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ナオキと十の部屋  作者: 木岡(もくおか)
・三の部屋
43/62

「さっき言ってた写真……見せてくれない?」


「……取られちゃったんだ……君に」


 ナオキは手汗で滑らせながらいつでも開けられるようにドアノブを回した。


「ここを出るの、もう少し……待ってくれない?」


「……どうして?」


「無理なお願いなのは分かってるけど、私……ここでやり残したことがあるの……」


「ごめん……無理だよ。今出なきゃ……俺の体はもう限界だ」


「お願い」


「ダメだ。このタイミングを逃して後で一緒に出られる保証がない……」


 自分の体が動くことを確認する。腰の位置を動かさないまま半歩踏み込み、ドアノブを揉むように自分の握力を測った――


「もー……と……よーく……かお、を……みせ……て」


 真後ろで自分を止めている女からではなく、もっと遠い場所からぼんやりと聞こえた歌声。しかし、それが聞こえたナオキが後ろを向くと、黒ルナがいた。


 すぐにドアを開こうと、左腕を引く――白いドアがドア枠と直角になり、そこへ頭から突っ込む。


 上半身を微かにドアからの吸引力が包んでいるが、空間から出ることができない。白い服のルナがまだ自分の体を抱きしめていて、思い切り力を込めても抜け出せないほどに固まっていた。


「そう……言った、君があ」


 歌いながら――ゆっくりと、でも確かに――少しづつ……瞬きをするように時計の秒針のように……


「私のー……ほ、ほを……そっと」


 近づいてきた黒ルナの表情は殺意に狂ったものとは、また少し違っていた。目を細めて、どこか覚悟を決めているというか、それで逆に身の毛がよだつほど、集中しているような――


「キィィィィィィィィィィィィィャヤあああああああああああああああああああ」


 黒ルナがルナの背中に触れると、聞いたことのない音が大音量で発せられた。きっとそれは死を迎える時の声。断末魔。


 触れた場所から黒と白が混ざり合っていく。指先から溶けていく黒ルナの両腕がルナが面を上げた。

 白目をむいて一息もつかず叫び続ける顔が、焼け焦げていくように真っ黒に変わっていっている――


 もう……もうやめてくれ。もうたくさんだ。


 ナオキはドアノブをガチャガチャと言わせながら、もがいていた。水中から溺れた我が身を助け出すように両手をドアの向こうへ伸ばし足をバタつかせる。


 脱出が叶わないまま叫び声が終わると、自分の腰回りにある手が首に向かって伸びてくる――首の下を黒い手に掴まれたナオキはそれに対応するためにドアノブから手を離してしまった。


 しかし、片方の腕が腰から外れたことにより隙ができていた。自由がある右半身から体を回転させて逃れようとするナオキ。それをさせまいとするクロビトは瞬間的に握る力を強くして止めた。


 開いたドアの前、クロビトはナオキの首と腰を掴み、ナオキは自分の首を絞める手を掴んだまま互いに動きが止まる。


 すごい力……このっ、離せ……


 自分の体が持ち上がりそうなほどに首に圧をかけられていて、首の根元にあるクロビトの親指は鎖骨の内側にめり込んでいる。それをどうにか剥がそうにも掴むのも難しかった。


 やばい……どうしてこうなった……やばいやばいやばいやばい……くる……しい


 頭への血の巡りの少なさが限界に達していたナオキにさらなる絶望が畳み掛ける。下で聞こえていた無数の足音がすぐそこまで近づいていて、視界の奥から大量のクロビトが走ってきている。そしてその先頭には……


 あ……れ…………?


 シロビトの姿がそこにはあった。消えかける意識の中、らくがきのような白い手にも掴まれる。そして目の前が真っ暗になるとともにドアが閉まる音がした。

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