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プロローグ

某ゲーム会社の厨二病的な物をぶち込んでる小説です。ああいう主人公補正とか持つ主人公とか最近見ませんよねぇ。

 

 例えば誰もが一度は思った事はあるだろう。


 異世界で冒険したり、勇者として魔王と戦ったり、苦難を抱える世界を救う英雄となったり、救世主となって世界を救ったり、王子様やお姫様と結婚したり。そうした非日常。


 程度は人それぞれだが、物語の世界に自己を投影するという行為は誰もがする事だろう。


 或いは自らの頭の中で物語を考え、その妄想に耽り、それを文字として打ち出すという行為に走るだろう。


 それがきっかけになって小説家になるという人間も少なくはないはずだ。


 …思考が少し逸れた。


 何故この様な事を言っているのかというと、これは先輩としてのアドバイスである。


 異世界で勇者だ英雄だ救世主になりたいならやめておけ、或いは覚悟をしておけ。


「ぐッ、お、オオオオオぉぉぉぉーーッッ」


 そこは地獄の様だった。炎に燃え逝く建物。そこは普段なら人の笑顔が溢れている筈の道。思い起こせば今も普段の日常が目に浮かぶ。しかしそれらすべてが炎に包まれている。


 堆く積まれた骸の山の中に、どれ程の知り合いの顔を見つける事が出来るのだろうか。流れる血の河の中で、硬く拳を握りしめる。


 それはこの世の地獄か。或いは煉獄に焼かれる地獄そのものの様に、この場に生きる者達を焼き殺した。


 街を焼き焦がす炎と熱の嵐は、今も変わらずこの地獄を彩っている。


『さぁ、奮い立て。この程度で根を上げる男ではなかろう』


 己の内から聞こえる男の声。その声は今も雷を身に帯びて身を焼かれている自分を心より信じている。


 この程度で倒れる様な男ではないと、この程度で根を上げる様な男ではないと。


 自分の身を焼く雷によって生まれる苦痛――というのも限度を越している、生きたまま身を焼かれていく火炙りの刑をくらいながら、それでも立っている。


 この胸の内にある『勇者の石』という特別なアーティファクトを身に宿す限り、斃れてはならないという戒律で自分を縛る事で特別な能力を得ているからだ。故に、その戒律を破れば、得ている力の反動の全てを身に受ける。


 全身を苛む苦痛に快楽を感じる様な被虐性愛者(マゾヒスト)でもない。今も身を焦がす雷が生む苦痛に、地面をのた打ち回りたい気分だ。というより、身体を焼かれる苦痛が快楽に変わるとしたらそれは異常者だろう。


 連続した爆発によって生まれる熱風と熱波。それは絨毯爆撃の様に身を襲う。


「グオオオオオォォォォ――――ッッ」


 空気を震わせる雄叫びを上げながら、その煉獄の炎を引き裂いて現れるのは炎を身に纏っている人型だ。


 魔人。魔を宿した人間。魔族によって兵器にされた人間は普通の人間では考えられない程の力を発揮する。この様に戦術兵器染みた破壊を、単独で振りまく事すら可能なのだ。


 炎の鎧を身に纏い、その重圧感はちっぽけな人間など容易く捻り潰すことが出来るだろう。それを成せるほどの巨大な拳を振るう巨体。


 その握る拳に高密度の炎を纏いながら、しかし己の身を焦がしているような様は見受けられない。


 その炎の鎧に包まれた紅蓮の拳を、同じように雷を纏った手を添えて軌道を逸らす。


 軌道を逸らされた拳はそのまま地面を穿ち、爆発と共に粉塵を巻き上げる。


 その粉塵の煙幕を割って、炎を身に纏う魔人が目の前に現れる。


 その顔を窺い知る事は出来ない。鎧に包まれた瞳はただ殺戮の為の色しか感じられない。


 振るわれる拳の直撃を受ければ容易く地面に沈むのは己だろうと、先程の威力を見て理解する。


『そうだ。論せずともわかる程の威力だ。だが、当たらなければ無意味だろう』


 簡単に言ってくれる。頭に浮かぶイメージ通りに身体が動かせるわけもない。何故なら己の身はただの人間。凡人なのだ。世界を救った勇者の様な偉人と比べるまでもない。そんな凡人の身体を無理矢理動かせば、ブチブチという音が聞こえてくる。過負荷に筋肉の繊維が千切れているのだろう。


