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ナオキと十の部屋  作者: 木岡(もくおか)
・三の部屋
29/62

呪われた習性

 まずい。このままあの5階に戻されれば――


 ナオキはこの場から逃れる方法を考えたが頭が真っ白になった――エレベーターにあるボタンを片っ端から拳で叩くように押す。壊そうという気で殴ってもエレベーターは進み続けた。


 頼む――扉が開けば逃げ場はない――


 高い音とともにエレベーターは無情にも扉を開けた。迎える戦慄。


 待っていたクロビトが暗い廊下から無数になだれ込んでくる。


 ナオキは意を決した。先頭にいる中肉中背の男型のクロビトへ向けて足の裏まで力を込めた足を突き出す。


 蹴ったクロビトは後ろに飛び、尻もちを付いたが勢いは全く収まらない。


 ナオキは後ろにあった手すりを掴んで片足を浮かせ次々と襲いかかってくるクロビトをとにかく蹴って突き放した――


 キリがない。やるしかない――


 すぐに追い詰められたナオキはクロビトの群れに体をねじ込んで無理やり突破することに決めた。


 脇を閉めて、両手を盾にしてタックルする構えを取る――その時だった――

 深く重い音が空間を走り抜けた。


 鐘の音だった。大きな鐘を突く音が聞こえてきた。


 その音が届くと同時にクロビトは動きを止めた。悪いことをした子供が後ろから怒号を浴びせられたように、ピタリと動きを止めた後に振り返り帰っていく。


 鐘の音は除夜の鐘のようにゆっくり何度も鳴り響いた。その音は立体的で体中に痛いほど突き刺さる。心臓まで振動して音が小さくなった時も耳がじんわりした。


 ナオキは呆気にとられてエレベーターのなかで座り込んでいた。次第に自動的にエレベーターの扉が閉まる。


 指示をされてないエレベーターは動かず、小さくなった鐘の音とナオキの激しい息遣いだけが狭い空間にあった。


「運が良いのね」


 また耳元で女の声が聞こえたがナオキは反応しなかった。息が整ってきたので気味が悪いエレベーターから扉を開けてさっさと降りる。


 ……運が良いということはとりあえず危機は脱したのだろう。あいつらはどこに消えた。


 鐘の音が鳴り止んだ廊下は冷え込むように静かだった。左右を確認してクロビトが残っていないか確認した。懐中電灯の光が奥のコンクリートの壁に届いているので歩いて廊下を探索し始める。


 クロビトの知能は低いように見えた。ただ純粋に生ある者の頭を狙ってきていた――


 足音を殺しながらゆっくり廊下の様子を観察していく。逃げるのに必死で前ばかり見ていたので壁や床を注意深く見ていってもコンクリート一色だった。電気が点いていないのではなく蛍光灯すらない。

 聞こえたような聞こえていないようなわずかな音にも反応してしまう。嫌な気配は消えてないので、いつまた敵がでてきてもおかしくない。


 他の階もこんなのなんだろうか――出口を探そう。まずはどこかに階段がないか。


 入り組んだ廊下を同じところを回らないように脳内で地図を作りながら注意深く見回った。


 すると、ある角を曲がった時に廊下の奥で金色の髪の女の背中がはっきりと懐中電灯の光に収まった。白いシャツに長い髪、ルナと書かれた写真に写っていた人物と格好は同じ。すぐに右に曲がり、消えていく。


 追うべきだろうか。ナオキは迷った。


 こんなところに一人でいるなんておそらく生きた人間ではない。さっきも一瞬見えた先に行くとエレベーターに入れられて危ない目にあった……けど。


 ナオキは小走りで金色の髪の女が見えたところへ向かい、角の手前までくると慎重に近づきその先を見た。再び廊下の突き当りで金色の髪の女が曲がる背中を確認する。


 また近づき、またその先を見る。追っているとそれを幾度か繰り返すことになった。素早く近づいてもいつも突き当りで曲がる姿しか捉えられない……良くない場所に誘い込まれている気がしてならなかった。


 ナオキは次に近づいてもまだ何も変わらないなら放っておいて出口を探すことにした。そして覗いた先には……



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