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ナオキと十の部屋  作者: 木岡(もくおか)
・四の部屋
46/62

場で

 部屋の出入り口から覗き見するような体勢から衰えた腰をゆっくり部屋の中に入れる老人、感情が読み取れない呆けた表情をしていて、まるでボケているみたいだった。


「なぜ先の部屋に人がいることが分かった?」


 ――何をしに来たのかと思ったが、どうやらナオキの言葉に疑問を持ったらしい。


「なぜそれを気にするんですか?」


 当然快く教えようとは思えなかった。この場で最もこの空間について詳しいであろうくせに人の質問には答えない奴にどうして答えてやらねばならない。


 ナオキの言葉を聞いた老人は開いた口を塞ぎ、下唇を持ち上げてから、はいそうですかといった具合に何も反論せずに廊下のほうへ帰って行こうとした――


「ちょっとゆっくり話しませんか?」


 背中を向けた老人を呼び止めてナオキが言った。動きを止めた老人から返事は無かったがその提案は受け入れられたみたいで、また呆けた表情になりナオキをじっと見たままテーブルのイスに腰を下ろす。


 ユミコにも少し離れてもらって、奇妙な空間に閉じ込められている三人のディスカッションが始まった。


「えー……っと……お爺さん。あなたは本当は何者なんですか」


 ナオキは何から話していいか迷った。何しろ聞きたいことがたくさんあるのだ。


「それはもう話した。私は嘘はついてないし、私が知っていることで君に教えるべきことはすべて教えた」


「教えるべきことって何ですか?ドアの先の空間について何か知っているなら教えてくださいよ。命がかかってるんです」


「君もいくつか入ったならもうどういう空間なのか分かっただろう。私が知っていることはもう全部知っているはずだ」


 相変わらずのスタンスに怒りを通り越して呆れる。感情的に声を荒げる気にもならなかった。


「……あの部屋の中から出てくる方法は出口を見つけるか、霊を倒すことだけですか?」


 教えないなら何度でも聞くだけ。聞きたいことを一つずつ細かく聞いていくことにした。


 そうした結果老人はナオキの問いに対して頷いて答えた。


「……奥の部屋の中ほど広いですか?……本当に十個の部屋を見てくればここから出れますか?……ここと部屋の中では時間の流れる早さが違いますよね?……どの部屋の中には必ず霊がいるんですか?……」


 今まで部屋を見てきて分かったことを確かめるように思いつく限り質問していった。今のところの質問にはすべて首を縦に振っている。


 顔が赤くなって子供みたいな顔をしているユミコにも情報が聞こえているが隠そうとはせず、むしろちゃんと聞こえるように話した。怖くても知っておいたほうが良いと思うし、自分がどんな場所に行ってどんな苦労をしているのか聞いてほしいという気持ちもある。別に恩を売ろうという訳じゃないが。


 そして質問を始めてから初めて老人が首を縦に振らない質問があった。


「部屋から出てくると傷が治るんですか?」


 この質問に対しては首を横に振ることもなく……


「それは聞いたことがない」とだけ言われた。


 じゃあ一体どうして自分の右腕の傷は消えているのだろうか。もしかすると、自分が気付かなかっただけで前の部屋から出てきたときも回復していたのかもと思ったが……。何かが関係しているとすれば三つ目の部屋の最後に見たシロビトが関係している可能性が最も高いが……そんな考察を置いておいてナオキは質問を続けた。


「殺意の塊がクロビト……でしたよね?……じゃあシロビトは何なんですか?白いのとしか言ってませんでしたが」


「それは私にも分からない。さっきも言ったが、私が知っていて君が知っていない――その中で君が必要としているものはもうない」


 シロビトについてはこの老人にも分からないのか。しかし本当に俺の知らないことは知らないのか?初めのルール以外自分から話そうとしないので疑わしい。話す気がないのは確かだが。


 老人は腕を組んで偉そうに目を細めていた。質問攻めに答えるのがめんどくさくなってきているのかもしれない。


「ユミコちゃんにも聞いておきたいことがあるんだけどいいかな?」


「へ、はい」


「ここに来るときに渡されたチョッキはどうしたの?」


「それなら脱いでそこの箱に――」


 深刻そうな顔をしていたユミコは話を振られたら、大きな瞳を輝かせて表情を作り変えて、立ち上がって質問の答えを見せた。ダンボールの一つから自分が着ているのと同じ迷彩柄のチョッキを。


「私、すぐに諦めちゃって……この胸ポケットのカメラに向かって諦めますここから出してくださいって言ったんです。でも反応がないしずっと着ているのもあれだからそれで……」


「あ、そうなんだ。ごめんね。ちょっと気になってて」


 何のことは無い理由にナオキは安心した。そして、それだったら聞かなければ良かったと思った。疑ったのはユミコにも分かっているだろうし、ナオキはなるべく優しい人だと認識されたかった。


 そんなことを気にしているとユミコが手に持ったチョッキに自らの腕を通した。


「あの、次の部屋からは私も一緒に行きます」

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