急く
穴があった。コンクリートの廊下がごっそり崩れ落ちていて大きく開いた穴は真っ暗で底が見えない。
――いや、これは階段だ。
穴の中を懐中電灯で照らすと想像よりもすぐに底は見つかった。バラバラになったコンクリートのかけらで散らかっているが階段状になった床と手すりが数メートル下にある。どうやら一階分の階段が崩れ落ちていた。
ナオキは床が崩れ落ちないギリギリまで穴に近づいて座り、足を下に伸ばしてから慎重に飛び降りた――
立ちふさがる鉄格子、白骨化した人間、檻の中のクロビト、それを彩る深い紅色。4階は殺伐としていた。
瓦礫の上に立ったナオキは息を呑んで目の前の光景と向き合っていた。
4階の廊下と階段は太い鉄格子で遮られていて、鉄格子の向こう側にはそれと同じように廊下と隔たれた檻の中にクロビトが立っていた。便器と丸椅子しかない檻の中にいるクロビトは既にこちらを向いている。
左右にも同じような檻……俺のことは見えていないのか……
目が合っているはずのクロビトは動かなかった。檻の奥でじっとしている。
ナオキは瓦礫を少しだけ上り、冷たい鉄の棒に触れた。大きな鉄格子の中で鍵付きの扉になっている部分に。
まずい――ここも開いている――。
鉄の扉がゆっくり動き出すことを確認して僅かに金属が擦れる高い音を聞いたナオキはすぐに身を引いた。クロビトが入っている檻の扉も開いているのだ。
瓦礫と一緒に崩れ落ちるように階段を下へ降りた。
近くで見た4階の廊下は5階よりも酷い荒れようだった。崩れた壁から鉄骨が剥き出しになっていて床にも鉄の棒が何本も落ちていた。さすがにあの4階に足は踏み入れられない。
ナオキは目にしたものを頭に並べながら下に向かった。開いている檻の中にいたクロビトはなぜ襲ってこなかったのか、自分を追い詰めたが鐘の音を聞いてどこかへ消えた奴らと同じ個体なのか。
一刻も早くこの空間もクリアしたい。その為の道を探す――
行き先に選んだのは地下一階。クロビトに追われ最初に金色の髪の女の背中に誘導されて入ったエレベーターが向かおうとした階だ。
きっと今もそこへ導こうとしているとナオキは予想していた。罠だろうが地下一階にはきっと何かがある。
3階2階を足早に通り過ぎ、1階へ向かう廊下からはゆっくり歩いた。いずれの階も階段から些かだけ見た分にはあまり荒れていなかった。
ほこりを被ってざらついた手すりをなぞりながら注意深く降りていくと、地下一階の床が覗いたと同時に金髪の髪の上部が見えた。どうやら当たりのようだ。
地下一階からは床が細かいタイルになった。所々剥げていてコンクリートが剥き出しになっているが瓦礫は落ちていなくて歩きやすい。
地面より上の階よりも暗くて暗闇に慣れてきた目でも懐中電灯で照らした先しか見えない。なんだかひんやりして心細い。
曲がり角に辿り着く度に曲がった先から何か飛び出してこないか警戒した。左右に道が分かれているときは両方を照らし金色の髪が見えたほうへ進む。
心臓がおかしくなりそうなくらい脈打ってくると、やがて突き当りで一つのドアの前に辿り着き、ナオキはその重い金属の扉を開けた。
物置のような部屋の中へ入るとドアが勢いよく鼓膜に響く音をたてて閉まった。