 耐え難い痛みだろうと、動きを止めれば死に直結する。であれば動きを止めてはならない。止めたくても簡単には止まらないのだが。


『そうだ。立ち止まるな。立ち止まれば瞬く間に命を失うのはお前の方だ。ならば前進するのみだ。目の前の拳戟、見切れぬものでもあるまい。見切れぬのならば、今この場で見切ってしまえ。そうして活路を見出すのだ。案ずることはない。お前にならば出来るッ』


 それは何処か誇らしく語っている。自分が負ける事など一切考えてはいない声援エール


 知るものか。自分は苦痛に耐えるのだけで精一杯なのだ。

 

 全身に雷を纏い、いつ炭となって朽ちるかともわからない力。人を消耗品としか考えていない様な力。魂を燃料に燃やすこの力。しかしそれでも戦わなければならないのだ。 


『凡人だからなんだというのだ。意志が砕けぬ限り、お前は無敵だ。お前の力を魅せてやろうッ!!』


 饒舌に熱く語る存在。自分の事を掛け値なしに信じているのは伝わって来る。


 英雄になどなりたくはない。しかし自分に許されているのは英雄としてこの世界を救うという路だけだ。


 何故なら、それがこの『勇者の石』に定められている戒律だからだ。世界を救う限り、力を授ける効果。世界を救うまで斃れてはならない。その戒律を設ける事で強く精霊との繋がりを保つ。


