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ナオキと十の部屋  作者: 木岡(もくおか)
・四の部屋
55/62

打痕

 砂利道に飛ぶように倒れたゾンビは、まだそれになったばかりみたいで、飛び散った血も若かった。中学生女子だったであろうそれが受け身を取らずに倒れた時に腕が外側に折れ曲がり、硬い木が折れるような音が確かに聞こえた。


 最初の一匹をどかしたことで後ろに控えていたゾンビが前に出てくる。数は二匹で中年男性と――モデルのような中学生女子の形をしていた。その二匹とも見えている皮膚全体に赤い血管が浮き出ていて、目の中まで侵食している。


「そのまま抑えといてくださいっ」


 壁に隠れながら必死に入口に向かって伸ばしたモップを抑えるタクに言うと、タクは小刻みに何度もうなずいた。


 ナオキは少し後ろに下がり、また勢いをつけてモップの金具をよだれのように開いた口から血を流している造形だけは綺麗な顔へ突き当てる。眼球が半分飛び出しながらた倒れたのを見ると、続けて入口の清掃中看板を中年のゾンビごと蹴り飛ばした。


 他の二匹は爪の先から血が滲み出る手で獲物を引き裂こうとしていたが、中年のゾンビは両手の五本の指を自らの首へ刺していた。その状態で詰まった喉を鳴らしていた中年のゾンビは狙い通り倒れて、ナオキはその首へ振り上げた武器を下ろした。


「行きましょう――早くっ!」


 あわあわしているタクを大声で叩き動かす。行き先があるわけではないが、こんな逃げ道がないトイレの中にいては終わりということだけは分かる。


 先に血が付いた雑巾モップは武器として手に持ったまま外に出る。鼻には今まで嗅いだことのない量の強烈な血の匂いが入口の首が取れた死体からいっぱいいっぱい入り込んできていた。周りのまだ立とうとしている顔に治らない打痕がついた女子中学生たち含めてこんな所を進みたくないがそうも言ってられない。月明りでうっすら見える公園では、追う人と追われる人、悲鳴と混乱が渦巻いていた。


 ナオキはとりあえず、人影が少ないほうへ走った。正面の顔が見える何かを食べているように歯を鳴らしているお爺さんがいたので右に迂回して、道の中央に棒立ちで自分の指を食べている女がいたので長い芝生を進んだ。向かう先はあそこしかない。


 標的にされないまま上手く進んでいると、数m横の広場で男子中学生が二匹のゾンビから這いつくばりながら逃げていた。足を怪我しているのか恐怖で立てないのか分からないが、それを見てナオキは足を止めた。


 助けるか……


「兄ちゃん!」


 急に立ち止まったナオキへタクが進む方向に指を差しながら叫ぶ。たしかにそんな余裕はないが――


 小さな物が爆発するようにはじける音――その時、公園内を弾丸が通り抜けた。目で捉えられない速度で一斉に飛び交う。


 考えるまでもなく、警察が発砲を始めたということだ。次から次へ発砲音が聞こえるのでおそらく見境なしに狙っている。


 冗談じゃない……けど当然か。


 ナオキはタクと再び走り出した。もうゾンビも気にせず最短距離で一直線に管理棟へ。途中、一発の弾丸が髪を撫でて頭の後ろを通り過ぎて締め付けた声から高い声が漏れた。けれど何とか被弾せずに横側から管理棟に辿り着く。


 裏口のドアは鍵が開いていなかったので、最も近いガラスをナオキはモップを振り回して割った。とりあえず助かるにはここに入る以外選択肢がない。


 歴展示室の床まで続くガラスは、ナオキの想像以上に二人が一斉に通り抜けられるほど開いてしまった。そこをタクと通り抜け、最初に見えたドアを開けて飛び込んだ。 

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