15話 不当な請求書なんて燃やせばいい。
引き続きよろしくお願いいたします。
エミリイさんたち使用人を敷地の中へと素早く引き入れる。
そののち俺たちは、門をはさんで男らと向き合った。
「……ああ、もうなんで邪魔が入るかなあ。せっかくの志望者さんたちが帰っちゃいましたよ、チェーロさん」
「おいおい、レベッカ。最初に気にするのそこかよ。もっとやばい状況になってるんじゃないの」
「まあたしかに? くろーい噂の多いカラスの商会さんにおしかけられてますからねぇ。もしかしたら、刺客たちと大戦闘なんてことになったりして」
俺たちの交わしていた会話が聞こえていたらしい。
門の外で、男はけたけたと笑う。
「へっ、なにを勘違いしてるんだか。馬鹿め。俺たちは清く正しいノワール商会さまだぜぇ? こんな真っ昼間から暴力に訴えたりなんかしないさ」
「じゃあ、なにをしにきたんだよ」
俺がにらみつけると、男はわざとらしく、
「おぉ怖い怖い。衛兵をも倒す男は違うねぇ」
などと後ずさる。が、頬が意地悪く吊り上がるのを隠せていない。
「なーに、ただの取引さ。チェーロ・アレッシならびにレベッカ・ジェメール。お二人がパーティメンバーを募集していると聞いた我が商会のお雇い魔法使いが数人、仕事をボイコットしてねぇ。その賠償をしてほしいだけのことさ」
「……それ、俺たちには関係ない話だと思うけど? きっかけになっただけで、どうせお前たちの雇用条件が悪かっただけのことだろ」
「だとしたって関係のない話さ。結果的に俺たちは、お前たちのせいで被害をこうむった。この事実はたしかにここにある」
そう一方的に突き付けて、彼は懐をごそごそと探る。
取り出されたのは、一枚の紙きれだ。
頭のうえに高く掲げられたそれに書かれているのは、「損害請求書」の文字。
その額が驚愕のものであった。
「このとおり、2000万ベル。請求させてもらう!」
こどものお遊びでしか聞かないような、法外すぎる金額であった。
絶句する俺の横、さすがはお嬢様。
レベッカは平然と、2000万かあ、とつぶやく。
「ないとは言わないけど。そんなもの払えるわけがないでしょう? 理屈が通ってないもの。あなた、貴族相手だからって吹っ掛けすぎじゃないかしら。負った損失の額も計算できない商会があったなんてねぇ……」
まさしく、ド正論。
堂々と言い切ってみせるレベッカの態度は、あまりに余裕に満ちていた。
その綺麗に筋の通った鼻を、ふっと鳴らして笑う。
が、男の方も負けていない。
「おいおい、お嬢ちゃん。いくら公爵貴族の娘だからってなめちゃいけないぞ? ここはたかが別荘。公爵家の当主がここにいるわけじゃないんだ。俺たち商会だって、相応に大きいんだ。ここで言うことを聞いておかないと恐ろしいことに――」
と、ここまで聞いたところで、レベッカに我慢の限界点が来たらしい。
「あの、チェーロさん。お力をお貸しいただいても? あの請求書、燃やしてしまいたいんです」
可愛く華やかなその顔は、たしかに笑っている。
が、たぶん心の中では冷たい風が吹き荒れているに違いない。
それくらい温度感のない笑みであった。
「いいのか、そんなことして。というか、いつもの調子でやったらあの男ごと燃やしてしまうんじゃないの」
まあ、別にそれでいいというなら、殺さない程度であればいいのだけど。
正当防衛だしね。
「はっ、そういえばそうでした……。でも、きっとチェーロさんの補助があれば、あの紙だけ、ぼわっと消し炭にできる気がするんです」
「……自信はないけど、そういうなら力は貸すよ。レベッカの方が正しいことを言ってるのは明らかだしな」
俺は、前にやったみたく彼女に力を貸せるよう祈る。
が、今回は試してみたいこともあった。
祈りにより、自動バフは発動する。ならば、より具体的に祈ればどうなるのか。
それが知りたかった。
『
魔法属性:雷
体力 300/300
魔力 300/500
威力 1550
俊敏 100(+50)
耐久 100
命中率 80(+78)/100
その他特殊スキル なし』
結果、実験はうまくいった。
レベッカのステータスは命中率だけでなく、俊敏さにもバフをかけるよう祈り、そのとおりになってくれた。
自動といいつつ、その度合いも調節できるらしい。
前より全体のバフ数値が向上しているのも、信頼が築けてきている証かもしれなかった。
「か、身体が軽い。これならっ!」
レベッカも効果を実感していたらしい。
「疾風迅雷・レピッドサンダー!」
口元のみの小さな詠唱とともに、彼女は腰から魔法杖を素早く抜くと、男の方へと振り付ける。
それは、見事に男の手にしていた請求書の端のみをかすめて、空中へと消える。
うん、命中率の方も問題なく作用してくれた。
紙の方はもう、灰と化している。
風にさらわれて、どこかへととばされていった。
「……な、な、な、なにをしやがった!!!?? さっきまで握っていた請求書がないっ!?」
「さあ、分かりません。それで、あなた手ぶらでなにをしにきたんですか? 早く帰った方が身のためだとおもいますよー」
レベッカの言葉の節々には、怒りがにじみだしていた。
交渉道具さえ失った男は、それを恐れたらしい。
青い顔になって一度身震いしたあと、すごすごと引き下がっていったのであった。
やってもいない事件の賠償なんて、もちろんしません!
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