序-005友として
ドヤ顔でゼロを名乗ることにしたと言ったはいいものの・・・リアスの生暖かい視線が刺さる。
頼むからその目を向けるのをやめてくれ。
「うん・・・確かにこのウェルバスフで姓を持つのは貴族以上の立場の者くらいだしね。本名名乗ったら物理的に首が飛ぶ可能性もない・・・か。いい考えだとおも・・・ップフ・・・ハハッ。いやーごめん、どうにかして笑いを堪らえようとしたんだけど無理だったよ。けど実際今述べたような理由もあるし零士なんて名前の人聞いたこともないね。君もそうだろう?」
「仰るとおりかと。いらぬ問題を持ち込むくらいなら名前を変えたほうがいいでしょうな」
「というわけで、改めましてゼロくん。頼んだよ」
「・・・わかった。で、刀は?」
「今のウェルバスフで生きていけるような業物を創るには少しだけ時間がかかるから訓練用の物で我慢しておくれよ?」
「構わない」
「では・・・そうだね。実のところ訓練と言っても内容が決まっているわけじゃないんだ。後は頼めるかい?」
「御意に。ではうぬよ、儂についてくるが良い」
「わかった」
「そういえばさ、これから俺はあんたと一緒にこの世界を回ることになるんだろ?」
「相違ない」
「あんたの名前は?わからないと呼びにくい」
「名か・・・とうの昔に捨てた。好きに呼ぶかよい」
この髑髏の仮面の男、リアスの側近?ぽいけど一体どんな生き方をしてたんだ?そもそも生きてるのかどうかもわからない。
「勝手に名前決めちゃっていいのか?」
「構わぬ。それを儂が認めるかは別だがな」
確かリアスの説明によると暗殺を生業にしてたんだよな・・・うーん、地球の知識だとやっぱりハサン・サッバーフが思い浮かぶんだけど・・・。
日本だと忍者がこれに当たるのか?けど忍って感じもしないしなぁ、背にめっちゃでかい大剣背負ってるし・・・。
「うぬはくだらぬことに拘るのだな」
「くだらない、かあ。ウェルバスフだと名前ってそこまで大事なことじゃないのか?」
「そうではない。生まれたときに産んだものから名を賜る、そしてそれを背負い生きてゆく。それはうぬが来た世界と違わぬであろう?」
「うん・・・まぁ。背負うっていうとすごい重たく感じるけど・・・」
「そうであろうな。儂がわざわざ説明するのも面倒なのだが・・・名というのは重要であろうよ。特に手柄を得ることができれば叙爵される可能性もあるのだからな。儂は其奴らを獲物としておった側なのだが、名など知られてしまえばそこから情報を掘られることもある。だから捨てたのだ」
「じゃあ捨ててだいぶ経ったから覚えてないってことか?」
「どう捉えるのもうぬの自由だ」
「そっか、じゃあ名前はしばらく考えておくことにするよ。話は少し変わるけど、リアスが言うにはおれがあんたの主になるんだろ?そこに異論はないのか?」
「仕えるに能わぬ相手であればうぬはこちらの世界に着ておらぬ」
「そうなのか。じゃあ一応はあんたに認められたってことなんだな。これから長いこと付き合っていくんだろうしよろしくな」
そう言ってゼロは握手をしようと手を差し出すのだが・・・髑髏の仮面の男はそれを返そうとはしてくれない。なにか遠い昔のことを思い出すかのように目を瞑り、考え事をしていた。
(主に悟られぬようにせねば、な。そうか・・・ではリアス様と・・・)
「おーい?どうかしたか?」
「・・・何でもない。で、その手はなんだ?」
「え?この世界にはないのか、握手だよ。んー・・・なんて説明すればいいんだ?俺は利き手が左なんだけど、今も出してるだろ?」
「そうだな」
「利き手を相手の前に出すってのは・・・相手に対して敵意がないです、ってことを意味するんだ。確かだけど」
「ふむ・・・そのような意味合いがあったのだったな。では儂も返さぬわけにはゆくまいよ。主よ、儂はこれからこの身をもって主を守ることを此処に誓おう」
「いやー・・・護衛対象とかじゃなくて単純に友として、でお願いしたいんだが・・・主従関係なんて表向きだけでいいよ。そういう堅苦しいのあんまり好きじゃないし」
「そう、か・・・ではこの場合はなんと返せばよいのだ」
「普通に右手を出して俺の手を握ってくれればいいんじゃないか?」
「相分かった」
こうしてゼロと髑髏の仮面の男が友としてこの世界――ウェルバスフを旅することが決まったのだった。