16話 コピーした魔法を本家より上手く扱えるようになった件
「いやあ、やっぱりチェーロさんってばすごすぎますよ。まさか私の魔法精度だけじゃなくて、速さまで上げてくれるなんて♪」
夜、それも日が変わるほど深まった頃。
与えてもらった俺の部屋には、屋敷の主人であるレベッカが訪れていた。
もう寝ようかと思っていたところ、ふらりと現れたのだ。
ちょっと雑談でも、ということだったが、意外や話は盛り上がる。
結果的に、今日のノワール商会を撃退した件に、話は戻ってきていた。
「俺もあんな使い方はじめてやったよ。もしかしたら、いろんな使い方ができるのかもな」
「まあ、分からないことの多いスキルだって神官さんも言ってましたもんねえ。まあ、おいおい、やっていきましょう♪」
「そうだな。変に焦らないようにするよ」
「はいっ、それでいえばパーティメンバー集めも一緒ですね。まあ、ノワール商会からの請求書は取り合う必要もないくらい法外でしたけど、たしかにあれだけ集めちゃうと、どこからか嫉まれちゃいますし」
「だな……。まあ、たぶん今日の一件であそこまで応募者が来ることはなくなるだろうよ」
「さみしいですけどねぇ。これで中途半端な気持ちで応募してくる人がいなくなるなら、ある意味では儲けものですね」
そう、プラスに考えればそうなる。
別に急ぐ必要もないのだ。
辺境伯さまから、初級以外のダンジョンへの立ち入りは認めてもらったうえ、ビッグトレント討伐の依頼を貰っているということもある。
「メンバー集めより先に実績づくり、って言うのも手なのかもしれないな」
「そうですねー。さっくりダンジョン攻略しちゃって依頼こなしちゃうとしますかー」
「気を抜かない方がいいと思うぞー。なんだか、ビッグトレントのやつ荒れてるらしいし」
「気は抜いてませんよーだ。でも、楽しみではあるかもしれません。久しぶりに難易度の高いダンジョンに入れること、それもチェーロさんと入れることがっ」
そこで彼女は、うーんと伸びをする。
薄手の寝間着に身を包んでいることもあった。胸の張り出しが強調されて、かつ、驚くほどに白いへそがちらりとのぞく。
まったく無防備かと思ったが、
「ふふ、チェーロさんになら、もっと見せてもいいんですよ。ちらちらっと」
それすらも計算しつくされていました。はい。
俺が呆れて頭を抱えていると、追い打ちが来る。
「あ。触ってみます? お脱ぎすることも可能ですよ♡」
「触るわけがないだろっ!! というか、勝手にボタンに手をかけないでくれない!?」
深夜ということもある。
屋敷に住み込みで働くものたちなど、そのほとんどが眠りについている。
不要に声が響いてしまって、俺は口元を覆う。
しんと逆に静寂が訪れたときに、若干も違和感を耳が拾ってきた。
たしかに、なにかが聞こえる。喧噪の予兆のような、なにかが。
「レベッカ、聞こえるか、これ」
「は、はいっ。屋敷の外から。しかもこの音、もしかしなくても、だんだんと大きくなってるような……。まさか」
「なにか来るのかもしれないな」
さて、それがなんなのかは確かめに行かなくてはわからない。
俺たちは、それぞれ短剣と魔法杖を手にする。そろそろとした足取りで、屋敷を外へと出ていった。
不用意に姿をさらしては問題もあるかもしれない。
影に身を隠しながら、音のする方へと近づいていけば、とんでもないものを見た。
声こそ潜めているようだったが、これだけの人数がいれば隠しようがない。
「おいおい、正気じゃないな、あの商会」
「請求書を燃やした腹いせに夜襲なんて、卑怯にもほどがありますね……」
まったくその通りだ。
掲げられているのは、闇に紛れる黒色の旗。たぶん、これがノワール商会お雇いの魔法戦士たち一団なのだろう。
見える範囲で約100人ほどが大挙して、屋敷の外に詰め掛けていたのだ。
「ど、ど、どうしましょ」
「レベッカ、また焦ってるぞ、冷静になれって。どうせ、ただじゃ引いてくれない。被害を最小限にすることを考えよう」
「というと、どうするんです?」
「とりあえず、出ていくしかないと思うな。このままじゃ、外の門番が危ないからな」
「ふむふむ、たしかに」
俺たちは、少しの作戦会議を執り行う。
対処法を確認したうえで、さっそく動き出した。
といって、そんなに複雑なものではない。
「な、な、なっ!! さっきまで、どこにも姿はなかったはず。と、突然現れただと!? なんだ、妖術の類か!?」
「ま、まったく動きが見えなかった……。まるで疾風のごとき男だぜ、おいおい!」
風属性魔法を利用した高速の動きにより、まずは俺一人が彼らの前に躍り出るというものだ。
使ったのは、元パーティメンバーの魔術師・ワンダーが利用していた高速移動の魔法である。
だが、今の感覚。
ワンダーだって、ここまで早くは動けていなかった。
少し前までなら作戦からしてまず無茶なものだったが、うまくいったようだ。




