第十九話 真心込めたトマトスープ
冬に食べたい一品・トマトスープ。
翌日。
私は動き出した。
トマトを売ってもらえないなら自分で売ればいいじゃない。
そう思い、出店を構える。
勿論トマトも一緒に、だ。
ただ、寒いので一個も売れなければ私が凍え死にかねない。
なので、私も寒さに耐えられて且つ一般の方々の身体も温まる料理を作らなければならなかった。
そこで私は、トマトスープを出店で出店することを決めたのだった。
鍋と炭と竈門、包丁、俎板を購入し、朝寒い時間から仕込み作業を行った。
炭を焚いているので私の指もまあ温かくはなっているのでトマトも切れる。
あとは水を溜めた鍋にトマトを入れて煮込んでいく。
30分沸騰するまで煮込んだあと、塩と胡椒で味を整えて完成だ。
これでトマトほぼ100%のトマトスープの完成だった。
7時の開店を待つだけ。
その間、トマトスープを弱火で温めながら私は暖をとった。
「トマトスープ、いかがですか〜」
私は村でやった時と同じように声を出して接客していくが、そう簡単にはいかない。
何せ道行く人、みんなスルーして行っているのだから……。
値段も銅貨3枚分なので、安いのには変わりないはずなのに……。
まあ、わざわざ何処の馬の骨かも分からない私のトマトスープなんて、誰も飲みに来やしないだろうし。
そう思いながら接客を腐ることなく続けて30分経過。
公務前の貴族だろうか、1人の男が私の出店前に足を止めた。
「一杯来れんか。」
「はい。銅貨3枚になります。」
そう言って、私はお玉でトマトスープを使い捨ての容器に注いでいく。
煮込む過程でトマトは潰してあるので、飲みやすい構造にはなっているのだが……果たして男の反応は。
「……ふむ。美味いな。朝食には丁度いい。」
「ありがとうございます。」
満足した男は、側に用意したゴミ箱に容器を入れて立ち去っていった。
この後、工場勤務の男性だったり、縫製業で働いている女の人だったりと、次々とお客さんが訪れるようになり、私は対応に追われた。
まあ、元々売る用で用意していたトマトだったので、腐るほどあるし、もし切らしてもまた作ればいい話だ。
だが1人ではキツいのは変わりなし。
昼頃には鍋の中がすっからかんになり、私は2回目の調理作業に追われたのだった。
昼の出店の時、噂を聞きつけたのか、意外な人物がやってきた。
「一杯頼む。」
私は一瞬目を見張ったが、それもそのはず、ラヴィオのお付きの近衛兵長だったからだ。
私も顔はよく知っている。
が、ここでお首に出しては私が「ルフィア」だとバレかねない。
だから営業スマイルで誤魔化すことにした。
「はい、銅貨3枚になります。」
その後、私はトマトスープを注ぎ、近衛兵長に手渡した。
近衛兵長が一杯、グイッと豪快に飲んだ。
「……ふむ……なかなか美味いな。身体の芯から温まる。感心するぞ、店主の女よ。」
「恐縮です。」
……普通に目元を見て気付かないのもどうかとは思ったが、むしろ今のぐらいが丁度いい。
と、近衛兵長が、私に声を掛けた。
「……持ち帰りでもう一杯、頼みたい。」
「……それは宜しいのですが……どのような目的でいらっしゃるのですか?」
「ああ、すまないな。ラヴィオ様がお目覚めになってな。それで体力を回復させられるものを探していたのだ。」
ラヴィオが目覚めていた……その事実だけでも安堵なのだが、本当に彼はラヴィオのことをよく考えているのだな、と感心した。
私は口角を上げ、応対した。
「では、銅貨3枚お支払いを。保温用の蓋と共にご用意いたしますので。」
「助かる。」
こうして、手渡した。
近衛兵長は、満足したような顔を浮かべてさっていったのだった。
人気がなくなる夜9時まで私はトマトスープを売り続けていた。
結果的にトマトは何個か残ったのだが、内容はまさかの大盛況。
初めてのフェミータ王国売り出しにしては上々だった。
私は意気揚々と、クレイスター村へと帰還して、夏に備えたのだった。
次回から二、三話は、ラヴィオ視点に切り替わります。
ごっちゃにならないようご注意願います。