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ナオキと十の部屋  作者: 木岡(もくおか)
・三の部屋
42/62

豊かな廊下

 大丈夫かはこっちが聞きたいことだった。ついさっき同じ姿をした者が急に変貌して自分を殺そうとしたのだ。


「君こそ……大丈夫?」


 金色の髪の女は下の矢印のボタンの前に立っていた。金色の髪の女がここでボタンを押すことでエレベーターを上に運んでくれたのだろう。


「私は大丈夫。ちょっと危なかったけど。もうすぐそこにドアがあるから早く行きましょう」


「ああ」


 霊が傷を負うのか分からないが外傷は無いし身体的に問題が無いのは分かる。ナオキが大丈夫か聞きたかったのは目の前にいる金色の髪の女が白い皮を被った敵ではないかだった。


 黒ルナに自分を偽る能力があったのか何なのか……いっそのことここを出る前に直接聞いてみるか……それにこの廊下はいったい……?


 八回の内装はその下のすべての階のそれとはまるで違った。一言で言うと綺麗だった。一階から七階までは皆それぞれ差があったが汚れていた。けど今、早歩きで進む廊下は、黒と白でデザインされた大理石の床に形と付いている場所が独特な照明、それを淡く照らす両脇の足元を走る光の線。この近代的な作りは建築費も背も高い立派なビル――ちょうどここに来る前に訪れたオズオワールグループのビルの豊かな廊下のような。


 足音もなんだか小洒落たものになって、下の階よりもよく響く。革靴やヒールがぶつかれば自分には縁のない音になるだろう。また別のドアの向こうの別世界に迷い込んだみたいだ。


「そういえばさ……ここで最初にエレベーターに乗る前に写真を拾ったんだ……君が写った写真。写真の裏には君の名前も書いてあった。あれって……」


 誰の物ともどうしてあそこにあったのとも訪ねなかった。前を歩く金色の髪の女が言葉に対してどう反応するのかを見た。


 そうした結果、金色の髪の女が止まり急に振り向く――


「…………そん……な」


 金色の髪の女は完全に脳に意識を集中させて、表情を作る筋肉が動きを止めた。

自然な状態になった顔の中で目と口だけが大きく開いてその状態で止まっている。


 ナオキは眉間に皺を寄せた。もう言ってしまったので後悔しても遅いがここで立ち止まるくらいならこんなこと聞かないほうが良かったか。とにかく、ルナという女にとってあの写真が重要な何かであることは間違いなさそうだ。


「いや……違う……そう、あれは何でもないの。止まってごめんなさい。進みましょう」


 金色の髪の女が言い終わると下の階から何かがもぞもぞとうごめいているような不愉快な感触が届いた。まだ下ではクロビトが走り回っているのかもしれない。


 早くここから出てしまおう、話の続きはそれからだ――。


 かなり走って階段を何段も上ったので足にもかなり疲労が溜まっている。ここを出たらまずは寝転んで思い切り足を伸ばしたい。

 地面を踏む度にその振動で痛むふくらはぎ、三番目の部屋ではかなり体を消耗してしまった。部屋……やはりこの空間についてもっと知っておく必要がある。一つだけ雰囲気が違う八階の廊下にあるドアを一つでも開けてみたいところだが……。部屋に入る前にあったナオキの万能感は尽きて枯れてしまっていた。


 あれは……あのドアは……


「見えた。あれがあなたの出口でしょ……」


「うん……。良かった!行こう」


 ここでは何度か死んだと思ったが何とかなった。白いドアが廊下の奥に見えたナオキは重い足を浮かせて金色の髪の女を追い越して走った。


 これでやっと落ち着ける。生きてる――


 ドアノブに手をかけるナオキ。それと同時にナオキの腰にするりと白い腕がまきつく。

 首だけで見る後ろにいる金色の髪の女はまだ白い服を着ていた。頭も自分の背中にくっつけていて末広がりの金色は行動の理由を語ってくれない。


「さあ……出ようよ」

 

 ナオキはドアのほうへ向きなおして言った。


 ――自分の心臓の鼓動が大きくなっているのが分かる。どう出る……?

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