第二十八話 収穫、夏の交渉
今回はザックリと。
収穫の季節がやってきた。
今日は超・猛暑日。
水筒と水は携帯必須だ。
徹夜でカラスや猪を追い払った甲斐があったのか、トマトは一個も欠けることなく、赤く実った。
私は丁寧に、噛み締めるようにトマトを捥いでいった。
もしかしたら最後になるかもしれないトマト栽培及び収穫。
今はラヴィオを信じるしかないけど、恐怖の方が勝ってしまっている心境。
とりあえず一個だけ、トマトを私は齧ってみた。
その味は。
今までで一番の出来といっても過言ではない味だった。
甘味がガツンときて、アクセントで酸味が来ているという、私が理想とした、スパイアさんのトマトとよく似た味だった。
これだ、これならいけるかもしれない……私はそう確信した。
私は収穫したトマトを、氷水を入れた箱の上に、別の箱にトマトを入れて乗せて保管した。
日持ちするように、少しでも出来ることは私はしていった。
……もしかしたらこのポツンとした家ともオサラバになるのかもな、裁判は8月頭にやるとはいえ、再審請求は上告審が出来ないのがフェミータの法律だ。
つまり一発勝負。
ラヴィオが私のことを、この一、二年かけて調べてくれたとはいえ、不安の方が大きかった。
判決が逆転しなければ私は不法入国罪で死刑だ。
それも即、だ。
身体が恐怖で震えて眠れない。
初めて裁判所に来た感覚と同じだ。
あの時はまだ家柄が良かったので、大丈夫、大丈夫だと言い聞かせていたが、今回は「死と隣り合わせ」なんだから、怖くない方がおかしい。
結局その日は一睡もできなかった。
翌朝水面を見た時には、目の下がクマが異様に濃かったのだった。
私は馬車を借り、「ルナ・ヴァンヴィ」の名目でフェミータ王国の門を潜った。
行き先は勿論、農業組合だ。
「今日はよろしくお願いします。」
私は礼儀正しく頭を下げる。
肩書き上は一人で農家をしている独身女なのだ、お嬢様然としていればバレてしまう。
「おお、ルナ、君か。どうだい、冬から変わったことはあるかい?」
「ええ。まずはご試食くださいませ。」
今回は本当に自信がある。
そうでなければ私の方から試食を勧めたりなどはしない。
前回と同じ、恰幅の良いオジサンが試食をした。
ガブッ、と豪快に齧る。
緊張が走る。
好評はどうだったのか、というと……。
「うん……いいね。良い水と……良い土と……そして何より妥協していないトマトだということだとわかるね。この瑞々しさと……ハッキリとした甘みがそれを物語っている。」
「ありがとうございます!!」
私は思わず声が弾んでしまう。
あとは値段の交渉だ。
トマトは野菜としては夏が最もよく獲れるので、自然と安くなる。
今年もどうやら安くなるとのことだったが、他に負けないようなトマト作りはしてきたつもりだ、プレミア価格で勝負できればいいのだが……、という思いとは裏腹に、交渉は恐ろしく長引いた。
結局交渉した日は、一個あたり銀貨3枚で妥協せざるを得なかった。
私は宿を借りて、一泊してトマトの販売に備えたのだった。
次回は再挑戦編の終了、次次回から始まる最終章の前段階となりますので、よろしくお願いします。