 これを持つ者は強制的に世界を救う為に戦わなければならないのだ。


「っあああああぁぁぁぁーーーーーッッ」


 激痛と共に振るうからこそ、それを耐える為に口から飛び出る雄叫びと共に振り上げた拳が炎を纏う巨体を打ち上げる。


「ゴォッ!?」


 両腕に稲妻を集中させる。密度を増して光り輝き、紫電を漏らすその腕に掠めただけでも感電し、傷を負う事だろう。


 だがそれを行使する本人も地獄の釜に煮られているような熱さを感じていた。腕が熔け落ちて行くような感覚とでも言えば良いのだろう。それ程の熱を放っているのだ。


 苦痛も激痛も、それだけでは止まらない様に出来ている自分の身体。『勇者の石』を埋め込まれている身体は、その程度では止まってくれないのだ。


「オオオオオォォォォーーーーッ!!!!」


 その拳を振るいながら思う事は、この世界に対する怒りだ。


 この世界を呪っている。世界を救う為の兵器にさせられている自分。何故自分だったのだろうか。考えたところで答えは出ない。出来るのならばこの力で世界を焼き尽くしたい。


 しかし、そうしたところで自分は戒律に反したとして忽ち炭となるだろう。


 行き場のなく募る憤りを憤怒に変えて、拳に込めて振るう。目の前に居る魔人という存在を心から憎悪する。魔人が居なければ、自分がこんな姿になる事もなかった。


 それらの怒りとやるせなさ、悲しみも何もかもを拳に乗せて、振るう。


 その拳は炎の鎧を貫き、その奥にある本体を殴り穿つ。防御を捨てすべて攻撃に注ぎ込む一撃。


 打ちつける拳から紫電が迸る。その輝きは炎の魔人を打ち砕かんと、赫怒の雷火を魔人の身体に打ち込み続ける。


 常人ならば一撃を受けただけでも雷に撃たれた程の電撃を身に受けているだろう。感電死は必至。


 だが、炎を纏う魔人はそれで終わらせなかった。


「グオッ、クォォォォオオオオオッッ」


 全身から噴出する炎。鎧を身に纏っていない現状ではその炎で自分を焼き尽くすことは容易いだろう。


 すぐさま離脱しつつ、雷を全身に纏わせる。


 魔人に対抗する為に生み出された魔人。それが自分。異世界から召喚された自分が何故その様な立場になってしまったのか。


 それはこの世界が遥か太古に滅びを迎えた時、異界からやって来た勇者が世界を救ったという伝説があったからだろう。


 精霊と契約し、超人的な力を得た勇者。その勇者を再現しようとして悉く失敗しているらしい。だから同じように異世界から人間を()び、魔人に対抗できる戦力とする。


 人道的に反しているような事を実行させる程に魔人の脅威は凄まじい。その脅威を、自分も今目の前にしている。


 成る程、確かにこれ程までの脅威が存在していては、並大抵の人間が立ち向かった所で、そこら中で屍を晒している兵士の様に、何も出来ずに一方的に蹂躙されて国は滅ぶだろう。


 国の為にその脅威に立ち向かう手段を講じるのは理解できる話だ。しかし納得できるのかと言われれば別だ。


 訳も分からず戦って、死んでやる義理もない。それこそ自分の死に方くらいは自分で選びたい。英雄となる宿命を背負わされてしまったのだから、終わりくらいは自分で選びたい。


 その意志だけで戦っている。折れぬ意志があり、世界を救うという大義のある戦闘において、戒律を設けられた呪いの石は力を授けてくれる。


 それが身を焼く雷となっているのは、この力を授けている存在が精霊などではなく、神格であるが故にだろうか。


 そう。普通なら自分は精霊と契約し、リスクもなく超人となるはずだった。しかし、自分が契約してしまったのは、自分の世界の神格。


 雷の神、武の神、剣の神――。


 名をタケミカヅチ。


 火の神――カグツチの血から生まれた神。


 齎されている能力は雷の操作。しかし神の力を凡人が制御し切れるわけもなく、能力を使えば同時に自傷するという扱い難さ。正直に言えば失敗作の烙印を押されても仕方がないのだが、その上で破壊力という一点を見れば、紛れもなくこの力は最強であった。


 魔人が戦術兵器であるのならば、この力は戦略兵器にすら匹敵するだろう。何故ならば雷が人の形をして、その意思で破壊を振り撒くのだから。


 未だ人類の域に在りながら、魔人を上回る破壊力を身に宿し、理不尽の権化を更なる大理不尽で捻じ伏せていた。


 魔人と勇者の違いは、その身に宿す力の性質の差だけであり、本質は変わらない。


 魔人は、魔力を込めた魔石を身体に埋め込まれている。その魔石の宿す魔族の魔力によって、魔人はその力の性質が現れる。


 目の前の魔人は、炎を操る魔族から魔力を与えられた魔石を使って生み出された魔人なのだろう。


 対する己は、本来ならば精霊と契約するところを神格と契約している。齎されている力の差が、そのまま戦闘能力の差に繋がっている。


 そこだけを見れば、降って湧いた力に自惚れたとしても誰も文句は言わないだろう。


 異世界に招喚され、摩訶不思議な神通力を得て、世界の脅威を相手に戦う。どこにでもある様なお伽噺で終われただろう。


 だが、実際は本人の了承もなく授けられた呪いの品。戦いを強制されている現状。そして行使すれば自傷を伴う力。


 これて有頂天になれる人間が何処に居るというのだろうか。


 齎される恩恵も、利益も、すべて意味がない。晴れやかな気持ちで戦えるのならばまだマシだろう。


 だが、戦う度に苦痛を味わなければならない。立ち止まる事さえ許されない。世界を救う為の勇者という名の奴隷。この境遇から脱するには、それこそ世界を救い、自らが用無しとならなければならない。


