14話 募集もしてないのにパーティ入団希望者が多すぎな件
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屋敷を訪れた衛兵により手渡された一通の証書が、レベッカを舞い上がらせていた。
ありがたや、ありがたや。そう、俺を拝む。
「すごい、すごいですよ、チェーロさんっ! ダンジョンの立ち入り許可のみならず、辺境伯さま直々の依頼がギルドを通さず来るなんて! チェーロさんは神の子ですか、もしかして神様そのものだったりしません?!」
不思議な話だった。
仕官話も謝礼も断った翌日の話である。
本来ならば、失礼な人間だと切り捨てられて然るべき。
だのに、辺境伯さまから与えられたのは、普通では到底考えられないような厚遇であった。
レベッカは証書を握り、飛びつく勢いで俺に身を寄せてくる。
一気にゼロ距離に入ってくるので、俺は身をのけぞった。
やっぱりこの距離感には慣れない。
「さっそくこの『ビッグトレント討伐』クエストに出向いちゃいますかっ!? さっくりあっさり、実績作っちゃいますか!」
「おいおい、ちょっと落ち着いてくれよ。気持ちがはやるのは分かるけど。
その前に片付けなきゃいけないことがあるだろ」
「あ、そうでした。すいません、私ったら、なにかあるとつい周りが見えなくなっちゃうみたいで。
ちゃんと正してくれてありがとうございますっ☆」
てへ、と舌を出して自分の頭を軽くこづくレベッカ。
うん、超がつくほどあざとい。
こんな振る舞いを見れば、距離感を気にしていた自分が馬鹿みたいに思えてくる。
俺が苦笑いを浮かべていると、その顔の前で彼女はぱちり手を叩いた。
「よし、じゃあそっちから片付けちゃいましょうか」
♢
クエストより先に片づけなければならないできごとというのも、例の衛兵らとの一悶着が発端となっていた。
「ぜひとも俺をパーティに入れてくれ! チェーロさんこそ、幻のSランク冒険者にふさわしいお方っ! 一生ついていきますから!」
「女性を守るために、あの悪徳衛兵をどかって倒しちゃったんでしょ? しかも、衛兵にスカウトされるだなんて、すごすぎ。私も彼の元で修行したいっ」
「わかるわかる。うちのパーティも、所属ギルドも待遇悪いってのもあるし」
あの一幕で、かなり名前が知れてしまったらしい。
屋敷の外には、パーティメンバー志望者がわんさか参集していた。
エミリイさん含め、レベッカの使用人らが応対してくれているが、収拾はつかない。
「私、チェーロさまとお近づきになりたい……じゃなくてパーティに入りたいっ」
「俺はレベッカ様と仲良くなりてぇぜ! あのやんごとなき身分に容姿……! 同じパーティに入って、ずっと眺めていてぇ」
中には、邪な思いを隠さぬ者さえ紛れていた。
俺とレベッカは、階上のバルコニーからそれを遠目に眺める。
「…‥すごいことになってんな」
「あはは〜、大丈夫です。安心してください。私はチェーロさんだけのレベッカですからねっ♡ あーいう不埒な人は、パーティにいれませんよ」
「前半の発言はともかく。そりゃあその方がいいだろうよ。でも、そういう輩を除いても、到底抱えきれない人数だぞ」
もはや、すぐにでもギルドを作れてしまいそうな人数だ。
「嬉しい悩みですよね。昨日まで誰一人申し込んでくれなかったのに、今日はパーティの志願者が屋敷にまで殺到するだなんて」
「……身分が思いっきりバレたのはいいのかー?」
「あの状況じゃ仕方ないですよ。それより、新メンバーのスカウトチャンスです! 前向きに捉えていきましょうっ」
レベッカは能天気にこう言って、拳を握り締める。
「……ま、それもそうだな」
ひとまずは彼女に同意した俺だったが……撤回せざるをえない状況はすぐそこに待ち受けていた。
俺たちが門の前まで出ていったところで、志望者たちが突然に次々と離脱しはじめたのだ。
一気に閑散とする屋敷前。
そこへリーダー格らしき男が、がなりあげる。
「おいおい、ずいぶん勝手なことをしてくれるじゃないか。俺たちのコマ……おっと口が滑った。大事な大事な魔法使いたちを引き抜こうなんてよぉ!」
一難払ったと思えば、また一難だ。
うーん、どの立場の人間にも一定数、どうしようもない人はいるらしい。
趣味の悪いカラス柄の紋で、誰なのかはすぐにわかる。
マーレシティに籍を置く商会・ノワール商会。
不当な残業を強いていたり、使えないと分かるとすぐクビにしたり、汚れ仕事もやらせているだとか。
あくまで噂とはいえ、悪名の絶えない団体からの刺客らしかった。
……というか、引き抜きをしかけたわけじゃないんだけどね? 勝手に集まってしまっただけだ。
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