第十四話 事件の真相②
この回は地下牢へ行きます。
で、エリンも動きます。
私は地下牢へ行き、禁固刑になっている件の女囚達に話を聞くことにした。
一人一人の独房を、片っ端から訪問して行って、だ。
すると……まー、出るわ出るわ、冤罪のオンパレード。
自白剤を混ぜた食事を摂らせていたからが故、ではあるのだが。
私が聞いたのは、私にパーティー会場で会った、数日後に謂れのない罪で拘束されたとのことだ。
しかも同一犯とバレないように、全ての罪状がバラバラだったということも判明した。
こんなことが出来るのは頭が良い人間以外には考えられない。
私は女囚達を秘密裏に解放し、近くの再審請求者隔離場まで連れて行った。
次に私は、近衛隊長に連絡し、冤罪で禁固刑になった女囚達の再調査を命じた。
証拠がなければ冤罪なのだから。
結果次第ではジャンを更迭出来る、とした上で、私は近衛隊長の報告を待つことにした。
一週間後の報告でも、案の定証拠は出なかった。
一つもだ。
ジャンがいるままでは、再審を請求しても同じことだろう、と判断した私は、司法省を調べさせることにし、私も同行した。
丁度ジャンが別の裁判で裁判長をやっているタイミングだったのが幸いしていたので、心置きなく証拠を掴むことができる。
恐らくは買収されているだろう、証拠が破棄されているかもしれないとは思っていたが、執事の話によると、ジャンはそういう男ではないらしい。
何処かに記録を閉まっておく男だと。
近衛隊長の部下の話によると、長期化する裁判になるということだったので、焦らず冷静に捜索できる。
と、ここで近衛隊長が何か怪しいところがあると私を呼んだ。
一見普通の机だったのだが、書類をどかすとそこには鍵付きの何かがある。
「鍵はあったか? 近衛隊長。」
「いえ……それが、一向に探してもそのようなものは……」
「そうか……やはり用心深いな、もし疑われてもバレないという自信があったということか。」
「そのようでございますな。」
考えろ、ラヴィオ……ルフィを救うのではなかったのか……!?
考えろ……! ここまで来て水泡に帰すのか?
考えた結果、私はこう結論を出した。
私は護身用のナイフを取り出した。
私のパワーさえあれば、鍵穴も斬ってこじ開けられる。
ナイフの刃、一点に集中させる。
鍵穴に向かって。
「せぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇい!!!」
勢いよく振り下ろされたナイフは鍵穴をぶった斬った。
ロック機能を失い、仕込み扉が開くようになった。
開けてみると、やはり情報が出てきた。
どうやら記録用紙とのことで、何やら入金明細のようなものが入っていた。
給与とあれば、サインは必須だが、そのサイン名に書かれていたのは…………。
「エリン・バレンツァ」と書かれていた。
「ラ……ラヴィオ王子……これは……」
近衛隊長も俄には信じ難かったようだった。
私も同感だ。
あの事件、やはりエリンが関わっていたのか、と思うと……怒りが湧いてくる。
「……兄上と父上に説明しておこう。王族からの……非正規の入金、つまりは収賄罪だ。だがこのことを漏らしてはいけない。事件の顛末は……これで動くぞ。」
私は王宮へ猛ダッシュした。
証拠を全て持って。
このことを父上と兄上に説明する。
この証拠達を持って、解職通知書と逮捕状を作成してくれるということだ、とりあえずは一安心だ。
あとは漏れていなければいいのだが……私は気が気ではなかった。
三日後、父上名義でこの二つが作られた。
あとはジャンの元を訪れるだけだった。
司法省裁判長室。
私は複数の軍隊を連れて押しかけた。
「な……!!! 何故軍がここにいる!?」
ジャンは予期せぬ訪問に腰砕けになっていた。
漏れてはいないようだな、と確信し、書類を突きつけた。
「ジャン・アルツマン……貴様を多数の冤罪を理由に本日付で裁判長の解職を通知すると共に……貴様を収賄罪の容疑で逮捕する。」
軍がジャンを取り囲む。
「何故だ……何故漏れたのだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
……清々しいまでの発狂ぶりをジャンは見せてくれた。
尚も逃げようとするジャンを兵士たちは取り押さえ、連行して行った。
これで一安心、あとはエリンの証拠を立件できるかどうかだった。
まだボロを出し切ってはいないエリンをどう捕らえるかだが……私の悩みのタネはまた一つ増えたのだった。
が、ジャンは検察の取り調べにも黙秘を貫いており、進展がない。
私が赴こうかとも考えたが、これは私とエリンの頭脳遊戯だ。
察知されては私も消されかねない。
作戦を練るしか方策がなかった。
一方エリンの屋敷では。
「お嬢様! 一大事でございます!!」
「? どうしたの? そんなに慌てて。」
彼女のお付きの執事が息を荒げて報告した。
「ジャンが……ジャン裁判長が……本日付で解雇! そして収賄罪の容疑で逮捕されたとのこと!!」
「え……ジャンが……!? 何故漏れたの!?」
「わ……分かりませぬ……ですが、裏で何者かに動かれていたことは間違いありませぬ……!!」
エリンは一息吐く。
「……分かったわ。私の身も危なさそうね。だけど……手ならあるわ。」
エリンは口角を上げる。
そして執事にこう告げた。
「……恐らくはラヴィオ従兄様が……この件には関わっていると思う、だから……口封じで毒殺するわ。遅効性の強毒を用意してちょうだい。」
「よ……宜しいのですか……? 万が一が有れば……」
「いいから早くしてちょうだい!! 保身に万が一もへったくれもないわよ!!」
「か、かしこまりました!!」
執事はそう言ってエリンの部屋を出ていき、遅効性の強毒を買い求めに出かけて行った。
エリンは爪を噛んでいる。
(やってくれたわね、ラヴィオ従兄様……!! でも……もうそうはいかないわよ……!! 貴方が私のものにならないのであれば……永遠に私のモノにしてやるわ……!!)
どうやらジャン逮捕の情報が漏れていたようで、私の命に危機が訪れていたのだが、それは私も知る由はなかったのだった。
エリン王女と、再び二人っきりになる前日になるまでは。
次回、再調査編の終幕です。
どんな結末を迎えるのか……刮目してください。