しろくてうつくしい手
とある昼下がり。
女はお気に入りのテラスで手に入れたばかりの本を読んでいた。
「ご主人様!」
緩やかで静かな時間に終わりを告げたのは、己の可愛がっている召使いだった。
「ご主人様、見てください」
「なぁにぃ?」
「首です!」
「………あらぁ」
「ご主人様を侮辱したので処罰致しました!」
頰を上気させ、見上げる瞳を輝かせて報告する少年。
この表情は、褒めて欲しいときの顔である。
「わたくしのために、してくれたのねぇ」
「はい! だってご主人様は素晴らしいお方です! このような羽虫以下の存在に侮られてよい方ではありません!」
「うぅん…、わたくしを想ってくれるのは嬉しいのだけれど」
女はちょっと困った顔で、首を持ち上げる少年の手を取った。
「お前の手が、汚れてしまうのは嫌だわぁ」
「っ申し訳ございません! 僕はご主人様のものなのに汚してしまって…!」
「良いのよぅ。でもこれからは、美しいお前でいてねぇ」
──わたくしは、お前の白くて美しい手が、お気に入りなのよ。
その昔、僕の敬愛するご主人様はそう仰った。
僕の手がお気に入りなのだと。
大変、大っっっっっ変、光栄で名誉でとても誇らしいことだ。
ご主人様のお言葉は絶対である。
あの日以来、僕は汚れものを触れることすらしていない。
…だがしかし、世にはご主人様の寛容で慈愛に満ち溢れた御心に甘えて、勝手なことを口にする者どもがいる。
これは断罪に処すべきだ。
大罪人を野放しにするなど、言語道断。
ご主人様のお言葉を守りながら、正義を執行しなければ。
「ご主人様! 見ててくださいね!」
「……あらぁ、投げナイフ上手になったわねぇ。頑張ったのねぇ、偉いわぁ」
「えへへっ光栄です!」
今日も僕は、しろくてうつくしい手のままである。
「あらぁ、お前の白くてもちもちの頰が汚れていてよぉ」
「っ申し訳ありませんご主人様! 僕は(以下略)
以 下 略 !