5.異能以外のナニカ
ゴールデンウィーク最後の投稿です。
リードファルデの振り下ろした大剣と秋人との間合いは約十メートルほどあった。
いくらリードファルデの大剣が身の丈ほどの途轍もない大きさであったとしても、それでもやはり二メートルに届くかどうかといったところ。
通常では届くはずのない間合いである。
しかし、そんな常識を加味してもなお秋人は身体中からリードファルデの大剣に対して危険信号を送っていた。
(ナニかが……来るッ!?)
直感的にそう判断した秋人は、瞬時にその剣線状が外れる。
スパンッ!
「ッ!?」
数瞬後、まさに秋人がいた場所が粉微塵に切り刻まれる。
秋人は動揺を隠しきれない様子でリードファルデの顔を見つめる。
すると、リードファルデの方も驚いたと言わんばかりの表情で秋人を見つめていた。
「……驚いたな。アキト殿、其方はまだレベル1なのであろう?それでいて私の『一閃』を避けるとは……」
「『一閃』……?」
「うむ、先ほどの飛ぶ斬撃のことであるな。私は剣術と魔剣のスキルを併せ持つが故に、その技巧を可能としている。……切り刻まれたくないのであらば、私の大剣の剣線上には立たぬことをお勧めする」
リードファルデは秋人がレベル1であるために秋人のことを侮っているのか、秋人の疑問に丁寧に答えた。
(へぇ……これが舐められるってやつか。何気に初めてだな)
秋人はそんなリードファルデの舐めた様子に、日本では味わうことがなかった感情を抱く。
(なんか……あんまりいい気分じゃないな)
ーーー不快。
秋人の精神状態はその一言に過ぎた。
秋人としては一言や一言ほど文句を言ってみたいものではあるものの、如何せん今はレベル不足である。
(それに、この世界の情報もまだ全然仕入れていない……)
また、秋人は情報の無さにも嘆いていた。
先ほどのリードファルデの飛ぶ斬撃にしてもそうだが、この世界は異能だけで事が済んでいる世界ではない。
何かしらの秋人には及びつかない未知の力を用いているのは間違いない。
(今はそれを探るのが先決……とすると、リードファルデから色々聞けるのは助かるかも)
秋人は一旦己の内に秘めるプライドを投げ捨て、情報収集に力を入れる。
「へぇ〜、それ『一閃』って言うんだ?」
「うむ……なんだ?アキト殿にはこれが珍しいのか?」
「まぁ珍しいと言えば珍しい……と言うか、俺の世界でそんなものは見たことないからな」
「そうか……。ならば、存分に見るといいぞ。『三閃』ッ!」
(はあッ!?)
リードファルデの言葉とともに、目にも留まらぬ速度で大剣が振り下ろされる。
それと同時にまたしても危険を感じた秋人は、その場を跳び退いた。
「ッ゛!?」
「ほぉ……」
しかし、秋人の飛び退くスピードが遅かったのか、右腕に多少の切り傷が“三つ”刻まれている。
(三つ……?おいおい、もしかしてあいつ、あの一瞬で三つもの斬撃を放ったってのか?)
秋人が戦慄を露わにしている中、リードファルデの方もアキトの動きに感心していた。
(ふむ……勇者は元来レベル1では、軟弱で使い物にならぬというのが定評であったが……。どうやらアキト殿は勇者達の中でも別格の位置付けにいるようだな)
中々侮れない、とリードファルデは短く呻く。
そこでリードファルデは、姫からの伝言で“手加減無用”との言伝を頂いていたことを思い出す。
(確かに、これほどの身のこなしをする者に遠慮は不要であるな。うむ!少し私も本気を出すとしよう)
そう決意したリードファルデ。
その瞬間、リードファルデから溢れ出る魔力(秋人の言うところの業のこと)が変容する。
パァンッ!!!
「ッ!?!?!?」
何が起きたのか、秋人には理解できなかった。
ただ視界が1回転以上の回転を繰り返し、そして今大理石風の真っ白い壁に叩きつけられていた。
「ゼェーハァー、ゼェー……ゴホッ、ゲホッ!」
(チッ、なんだ今のスピードは?)
アレは強烈な蹴りだった。
と、秋人は今目の前にしているリードファルデの蹴った後の様な構えをみて、そう判断する。
(ヤバイ、あんなスピードに対抗する術なんて今の俺には持ち合わせてねぇぞ?)
秋人が内心焦っている中、リードファルデはパチパチと大きな拍手をする。
「フッフッフッ!素晴らしい!アキト殿!よもや私の蹴りをレベル1で受け止めることに成功するとは」
(いやいや、全然受け止められてませんけど?)
「これならもっと速度を上げても問題ありませんな?」
(えぇーッ!?あれよりもさらに速くなんの!?無理だよ!?俺、そんなの耐えられませんよッ!?)
「では、行きますよッ!」
(ちょっと待てやぁああああああああああ!!!)
「ふんっ!」
パァンッ!!!
再び何かが弾ける様な音がすると同時に、リードファルデの姿はかき消え数瞬後には秋人が壁に盛り込んでいた。
「ふぅ〜……これでは、もう生きてはいまい」
蹴りを放った直後、しばらく残心の構えを取っていたリードファルデは、壁から染み出してくる血を見つめてそう独りごちる。
そうしてリードファルデが秋人の亡骸から背を向けて歩きだそとした時ーーー
ガラッ!
ーーー壁から音が聞こえてきた。
「は?」
その一瞬後、リードファルデは自身の体が宙に浮いていることが分かった。
(何だ?何が起こっている?)
頭の中がパニックになっている中、リードファルデは目撃する。
秋人が五体満足の状態で拳を突き出している姿を。




