第十二話 従妹の暗躍
この回は今作最大の悪役が出てきます。
ラヴィオとマシューの兄弟会話もありまっせ。
私は今日もルフィの事件の再調査をしている。
でっち上げられた証拠とルフィの日記とでの不一致は確認できたのだが、誰の差し金かは未だに謎に包まれたままだ。
もう1ヶ月も経ってしまっている。
私は兄であるマシューにこの件を打ち明けることにした。
「兄上……今私が調査している件について、なんですが……」
双子なので同い年なのではあるが、マシューの方が立場は上なので、仕方なく敬語を使う。
髪の色が私は銀で、マシューが金、という違いぐらいしか見分けがつかないので、何も知らない人間からは、よく間違えられることもしばしばある。
「ああ、サーリャから聞いたよ。……ルフィア・ヴィスパーダの件だろ? ……悪いな、ラヴィオ……俺もそこは掴めていないんだ。……あと何回も言ってるだろ、いくら皇太子とはいえど……いつものように接してくれと。」
マシューがそう呼べと言われているので、私もフランクに話すことにする。
「……まあ、そうだな。今、誰もいないしな。……で、なんだが……誰が怪しいと思う……? 王族、ということはあまり考えたくはないんだが……」
マシューは私の質問に少し思慮しているようだった。
「そう……だな……お前の話を聞く限りだと……ルフィアがシロなのは間違いないとは思うんだがな……王族、かあ……そうなると……やっぱ、アイツじゃないか?」
「? アイツとは? マシュー。」
「従妹の……エリン、な気がするな……アイツ、ラヴィオのことが好きすぎて仕方なかったしな、昔っから……」
エリン、という言葉を聞いてしまった私だが、一応説明しておくと、父の妹に当たるのがエリンの母で、エリンはその母の娘なのだ。
立場は第四王女。
歳は私やマシューより二つ下。
私のことを異常なまでに敬愛しているフシがあるのではあるのだが、まさかな……と、思い直す。
「エリン王女………か……可能性としては高いわけではないのだが、調べてみるとしよう。」
「だな、ラヴィオ……俺も協力するよ。……とはいえ、俺はラヴィオと違って時間があまりにも取れないからな……探り探りで行くといい。」
「ああ、感謝するよ、マシュー。それじゃあ、な。」
といい、私はマシューの元を立ち去っていった。
エリンの部屋に着いた私は、エリンの使用人に彼女に話がしたい、と声を掛けて、入らせてもらうことになった。
……まあ、最初は他愛もない話でその気にさせることだったのだが、エリンは話し出すと長いので、私も本題を忘れそうになる時がよくある。
慎重に、且つ真相にまで迫らなくては行けない。
何せエリンは私に対しての異常なまでの愛を持っているのだ、真相に迂闊に触れられたら最悪私でも消されかねないし、私が今まで関わってきた女性も、何故か体調を急に崩したり私の前から居なくなったりと、散々な女性運だったのだから……エリンに聞けば何かしらわかるかもしれない、と思っているのはあった。
まあ、そのうち話すだろうと思って私が踏み込む。
「……エリン王女……昨年2月の午前7時……どこで何をしていたか……覚えている範囲でいいから答えられるか……?」
ルフィの調査をしている、ということは隠しながらではあるが、まずはそこを探らなければいけない。
日時から、全部を。
ちょうど、ルフィが逮捕された日だ、一致していなければおかしい。
普通なら、その一報を朝届く新聞か何かで知るはずなのだが。
「うー……ん……そう、ですわね……部屋で……身支度を整えていましたわよ……? それがどうかなされましたか……? ラヴィオ従兄様……??」
まあ、去年の身支度のことなんて、覚えているわけがないのだが、それでもあれだけ国をざわつかせた事件なのに何故こうもマイペースなのか……少なからず疑問を覚えた。
怪しいもいいところだ。
私は更に聞く。
「……国家転覆扇動罪の事件を知ったのはいつだ?」
エリンは答える。
「……貴族たちの会話で知りましたけど……どう、なされたのですか?」
どうしたのか、と聞かれると真相を話したくなるのだが、エリンがクロに近いと分かった以上、話すわけにはいかなかった。
「いや……去年みたいなことが起こらなければいいな、って思っただけだよ。もう苦い想いをするのは、私も嫌だからな。」
必死にはぐらかす私に、エリンはクスクスと笑っていた。
「フフフ……今日の従兄様、いつもと違って……お可愛いことですね?」
「………まあ、何が面白かったのかは置いといて、だが……それじゃ、これにて失礼するよ。」
私は立ち上がって、エリンとの会話についてまとめ上げることにした。
「いえいえ、ラヴィオ様も……お忙しい中、私とお話しする時間をくださいましてありがとうございました!」
エリンはドレスの裾を上げて一礼した。
私もエリンと従者に頭を下げて、エリンの部屋を後にした。
(……匂うな……エリンがルフィを嵌めた……って可能性が……いや、まさかな。王族を疑っちゃいけない、そう母上に教わったからな。)
私はどこかモヤモヤを残しながら業務に戻ることにしたのだった。
一方エリンは、というと。
「……そうか……従兄様……やっぱりまだ、ルフィアを………フフ、フフフフフフフフフ……………♡」
……私に身の危険が迫ろうとしていたのだが、私はそのことをまだ、知る由もなかった。
エリンは……超ヤンデレです。
めちゃくちゃタチ悪いですね。