恋敵
「知ってるんでしょ?あの白い扉のこと。私には開けられなかった。後ろに壁はなくて廊下の真ん中にあるわ。こんなところに突然一人で入って来るなんておかしいもの。あの人と同じなんでしょ」
ナオキは言葉を聞いてはっとした。そういえば自分と同じようにここに誰か来た可能性は0ではなかった。自分よりも前にここに来てその先へ進んだ者がいるのか。
「知らないの……?」
「……いや、知ってるよ。確かに君が見た人は俺と同じ理由でここに来たと思う。ちなみにその人はどんなだった?」
「来てから一回も止まることなく走り回って出て行ったからよく見てないけど、あなたに雰囲気は似てた。男だった。運動能力は高そうでうまく逃げてた……私のことは見えていなかった。手を貸してあげようとしたんたけど自力で扉を見つけてたね」
「そっか……君のこと、信じることに決めた。俺には開けられるよその扉」
しかしまあ、扉のことを知っていたのか。ただ外に出られるってだけの話かも知れないと思っていたけど、まさにそれは自分にとって出口。
希望が見えてきた。とりあえず先に進んだ人物のことは忘れて――
「あなたが何でここに来ることになったのかは聞かないわ。ここを出た時に教えて。1つ確認したいのはあの扉の先。あそこを通れば私は成仏できる?」
「……分からない。……ごめん。分からないんだ……ここよりは良いところだと思うけど」
確かに扉を抜けられれば自分にはゴールだが、ルナにとってあそこに行くのはどうなんだろうか。ナオキはルナから目を逸らしてうつむき、自分の頬をつねった。
そもそも一緒に扉を通れるのだろうか。通れたとして今度はあんな意味が分からない廊下に移動させられて、あそこから霊体なら外に出られるだろうか――
「いや、どうにかするよ。ここから出られた先で君が成仏できなかったとして、そしたらまた俺が他の方法を考える。最悪、ここに戻ってくることはできると思う。ダメだったらここからまた別の君の出口を探そう」
そう、ここに戻ってくることは可能なはずだ。
ルナを信じると決めたナオキはハッキリと言った。自分を助けてくれるという思いは伝わってくるし、出口の場所を教えてくれたルナのおかげでここから出られる確率は大きく上がった。返さなくては。
「じゃあ、決まりね。行きましょうか。さっきも言ったけどゆっくりしてる時間はない。もう気づいてるかも知れないけど鐘の音がここにいるクロビトの静止と行動の合図。もう一人いる霊がいつ仕掛けてくるか分からない。あいつはおそらくクロビトを誘導できるし。早いほうがいい」
ルナは立ち上がり、話しながら部屋の出口のドアを吸い込まれるように消えて、通り抜けた。ナオキも了解して、それに続く。
もうクロビトに追い詰められるのは御免だし急ぐことには大賛成だが、もし時間が許すのであれば、床に散らばっている紙――この施設のことを、クロビトのことを調べておきたかった。自分が助かるためと――出口が分かって余裕が生まれたことで表に出てきた好奇心から――。




