1話 荷物持ちは用無しと追放される。
本日からよろしくお願いします!
それはまったく突然の出来事だった。
「冒険者チェーロ・アレッシ。誠に遺憾ですが、君には本日限りで当ギルド『星のまたたき』から出ていっていただくこととなりましたので、ここに通知いたします」
誠に遺憾、などとは全然思っていなさそうな表情で告げられて俺は言葉を失う。
クエストがあるから、とまさに今しがた受付に来たばかりでまさかの宣告だった。
ものを言えなくなる俺に、ギルド職員は無情にも淡々と手元の資料を読み上げた。
「君が荷物持ち兼マッパーとして所属していたわがギルドのナンバーワンパーティがあったでしょう? そのリーダー・ガーバー様から、お話があったようです。あなたをパーティに置いておく理由がなくなった、とのことです」
「……そ、そんな。どうしていきなり?」
「代わりに、荷物ももちだけではなく、多種多様な魔法を使えるより優秀な方が見つかったそうですよ。なんでも、防御にもバフ魔法にも優れているそうで。そちらの方の代わりにあなたが不要になった、と」
俺は解雇理由を聞きながら唇をかみしめる。
もちろん悔しい。悔しいのだけれど、そう言われてしまえば返す言葉がないのが、俺だった。
ギルド職員はなおも一本調子で言う。
「仕方ありませんよ、チェーロ。あなたは冒険者には向いていなかったのです。
なにせ、この世の中、誰でも大小こそあれ魔法を使えるというのに、あなたの属性は『空』。一切魔法を使えぬ冒険者など、前代未聞。聞いたこともありません」
「……そんなことは承知していますよ」
他人に改めて諭されずとも、この身でもって、どれほど直接的に味わってきたことか。
思い返すだけで、苦い気持ちが思い出が、よみがえってきた。
普通、15の歳になればだれでも魔法を使えるようになる。
火、水、風、雷、土、これらの属性のいずれかは、身分に関係なく手に入るのだ。また恵まれたものは、同時に『剣聖』や『剛力』といった特殊スキルを与えられるものもいた。
しかし、なぜか俺に与えられたのは、『空』という大外れ能力。もちろん、特殊スキルもあつかえない。
魔法・スキル授与式において、俺にそう判断を下した神官も、
『こんなものは見たことがない。だが、たしかなのは一つだけ。大ハズレスキルだということだ……』
と言葉をなくしていた。
向いていないのはわかっていた。
戦うパーティの背中でなにもできない自分をふがいないと思ったことが何度あったか。
が、承知の上でも俺は冒険者をあきらめきれなかった。
家が貧しいため、どうにか仕送りをしたいという思いがあったためだ。
俺みたいな大した身分も手に職もついていない若者がもっともお金を稼げるのは、冒険者職のほかになかった。
幼いころから剣術を学ぶなど、ずっと冒険者に憧れていたということも、もちろんある。
「チェーロ、いままでが奇跡だったのですよ。あのような優秀なパーティに君のような落ちこぼれが付いていることが初めからおかしかったのです」
「わかっていますよ、実力がないことは。でも、その分、それ以外のことはなんだってやってきたんだ」
本当に、なんでもだ。
クエストの受注や結果報告、クエスト中の道案内、荷物持ち、調理に休憩中の見張りなどなど。
戦えない分の埋め合わせとして、面倒な庶務はほとんどすべてを引き受けた。いわば雑用係だ。
不平不満は言えばきりがないが、それがパーティに入る際、俺に課せられた条件だったし、とにかく懸命に尽くした。
しかし俺の扱いは、はじめから奴隷同然で、日を追うごとにさらにエスカレート。
『おい、ごくつぶし。今すぐここで、ひざまずいて、俺様の靴を舐めろ。魔物の血で汚れちまったんだ』
こんな無茶な要求をされたこともある。
クビになりたくない一心で、実際に舐めようとすると、
『お前のつばの方が汚えよ、ごくつぶし』
と、容赦なく顔面をけり飛ばされた。つい睨むと、怒鳴り上げて、今度は腹がえぐれるかと思うくらいの拳で殴られる。
もはや人でなく、おもちゃみたいな扱いだ。とくにガーバーには、ストレス発散の装置だと思われていたに違いない。ある時は魔法も使えないのに、コボルトの群れの前へ放り出されて、半殺しにされたこともある。
その時できた切り傷は、いまだに背中に大きな跡として残っている。
けれど、それでも我慢をしてきたのだ。
殴られても蹴られても無視をされても、得た報酬や担った仕事に比して明らかに少ない給料でも、与えられた役割だけはきちんと果たした。
冒険者でいられるためには。少しでも家に送るお金をためるためには耐えるほかない。
その一心で。
「ガーバーに会わせてください、納得いきません」
俺はなおも食い下がる。
が、しかし。
「残念ながら、もう金輪際、顔は見たくないとおっしゃっていました。それに、あなたは既に我々のギルドに所属するパーティの冒険者ではない。これ以上、なにか言うようならば強制的に追い出しますよ」
ギルド職員が目を流したのは、受け付けカウンターの脇に控える警備兵だ。その手には槍がにぎられていて、俺へと鋭い視線をむける。
それでも俺がカウンター前から離れずにいると、それは告げられた。
「チェーロ。あなたは、なにもわかっていないようだ。ガーバー様はこのギルド所属のパーティでも稼ぎ頭。彼の頼みを叶えるためなら、私たちは君の命を奪うことだってできるのですよ。
なんなら安いものです。
あなたのような魔法の一つすら使えないゴミの死、なんていくらでも誤魔化すことができる。クエストで死んだことにして処理すればいいだけの話」
まさか、そこまで軽んじられていたとは。
俺は膝から崩れ落ちる。
「賢明になることですよ、チェーロ。私たちだってむやみな殺傷は避けたい」
カウンターを周りこんできた職員は冷ややかな笑みを浮かべると、俺の肩をたたいた。
かくして、俺はパーティを追放となったのであった。
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