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ナオキと十の部屋  作者: 木岡(もくおか)
・五の部屋
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慣れる

 男はナオキ達が上ってきたエスカレーターを上り小走りでこちらに近づいてくる。ナオキは情けない態勢になってしまっているがどうにも体が言うことを聞いてくれなかった。


 耳が完全に隠れているほどの長さの茶髪を整髪料で固めている男は、ナオキの下までたどり着くとナオキの背中をさすった。


「大丈夫ですか?目を閉じて……鼻から空気を吸って、口から吐いて。まずは呼吸を整えてください……整ったら、きついと思いますが無理にでも笑おうとしてみてください。言う通りにやってみてください」


 他に頼るものがないナオキは男の言う通りに、硬直してしまっている頬の筋肉を動かして、口から息を吐こうとした。そうすると、驚くことに喉にあった何かが消えてスムーズに呼吸ができるようになった。数回呼吸を続ければ体の自由も戻ってくる。


「初めての人はだいたいこうなるんです。あなたは大丈夫なんですか?」


「は、はい」


「もしかして、霊感でも?」


「はい、一応」


 ユミコと男の会話が虚ろに聞こえる。でも、だいぶ楽になってきた。


「そちらの男性のチョッキを見た限り、あなたたちもここへ霊の調査に?」


「はい。私は諦めちゃってるんですけど。部屋の中に入るのもここが初めてで」


「そうなんですか。えっと名前は……いや、移動してからにしましょうか。男性の方。肩を貸しましょうか」


「――大丈夫です」


 ナオキは咳き込みながら返事をした。男の話し方は丁寧な言葉を使っているが偉そうに感じた。チョッキを見たところ仲間ではあるのだろうが、会ったばかりでこれ以上貸しを作りたくない。


 男はナオキの返事を聞くと、すぐに歩き出した。立ち上がって後ろ姿を見たところ、身長はナオキより高くて、足の長さも相応にすらっとしていた。


 ついて行こうとするユミコの肩を叩いて止めて、耳元で囁く。


「俺がいいって言うまで、彼に情報を与えないで。彼が質問してきたら俺が答える。何も言わずに信じて」



 ――男が案内した場所は、ショッピングモールの二階にあるゲームセンターだった。どのゲーム機にも電源は点いていなくて、赤紫色のカーペットの上を進むと、奥にゲーム機が無くて、開けている場所があった。そこにはソファやイスが輪になって並べられていて、奥の電気が届いていない場所にはベッドも見える。


「ここを拠点に生活してるんですよ。ここから出られなくて……」


 やっぱりおかしい……


「ここは安全なんですか?」


 ナオキはまずはという感覚で質問した。


「はい。ここなら何が起こっても対応できます。このショッピングモールに詳しい僕もいますし」


 ユミコはこの男のおかしなところに気づけているだろうか。ユミコの横顔はまだ、初めて来た部屋の中の空間にまだ圧倒され続けているように見えた。


「どうぞ。お掛けになって――まずは、自己紹介からしましょうか」


 男が赤いソファに座り、ナオキとユミコは対面する位置にある白いダブルソファに座った。


「僕の名前はカケルって言います」


 長い脚を見せびらかすように伸ばしてから足を組んで名乗った。態度まで偉そうな感じになり、言葉遣い以外は夜の街で働くやんちゃな人だった。悔しいけど実際スタイルは良いし、顔も美形だ。


「俺はナオキです」


「私、ユミコです……」


「あのさっそく聞いていいですか?さっきの太鼓の音?みたいなあれは何だったんですか」


「ああ、えっとですね。それを説明する前にまずは、このショッピングモールには色んな霊がいるということを伝えておきます。ユミコさんはそういうのも分かってらっしゃいましたか?」


「えっと……複数いることは……」


「なるほどなるほど……」


 カケルはそれを聞いて、顎だけで何度もうなずいた。情報を与えないでほしいと言っておいたのにユミコは答えてしまった。


 霊感があるというのは俺が苦しんでいるときに教えたのか。まあ、これぐらいの情報なら構わないが……


「色んなことをする霊がいて対処方法もそれぞれ違うんですよ。僕は経験で大体それぞれ把握してるんですけど、さっきのは聞こえたとおり一階で太鼓を叩いている霊が実際にいます。姿は見ないほうがいいと思います……もし、どうしても見なければいけない時は覚悟してください。太鼓の音を聞くとさっきナオキさんもなったように、慣れていたり霊感がないと呼吸がしづらくなります。そうなったからといって、上に上がってくることはないですが」


 カケルは家電のスペックを語る量販店の店員のように、どこか得意げなようにも感じる口調で話した。


「あ、ごめんなさい。こんなところで人間に会えるなんて思ってもないことですから。本当に失礼しました」


 場に流れている空気を察したのか、カケルは真剣な口調に切り替える。


 もう少し場所な所は無かったのかと思える、ゲーセンという拠点。ふと、目を向ければゲーム機の画面に何か写っていそうだ。普段ゲーセンに足を運ぶことはないが置いてあるゲーム機は一世代前のもの見える。一人でいるのにこの数のソファとイスについても聞きたいがまだ早い。


「いえいえ。別に気にしてません。そういえばお礼を言ってませんでしたね。さっきはありがとうございました」


 ナオキは座ったまま頭を下げた。


「どういたしまして。いつでも何度でも助けますよ」


「それで、ここから出られないっていうのはその……ドアが見つからないってことですか。それともドアは見つけたけどたどり着けない場所にあるとか」


「ドアがないんです。どこにも…一階もほとんど確認したと思うのですが」


「あ、そのことなんですけど」


 ユミコが小さく頭の近くで手を挙げながら口を挟む。


「私、ドアの場所分かるかも……です」

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