 故に殺す。目の前の魔人を殺す。この世に居る魔人を全て殺す。そして自分が必要でなくなる世界を作る。


「顕象せよ、我が守護神――常世の穢れを祓うがため」


 魂から立ち昇る殺意を秘め、祝詞を紡ぐ。


「その武功を我がもとへ。悪神の毒に穢れし御霊をどうかその光で照らしたまえ」


 全身に身に纏っていた雷が右手に集まり、形を変えていく。拳の中から湧き出る稲妻はさながら剣の様な形を成していく。


『是非もなし。ならば勇者よ共に征こう。遍く邪悪を偉大な雷火で打ち砕かんッ』


 自らの内から聞こえる聲に耳を傾けながら、その神の力をこの身に降ろす。正義の神でもあるタケミカヅチは、目の前の邪悪に冒されている魂の嘆きを聞き、その解放を望んでいる。


 軍神でありながら、力尽くではなく、その言葉をもって国譲りすら成した神であっても、言葉が最早届かぬ相手だというのならば、その剣を抜くことに躊躇いはなかった。ただその魂に安らぎよあれと願う。


「顕神ッ――布都御魂剣(ふつのみたまのつるぎ)!」


 その手に雷が形となった剣が顕れる。純白の剣の形は日本刀の様に反りがあり、鍔の僅か先――刀身の部分が稲妻の様に曲がっているという変わった日本刀。


 その刀身には青白い輝きが帯びている。迸る紫電が、その光が稲光である事を伝える。


 その剣を掴む腕から感じる稲妻の発する苦痛を、歯を食い縛りながら耐える。


 破邪の剣を手に、軋む身体の痛みに耐えながら、頭に浮かぶイメージが勝手に身体を動かしていく。


 素人の人間を即戦力とする『勇者の石』の恩恵。折れぬ心がある限り身体を動かすことのできるその力は、意志さえ砕けなければ自分は無敵だと言ったカミサマの言葉の通り、耐え難い痛みの中でも問題なく身体を動かしてくれる。


 そう、自分に求めれているのは器としての価値だ。痛みに耐え続ける事が己の戦いだった。


 その苦痛、常人でならば瞬時に発狂しても不思議ではない。戦っている最中は途切れる間もなく襲い来る痛みの雪崩は最早我慢や気力程度でどうにか出来る程でもない。


 指一本動かすだけでも、痛覚に剣山を突き刺した様な激痛が全身を駆け巡る。


 荒い息から感じる血生臭さは、自らの身体の中から発せられている。感電している身体が焼けているだけだ。


 『勇者の石』は勇者を斃れぬ様に生かし続ける。戦い続ける兵器へと生まれ変わらせるのだ。


 だからどの様な苦痛を伴っていようとも立っていられるのだ。稲妻の負荷によって焼けてしまった身体も、今この瞬間現在進行形で癒され、そしてまた焼かれている。


 魔人を亡ぼすまで戦い続ける勇者となった自分は、死の自由さえ奪われた。戒律を破れば死ぬことは出来るだろう。だが、それは癪に障る。まるで負けを認めてしまった様で未練を残す死に方だ。


 死ぬことも許されないのならば、戦う路だけしか残されていないのだから、戦うしかない。


 頭の中に浮かぶイメージは、『勇者の石』が齎す戦闘技法の最適解。相手の動きに対する最善を導き出す。


 だが、勢いを増す神の力を身に降ろした自身の身体能力でならば必要なのは崩壊しながらも動くことのできる治癒力であり、既に見切る事に目が慣れて来た自らには邪魔な夢幻でしかない。


「シッ――!」


 振るう剣の鋭さは、剣の神の加護を受け、今でなら鋼鉄をも切り裂けるだろう。しかし素人の身体が、その一撃を放てるように出来ているわけがない。振り絞った力に対して強度の足りていない筋肉が断絶する。


