第壱話「雪降る夜の紅き奇跡」
白い大地に残る紅い斑点。
頬を伝う生温い液体。
周囲に飛び散っている鮮血。
血溜まりの中に立つ男。
その男が浮かべた笑みに俺は戦慄を覚える。
「死ねや」
耳元で放たれた声。目の前に迫る刃を危ういところで躱す。
そのまま後ろへ飛び退き刀を抜くが、追撃は来なかった。
「ほぉ、今のを避けるか。おまん、手慣れじゃな? 名は何じゃ」
「人斬りに教える名は無い」
「はっ、そいじゃが仕方あるまい。その首、もろうぞ!」
叱責と共に鋭い斬撃が首を狙う。禍々しい雰囲気の刀は紅い軌跡を残し空を切る。
「影夜に舞いて命穿て、夜桜」
紫炎を纏う短刀を抜き放ち男の背後に立つ。刹那、男は刀を切り返す。だが、遅い。
紫炎の短刀は男の右腕を切り落とした。
「もう、逃げても無駄だ」
「誰が退くものか! ワシはまだ、負けておらんぞ!」
俺は男の逆鱗に触れたらしい。だが、こちらとしては好都合だ。
「最果てより来るは紫炎の黒龍。滴る血肉は我が糧となる。飢龍爪」
擦れ違う瞬間、揺らめく紫炎が龍爪を形き取り血肉を抉りとる。
「ごはっ!」
激しく吐血するが、男は倒れなかった。
「まだじゃ、まだワシは倒れん!」
禍々しい気配。周囲に漂う妖気に男は笑みを浮かべる。