24話 ポーションはめちゃくちゃ高く売れる。
翌日。
「Aランクポーション? ははは、やめてくださいよ、そんな冗談。誰でも見抜けちゃいますよ。ポーションは、いまや超貴重品。宝石とまで言われているような代物ですよ? そんなものがあるわけ……ええええええっ!!!?? 本物!?」
俺たちは、とある商会の取引受付担当の女性に、窓口で絶叫されていた。
ビッグトレント討伐のクエストに出る前。
俺たちが尋ねたのは、ビアンコ商会の経営する商人ギルドだ。
彼らは、とにかくホワイトなことで知られている。値段や取引、交渉まで、透明性のあるやり取りが売りなのだ。
受付の女性に手に負える代物ではなかったらしい。
彼女はすぐに裏へと人を呼びに行く。
そして、俺たちはカウンター奥の応接間に通された。
お偉いさんだろう、貫禄のある黒ひげを蓄えた人物が現れる。
この街における、ビアンコ商会の取引を一任されているお偉いさんだというが……
「な、な、これは本物だったらとんでもないことだぞ……!?」
そのお偉いさんもこの反応だった。
「私もさんざんいろいろな取引をしてきましたが、いやはや壮観です。これほどの量、Aランクのポーションが揃ったのを見るのは、はじめてだ……。夢か、幻か!?」
とくに最近では、買占めが横行していて、この街じゃほとんど手に入らなかったのに!」
やはりポーション不足は深刻らしい。
商人さんはすがるようにして、俺の手を握りしめる。
思わず、背をのけぞってしまう圧だった。
「お、落ち着いてください。間違いなく本物ですから。なんなら一つ開けて確かめてみてもらってもいいですから」
「こ、こんな高価なものを……? で、では失礼して」
戸惑いながらも、商人さんは俺のすすめるとおりに一つの瓶を手に取る。
蓋を外し、それを一滴手に垂らすと、左の肩口に塗った。
「……う、嘘だろ!? たった一滴で、めちゃくちゃ重かった肩こりが、消えた!?」
彼は右肩にも塗ると、ぐるぐる両肩を回して見せる。
痛みを感じている様子はいっさいない、むしろ今なら大遠投できそうなくらい快調そうだ。
さすがはAランクポーション! 本来なら治りにくいはずの、積み重なった疲労まで取り除いてくれるらしい。
「ほ、本当にAランクポーション……!! 間違いない!」
またしても声を高くする商人さん。
「そ、それで、これをいかほどのお値段で?」
だが値段の話となると、声が震えていた。
そこで、隣で見ていたレベッカが口をはさむ。
「まあまあ、なにも揺するつもりはありませんよ! ね、チェーロさん?」
「はい、ビアンコ商会さんが不当な取引をしないことは知ったうえで来てますから」
「せやね。ノワール商会みたいな悪い団体には、こんなん売ったらあかんもんね」
ポーションの共同製作者たるセレーナも、こう同じていた。
俺たちの言葉に、いたく感心したらしい。
商人さんは、鑑定人とともに詳しい査定を進めていく。
「20本で、およそ400万ぺル、いや、500万ぺルで買い取らせていただきたい」
出た結果には、耳を疑った。
おいおい、ちょっと前まで10ペルで買えるパン耳で糊口をしのぐ野宿生活をしてたんだぞ、俺。
金銭感覚がわけがわからなくなってくる。
パン耳の袋、何個買えるんだ、これ!
「今回はこの値段で取引させていただきます。が、しかし、これ以上となると私の手には収まり切りません」
「えっと、店舗の責任者さんなんじゃ?」
「えぇ、ですが、私にも判断しかねるのです。それに、もし今後も取引をいただけるなら、より深く対話をして、いい関係を築いていきたいと思いまして」
願ったり叶ったりの申し出だった。
俺たち3人は顔を見合わせたあと、うなずきあう。
代表して俺が話のつづきをすることとなった。
「では、その時をお待ちしています。こちらこそ、よろしくお願いします」
「なんと! はやばやとご決断いただき、ありがとうございます」
「いえ。俺たち、実は将来的にギルドを開くつもりなんです。その時のことを考えると、素晴らしい取引相手がいて、損はないですから」
「ほお、そんな野望が! いやはや、なにからなにまで規格外なお方ですね……!」
こうして、自作ポーションは無事に売れてくれた。
セレーナの罪を見逃してもらうために辞退した報奨金の額を補うにあまりある大金だ。
そのうえ、お偉いさんとのパイプをつなぐ役目まで果たしてくれたのだから、できすぎである。




