18話 毒女と呼ばれる少女
「ほ、ほんとだぜ、俺たちノワール商会は一大組織。たしかにお前らは規格外に強い。しかも、妙な能力を使いやがる。
だが、俺たちだって、ちょっと強いくらいの妙な人間なら抱えてるんだよっ!!」
相変わらず、木にしがみついたまま、男は叫びあげる。
そもそも秘密裏に俺たちを襲おうとしていたことも忘れているらしい。その声はあたりによーく響いていた。
「どうしますか? はったりとも思えない感じですけど」
「そうだな.このままおとなしく、衛兵たちの到着を待ってるってわけにもいかなさそうだ」
「あーもう、むかつくなぁ。なんなの、ノワール商会! 志願者たちがいなくなっちゃったと思ったら、今度はチェーロさんと私の甘い時間まで邪魔するなんて。
あの木ごと、雷で焼き尽くしていいですか」
「いや、あんな連中のために焼かれる街路樹が可哀想だろー」
門をはさんで、レベッカと言葉を交わす。
そうしていると、向こうの準備が整ってしまったらしい。また狂ったような笑いが、木の陰から漏れ聞こえてくる。
それとほぼ時同じくして、正面からなにかが飛来してくるのを俺は察知した。
暗闇の中ではその正体をつかみきれず、俺は屋敷の門回り一帯を水属性魔法によるシールドで広くカバーする。
門が破壊されることは阻止できたようだが、おかしい。
水の壁から垂れる水滴の一部が紫に変色している。
「……毒、か!」
「へんっ、よくわかったなあ! だが、分かったところでどうしようもねえよ。毒はその色や特性からして、闇に紛れやすい。
俺らに盾突いた罰だ。毒で苦しんで死ぬや! やってやれ、毒デカ女! 今日こそ、仕留めろよ? お前はいつもいつも甘いからなぁ」
男がそう命じると、暗闇の中から姿を見せたのは、一人の少女だ。
その身長はたしかに高く、見たところ170近くはあろう。だが、その失礼な言い方をされるような容姿かと言えば、まったくもって違った。
「……あなたに恨みはありませんが、仕方がありません……。いきますっ」
身長は高いけれど、決して威圧感はない。
たぶん、その優し気な垂れ目のせいだ。
今も本人は必死に目角をとがらせているが、束感のあるクリーム色の毛もあいまって、これが全然怖くない。
「普通に可愛い女の子だな……」
思わずこうつぶやくが、もう攻撃は始まっていた。
毒の球が、次々と放たれる。
武器は見たところ、剣でも刀でも弓でもない。ちょうど右手に収まる程度の大きさの水晶玉から、毒の球体が飛び出ていた。
当たれば、どうなることやら知れない。だが、そもそも当たらなければ、なんということはない。
「ま、まだ魔力ポイントは余ってるみたいだしな」
俺は飛んでくる毒球の軌道をよく見極めて、風魔法による超高速の動きにより、回避をし続ける。
そうしながら反撃の機会をうかがうため、まずは相手のステータスを確認する。
『魔法属性:光
体力 350/400
魔力 550/1000
威力 420
俊敏 450
耐久 430
命中率 80/100
その他特殊効スキル 呪いの毒術』
違和感を覚えたのは言うまでもない。
普通、光属性といえば、ヒールをはじめとした補助魔法の類をさす。
だのに、使ってくる魔法は毒ときたら、原因は、このステータス表の最後にある『特殊スキル』だろう。
呪いの毒術。
聞いたことはないが、要はデバフのかかる外れのスキルらしい。
「なるほど、これが強烈に作用した結果の毒、か」
だとすれば、対処法は一つだ。
俺は対戦相手の彼女にかかっている呪いが解けるよう、祈りを捧げる。
するとどうだ。飛んできていた毒玉がとたんに光を放つ。
その玉は俺の結界にあたると、毒が溶けて濁った水を一瞬で浄化してくれた。
改めて彼女のステータスを見ると、『特殊効果スキル』欄が空になっている。
「え、な、なに……なんで」
女の子は次々と、水晶から魔力の籠った球を生み出す。
だが、どれもすべて無害。いやむしろ、安らぎすら感じられる。いわばヒーリングボールになっていた。
「……チェーロさん、すご」
レベッカが門の奥で、ぼそりとつぶやく。
それを適切な反応で応じるには、褒められ慣れていなかった。
まったくなにも返せずにいると、ここで茶々を入れてくるものがいた。
例の夜襲軍団を率いていた男だ。
ついさっきまでの煽るような態度は一転、焦りが手に取るようにわかる。
隠れていた木の後ろから、身を乗り出してきていた。
「おいおいおい、お前が戦えなくなって、どうする!? お前のような、光属性のくせにヒール魔法の一つできない、なんなら毒を生成してしまうような、どうしようもない無能を雇ってやったのはどこの誰だと思っている!? それが毒まで生み出せなくなっただと!? ふざけるな、とっととやっちまえ!! 毒デカ女!」
俺ではなく、少女に対してこう怒鳴りつけた。
それを受けて、彼女は少し顔をうつむける。水晶から放っていたヒールボールに勢いがなくなり、やがて止まってしまった。
まるで、少し前までの自分を見ているかのようだった。
紐で縛りあげられたかのごとく、胸が痛む。
なぜ、少し人様と違うというだけで、ここまでの扱いを受けなければいけないのか。いったい、彼女がなにをしたというのか。
悪気などあろうはずもない。ただ懸命に、自分にできることをしてきただけだ。
だのに、この世の中は違うという時点で排除しようとする。
一応、敵とはいえ、もうお互いに戦意は失っていた。
少し間、静寂の時間が訪れる。
「エレクトリックショット!!」
それを裂いたのは、レベッカの魔法詠唱だ。
彼女の雷魔法はばっちり俺の自動バフが効いていた。
木には枝の一本さえ掠らず、男にのみ打ち当たる。
情けない叫び声を最後にして、男は打ち倒れ、ぴくぴくと身体を跳ねさせていた。
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