいいよ。壊れるまでは、これを使ってみる。冒険者初めてからずっと使ってて一番手に馴染むし、それに思い入れもあるからさ」
たしかに安物だしガタもきてはいるが、苦しい苦しい三年間をともにした愛剣だ。
それに、持っていることで、気が引き締まるというのもある。
おかげさまで、今は幸せにやらせてもらっている。
だが、だからこそ過去に舐めた辛酸を忘れてはいけない。境遇に甘んじて、ガーバーのように傲慢になってはいけない。
自分への戒めとしても、ちょうどよかったのだ。
「うちやって、本当ならもっと強く止めてるとこやけど……。というか、うちなら絶対、武器も防具も完璧にそろえてるやろうけど。
その短剣一つで、めちゃくちゃな人数の敵を倒す姿をこの目で見てもうたからなぁ。チェーロくんなら、問題ないね」
「たしかに! 泣く子も黙る衛兵団の荒くれものを黙らせる、チェーロさんの向かうところ敵なし♪」
「だから油断しすぎないでくれよ!?」
がやがやと話をしつつも、俺たちはついにダンジョンの中へと踏み入れる。
上級ダンジョン『深層の森』。
そこは、その字面どおりの場所だった。
一歩踏み入れた途端にうっそうと植物がしげり、中には魔植物なども混じっている。
そしてそして……。
そんな先も見通せぬような草陰から、魔物たちが飛び出てくるのだ。
まず出てきたのは、ファイアオーガであった。
身長、恰幅ともに人間の倍近くはある図体の色は、ネイビー。筋骨隆々としたその体躯でもって、こちらへ襲い掛からんとしてくる。
多少、知能のある魔物だ。この個体は、冒険者から奪ったらしい大剣を手にしていた。
ウオオオオン、という気味の悪い声とともにそれを振り上げる。
一見すると、ピンチだったが……
「な、なんですかあれ!! やば、さすが上級ダンジョン……! けどけど、鈍いですね、こいつ!」
「せやね、ほらかかった!!」
バフをかけられた二人にかかれば、敵ではなかったらしい。
セレーナが水晶から作りだした毒の沼に、オーガは足をからめとられる。
祈りをかける際、今回はあえて呪いを解除しなかった。
その代わり、端的に『威力』を「420」から「1020」まで引き上げた。
天下の衛兵団たちでさえ、「500」だったから、その威力はケタ違いだ。
火を吐くまでもなく、すでに瀕死のオーガ。
そこへ追い打ちをかけるは、元から威力全振りの魔導士・レベッカだ。今回もしっかり命中率を向上させておいたのも、対象が動きを取れなくなっていたこともあった。
杖から至近距離で放たれた強力な雷魔法が、オーガの全身を焼き尽くす。
「やりいっ! いえい、チェーロさんのおかげで今日も魔法が気持ちいい♪」
「うち、こんな広い毒沼作れたんはじめてや……! ほんまおおきにな、チェーロくん!」
あっさり勝負がついてしまった。
俺の出る幕、なし! まあいいんだけどな? バフ魔法を使うことで、効率的に戦えている証ともいえるし。
と、思った矢先のことだ。
「グガアアアアアアッ!!」:
地鳴りのような声がしたと思ったら、すぐ横手の草むらから現れたのは、ホムラオーガ。
「し、し、進化系まででちゃったんですけどぉ!?」
「ちょっ、ってか最終進化系!? これはうちの毒も簡単には効いてくれなさそうや」
勝利の余韻に浸っていた二人が、唐突に焦りだす。
だが、二人より先に気付いていた俺には余裕があった。
「炎の一薙ぎ・フレイムスラッシュ!!」
一瞬でホムラオーガの懐へと飛び込む。
先に燃え盛る炎の波動を打ち込み、その上に剣身を叩きこむ。二段構えの攻撃をその図体に食らわせてやった。
ホムラオーガは、オーガ種の中では頂点。それどころか、上級ダンジョンでも早々お目にかかれない超のつく強敵。
ダンジョンによっては、ホムラオーガがボスになっているダンジョンもあると聞く。
だが、技一つで退治することができていた。
ホムラオーガが黒焦げになって、地面で灰の塊とかしている。
「えっ、チェーロさん……こんな一瞬で、あのデカブツを!?」
「ありえへん、ほんますごい、この人……。自信なくすかも」
「いいや、その必要はないって。さっき作ってた毒沼、かなりのレベルだったと思うぞ」
しかしまあ俺も本当のところは、思わぬ力の発揮具合に驚いていた。
この間、ノワール商会の手下どもと戦ったときよりも、明らかに体が軽く動きやすいのだ。
『魔法属性:空
体力 5000/5000
魔力 5000/5000
威力 3600
俊敏 3600
耐久 3250
命中率 95/100
その他特殊効スキル 自動バフ(祈りにより発動)、能力鑑定、呪いの毒術』
ステータスを見てみると、そのわけを思い出した。
そうだ、俺のスキル。バフをかけた相手の能力値をまるっとコピーできるんだった。
そりゃバク伸びしているわけだ。
セレーナはそもそもBランク冒険者相当、かなり能力値が高い戦士だったしな。
それでも計算が合わないのはきっと、俺自身の成長にくわえて、レベッカたちの成長値まで俺に加算されているからだろう。
……なんだ、これ。
うーん、やっぱり、規格外すぎるぞ、この属性!
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モブキャラ令嬢が、前世の知識を活かして、無双!
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愉快かつ、ざまあありでスカッとする一作です。




