8.それぞれの動向
しばらくは、こっちの投稿に専念します。
◇王国
「すみません、姫様……アキトの逃亡を、阻止できませんでした」
秋人が壊したE室で、リードファルデという名の騎士は膝をついて報告する。
「おそらく、アキトは我が国の転移魔法陣の技術を応用して無差別転移を行ったと思われます」
「そうですか……。ランダム、となるとやはり行き先も……」
「はい、特定できておりません。取り逃がしてしまい、本当に申し訳ありません!」
「いえ……この国から撃退できただけでも良しとしましょう。それよりも貴方には他にして貰わなくてはならないことがあるので……」
「何でしょうか?」
「勇者の稽古付けです。どうも今回の勇者様方はあまり質がよくないようで……剣すらまともに振れない者が多数いるみたいですし、アキトのような不穏分子に対抗するためにも彼らの戦闘能力を高めておくことに越したことはないでしょう。……勇者の訓練役、任せられますか?」
「はっ!姫様のご命令とあらば!」
「ありがとうございます。……期待、してますよ?」
細められたローズヴェルデの目は、三日月のように歪んでいた。
◇
「……秋人の楔が遠のいている?」
一方、リードファルデとローズヴェルデの二人が密約を交わしている中、秋人の事情を把握していない棺は、己の異能の効力で早くも場の違和感に気づいていた。
(僕のアンカーは、数キロ単位で把握できるはず……。なのに、秋人のアンカーの感覚がこの王城の中からしてこない……)
そこから導き出される答えは、秋人が馬鹿やらかした、ということだ。
(はぁ……大方、ステータスの偽装に失敗したとかそんなんでしょ?わかるよ……だって、秋人“隠鬼の業”苦手だもんね。こんなことなら偽りの私を秋人に使っておけば良かった)
後悔するものも、既に遅し。
おそらく秋人は正体を見破られ、不穏分子として始末されたのだろう。
(でも、とんでもないぐらいに遠い場所ではあるけれど……秋人の生体反応を感じるし……多分、無事に逃げられたのかな)
ならば今は自分の心配をしていた方が良いか、とすぐに思考の切り替えを行う。
元々、秋人が実力を隠してここで過ごすとしたら、めちゃくちゃ弱いと思ったら実は俺が最強!みたいな展開が好きな秋人のことだ……最底辺クラスに入るに決まっている、と。
そう思ってクラス分けでも特に実力がないであろうクラス、部屋番号Dの所に来ていた。
棺的には、たかが一般人に能無しと判断されるのは屈辱でしかなかったが、これも秋人と同じクラスに入るためだ、と自分を必死に納得させてこのクラスに入ったが……。
(どっちにしろ、秋人がいないんじゃなぁ〜…………)
目的の秋人が居ないのでは、棺のやる気はだだ下がりだった。
(適当にこなして機会を見計らって、秋人探しに行こう!)
そう考えて、D室にいたメイドさんからの話を聞き逃していた。
ちなみに、40人ほどいる学生の中でD室に呼び出されていたのは棺と1人の男子生徒だけであった。
◇???国
「だ・か・ら!嫌なものは嫌って言ってるでしょ!?何度同じことを言わせれば気がすむのよ!私は、ぜぇ〜ったい奴隷なんか側に置かないから!!!」
紫色をした髪の毛をツインテにしている見た目小6ぐらいの娘が、大きな声で怒鳴った。
部屋にはツインテ少女の母親と思しき女性の他に何人かの給仕がいたが、給仕の方はいつものことだ、と言わんばかりの表情で各々の仕事をこなしていた。
ツインテ少女に怒鳴りつけられた、少女そっくりの女性は、眉尻を釣り上げながらも怒鳴り返す。
「お主の言いたいことはわかるが、な。それでは我が国の品位に関わるのだ!一国の姫君ともあろう者が我ら強さの象徴とされている奴隷を所持していないとあっては……。現にお主だって周りから舐められて不快な思いをしてきたであろう!?」
「ふん、別にそんなものはどうってことないわよ。……私にかかれば、ね」
「それはお主が、馬鹿にしてくる者を片っ端から殴り飛ばしておるからであってだな……。
そういう暴力沙汰をなくすためにも、お主には奴隷が必要だと……」
「でも、奴隷って臭いしウザいし、大抵陰キャだし?そんな奴が四六時中付きまとってくるなんて……」
辟易とした様子で女性は告げる。
しかしツインテ少女は納得していないのか、尚も言い募ろうとして……。
「そんなの我慢できなーーー」
ーーードガァァンッ!
ツインテ少女の言葉を遮るかのように、雷の如き勢いで何かが転移してきた。
「何事か!?」「何よ、これ!?」
先ほどまで喧嘩していた2人も、さすがに喧嘩を止めて現状の把握に努める。
「こ、これは……雷、なのか?」
「地面が焦げてる……?」
絶句して爆音地を見つめていると、煙の向こう側から人影が浮かび上がってきた。
「あー…………」
「「……?」」
気怠そうな、それでいて若い男の声が響く。
「いやー、てっきり転移とか言うもんだから、もっとスマートな方法で飛ばすもんだとばかり思っていたが……。こんな乱暴なやり方とはなぁ」
ポリポリと髪の毛を掻きながら現れた男は、そう呟く。
やがて粉塵が収まり、全貌が露わになると、男の容姿がくっきりと見えた。
この世界では珍しい黒髪黒目に、身長170ちょっとと少し小さめの背。
痩躯な身体つきをしており、手には火を吹いている棒が握り締められていた。
青年は一通り辺りを見回し、周囲に人がいることを確認すると、ゆっくりと呼気を整えながら言った。
「えーと……ここってどこなんですかね?」
突然の男の登場に驚愕したまま固まっていたツインテ少女と女性は、何も答えられずにいた。