 しかし剣を握る指に込める力は死んでも弛ませはしない。


 雷光を灯した剣は電光石火の(はや)さで炎の魔人を刺し貫かんと迫る。


 しかし、炎の魔人はその身を正しく炎と変えて、物理干渉を素通りした。


 炎の輪を飛び抜ける猛獣の様に、炎の魔人を素通りしてしまう。


「グオッ、ォォォォオオオオオッッッ」


『中々面白い仕掛けだが。その程度で我が剣から逃れられるわけがなかろう』


 全身が更に火達磨になって焼かれるような激痛に耐えている合間に、己の内のカミサマはそう吐き捨てた。


 顕現している布都御魂剣(ふつのみたまのつるぎ)は、正真正銘の神の剣。


 物体を透過されようと、霊魂ごと斬る事は造作もない事だった。


 霊魂に及ぶ傷を受けたことで、炎の魔人は苦痛にもがくかと思いきや、その肩を震わせて口から出て来たのは哄笑だった。


「ハッ、ハハハハハッ。これが人間の力だと? 笑わせるな。これでは我々魔人と同じではないかッ」


 物理透過の能力で避けられぬ力など体験したことのなかった炎の魔人は、その剣を受けたからこそ、その力の本質を感じ取れた。


 単純な能力ではない。自らと同じように他者の力を受けて放つその在り方。人間では放てぬ威容に、その力の本質を見抜いたのだった。


「そうだ。お前たちの様な化け物を殺す為だけに生まれた化け物だ」


 自分の身体が既に普通の人間とは扱う事は出来ないだろう。訳も分からない内に呪われた石を組み込まれ、その石の所為で戦うしかない兵器になってしまった自分が、化け物以外にどう分類できるのだろうか。


「悲しいよなぁ。虚しいよなぁ。でも、この身体はとても便利だ。受け入れちまえば、これほど人生楽しい事はないぜ。好きなように生きる事が出来る。好きなように奪い、好きなように殺せる。お前もそうして生きてみれば良い」


「それが出来るのならとっくにしているさ」


 だがこの身はそれを許されない。世界の為に戦う事を強制されて縛られているのだから。


 自由などなく、唯一の自由は、目の前の魔人を殺す為の殺意を振るう事のみ。


「成る程。哀れだなぁ…」


 短い会話の中で、炎の魔人は目の前の勇者がどういった存在であるのかを理解する。


 超常の力を宿しながら、国の為に飼い殺しにされている。痛みを伴いながら成した偉業でさえ、その結果は国の為の礎にしかならない。世界の平和と謳っていても、綺麗ごとに塗装された醜い本音は、国の為に死んで来いという赤紙である。


 しかも本人の了承すら得る事もなく手渡された地獄への片道切符。これ程哀れな存在も他には居ないだろう。


「その姿は見るに忍びない。このオレがお前を自由にしてやろう。せめてまだ、人間(ヒト)である内に、勇者(栄光)という苦しみを背負う前に。死という安らかな自由をくれてやる」


 炎の勢いが増す。その勢いはまるで火柱の様に燃え盛り、周囲の炎すら巻き込んで強さを増していき、足元の地面があまりの高温で融解していく。


 炎の輝き、緋色の輝きは触れさえすれば人体どころか鉄でさえ容易に溶鉱炉の様に溶かすだろう。


「それこそ願い下げだ。自分の死に方くらいは、自分で決めさせてもらう」


 神剣を手に、更に神力を身に宿し、煌く稲妻は紫電を漏らしてとぐろを巻く。その姿はまるで稲妻を纏う龍の様に見えるだろう。


 立ち上る炎と雷。その猛りは勝負へと終止符を打つためのもの。膨れ上がる炎は周囲を烈火に染め上げ、輝きを増す雷は世界を純白に染め上げる。


 膨れ上がる世界が互いに触れ合った時、互いの世界を喰らわんと動き出す。


「ヴォルカニックフィストォォォーー!!」


「奥義──蒼龍破(そうりゅうは)!」


 掲げた剣から放たれる閃光は、雷の青白い色で世界を塗りつぶし、紅蓮に焼かれる街でさえ白い闇に包み込んでいく。


 振りかぶった紅蓮の魔拳から放たれる劫火は、炎の緋色で世界を焼き尽くし、閃光に()かれる街を太陽の如き輝きで呑み込んでいく。


 その光に呑み込まれながら、勇者――天宮(あまみや)優理(ゆうり)は少し昔の事を思い出していた。





つづく。

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