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ナオキと十の部屋  作者: 木岡(もくおか)
・四の部屋
50/62

見ていない場所

 あと見ていない場所はここだけか……


 立ち止まった場所は屋上に上れば公園全体を見渡せるであろう建物だった。入口には「此花公園」と大きく書かれていてその横に「管理棟・歴史展示室」と二つの文字が並んでいた。


 ここに最初に来なかったのは自動ドアの前に赤いコーンが置かれていて入口の電気が点いていないからだった。中ではガスマスクと思われる仰々しいマスクにゴム手袋をした警察官の姿とここの職員だろうか、水色のポロシャツを着た人の姿があって何やら作業に追われていた。そして二時間ほど経って戻ってきても状況は変わっていなかった。


 ナオキが自動ドアの前に立ってもやはり開いてくれなかったので、建物を一周して裏口を二つ見つけた。しかしどちらもそっとドアノブを捻ってみたが鍵がかかっていて中に入ることは叶わなかった。


 それならば仕方がない。ナオキはため息を吐いて下唇を噛んだ。そうしてからもう一度、人々それぞれ、仮の居住区が出来上がっていた公園でドアを探した。一週目では公園の中を中心に道具入れや木の後ろを中心に探したが、今度は公園の外側に重きを置いて探した。


 それでもドアは見つからなくて、代わりに見つかったのは黒色の空間。東西南北どこの方角なのか分からないが一つの方角をフェンス越しに見ると山の間が真っ黒だった。確かにここが四つ目の部屋だと証明された。公園の周りには建物が少なくて山がぐるりと大回りに取り囲んでいる。きっと公園から一望できる景色が今回の空間なのだろう。


 空が茜色から暗い色へ姿を変えてきたので、ナオキは無表情な月と星を見上げながら端っこのトイレに戻った――


 まだ見ていない場所があるじゃないか。そう、女子トイレだ。緊急時だし、もし見つかったとしてもここの人達ならどうでもいい。

 それでも入口で音がしないのを確認してから中に入る。男子トイレとは壁の色が違っていて個室の入り口の一つには蜘蛛の巣が張ってあった。


「おい。何してんねん」


 後ろから来た声の主はタクだった。


「随分長い散歩やったなあ。兄ちゃんそんな趣味あるんか」


「いや、これは……」


 積極的に否定しようという元気も理由も無かった。本当にやましい気持ちは全くなかったし、最悪そういう性癖だと思われても別に良かった。


「まあまあ良かったわ。一旦我慢してこっち来いや」


 やってやったとイタズラ好きの小学生のように笑うタクをお前だってここに何しに来たんだと思いながらも、白いドアは無かったので男子トイレに二人で向かった。


「これやる」


 タクがそう言って渡してきたのは市販のおにぎりだった。ポケットから取り出したツナマヨ味。


「どうも」


 会釈しておにぎりを受け取ったナオキが便器に座ると、タクが目の前のトイレの床に躊躇なく座り、もう一つポケットからおにぎりを取り出して封を開けた。


「お互いついてないなあ兄ちゃん。一人で来たんやろ?どうせワシらはゾンビになんかなりゃせんのに」


 ナオキもお腹が空いてきたのでおにぎりの封を開ける。


「いただきます……あのあまりニュースとか見なくて詳しくないんですけど、どのくらいで解放されるものなんですか?」


「んー。一週間か、十日ぐらいか。検査してもらわんとなあ――あ、手洗ったか?」


 ナオキが一口目を食べかけた時、タクが気づいたように言って、ナオキはトイレの水道で手を洗いに行った。


「うがいもしといたほうがええで」


 タクは口にものを入れたまま喋る。


「こうやって、閉じ込められた人は……その、どのくらいの確率でゾンビになるんですか?」


「半々やない?当たりかハズレか。もうここに居るやつらがいっぱいゾンビになってしまったらワシらも殺されるからな。ほんま迷惑な」


 半々ってそんなに高いのか……ナオキがドキッと胸が詰まりそうになることをタクは笑い話のように話した。

 けれど、その不安もそうなんだと右から左へ流すことができていた。あくまでも自分は別世界の人間で公園の中にも外にも見当たらなかった白いドアはきっと管理棟の中にあって深夜にガラスを割ってでも入ればこことはおさらばだと思っていたのだった。

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