27.ウィルミの日常
主人公暴走(笑)
◇
あの決闘から一週間が経過していた。
リンテウス様はアキトとの決闘で相当の精神的なダメージを負っていたらしく、決闘直後に倒れてしまった。
リンテウス様の側近である三人が付きっきりで介護をしている様だが……。
未だに体調が良くなったという知らせは来ていない。
私はといえば、あの決闘以来屋敷での扱いが少し軟化した、といったところだろう。
まぁ、正確には主がボロボロな状態で私を虐めている余裕がなくなっただけの様だけど……。
でも、私からすれば平和な一週間だった。
今までを振り返ってそう思った私は今、先日漸く体調が快復の兆しを見せてきたリンテウス様の私室に呼び出されていた。
コンコン。
「入れ」
「……失礼、します」
「座れ」
「……はい」
何度入っても慣れることはない、リンテウス様……いや、主の私室。
ナイフや剣、弓矢などの武器が所狭しと置かれており、中には拷問器具まであったりして随分と不快な気持ちになる。
主は、そんな部屋の中央にぽつんと置いてある机に頬杖をついて私を見据えていた。
と、私が部屋の中を見ていると、唐突に主が私に向けて何かを投げつけてきた。
「……決闘の報酬だ、くれてやる」
「……?」
「アキト……あの下民との約束事でな。我が負けたら貴様を解放し、それなりの給与を払って部屋から追い出せ、出そうだ」
そう言って、袋の中を開けて見る様に催促してくる。
ゆっくりと紐を解いてみると、中には私の首輪の鍵と思しきものと、金貨が数十枚、ジャラジャラと音を立てながら入っていた。
「これで、故郷にでも何処にでも好きな所に行くといい。……奴もそれを望んでいた様だしな」
奴、とは……。
いや、考えるまでもないだろう。
この場合どう考えても一人しか考えられない。
私は震える手で、鍵穴に鍵をカチリとはめた。
すると、今まで私の人生を重く縛っていた首輪は、ストンと落ちていった。
「ぁ………っ」
終わった……終わったんだっ。
私の長い様で短い奴隷生活は、終わりを告げたんだ。
やった、これで故郷に帰れるっ!
集落に戻る自分を想像して私は希望で胸をいっぱいにする、のだが……。
どうしてだろうか?
それほど楽しく感じないのは……。
そのとき、私の脳裏にはどうしてか彼の顔が浮かび上がっていた。
◆
あれから二週間が経った。
学院での決闘騒ぎは次第に薄れていき、今ではクラス内でちょっとした挨拶をかけられる程度にまで鎮火している。
少し寂しい様な気がしなくもなかったが……。
まぁ、今の落ち着いた生活がなんだかんだで俺は気に入っていた。
リンテウスは、俺が負わせた傷を治して無事に復学。
そして、あいつは約束通りウィルミを奴隷から解放して無事に集落へと帰したようだ。
……少し、意外だった。
あいつが本当にクズ野郎なんだとしたら、奴隷との約束なんか反故にしてまたウィルミに虐待でもするのではないだろうか、と危惧していたからだ。
だが、実際のところは、
「我が約束などを反故にできるか!我ら公爵家の名に傷がつくだろうがッ!」
と、怒鳴り散らすぐらいには筋が通った人、いや魔族だったようだ。
俺は素直にお礼を言ってその場を去った。
結局のところ、俺は何かを成し遂げることが出来たのだろうか?
あのときは頭に血が上ってウィルミを奴隷から解放されるのが最良だ、なんて身勝手にも考えていたのだが……。
よくよく考えてみたら、ウィルミから一言も『助けて』なんて言われてもいない訳だし……。
もしかしたら、ウィルミにとってはそれなりに充足した奴隷生活だったのかもしれないのだ。
とは言っても、流石にあの火傷の痕は看過出来るものでは無かったのだが……。
しかし、人によって幸せの尺度は違う。
俺にとっては嫌なことでも、彼女にとっては幸せなことだったのかもしれないのだ。
まぁ、グダグダと内心を語ってはみたものの、結局のところ幸せかどうかなんていうのは本人にしかわからないことだ。
俺が正しい、と胸を張れることではないが、それでも後悔するほどのものでも無かった気がする。
強いて言うならば、今度はちゃんと助ける相手の了承を得てから……もっと言えば、もう少し状況の把握に努めてから動くようにしよう。
そうしよう、と決意を新たにしたところで、俺はアイレの自室へと入った。
◆
「おっそいわねっ、アキト!」
「……へいへい」
着いて早々の罵倒。
こいつは決闘騒ぎ前も後も全然態度が変わらない……。
なんか、もう少し褒めるなりなんなりないのかよ?
「ああ、そうそう。そういえばうち、新たに専属のメイド雇ったから。ちゃんと挨拶しときなさいよ?」
「へいへい」
「ったく、いつになったら返事の仕方を覚えるのかしら……ウィルミ、紅茶!」
「……わかった」
裸エプロン姿のウィルミにアイレが怒鳴り声を上げて注文する。
やれやれ、こいつは全くもって品性というのが一欠片もないな……。
「……主、どうぞ」
「お?ありがとう」
「……どういたしまして」
「こらー!なんで私よりも先にそいつについでんのよッ!普通、私が先でしょ!」
「……私の主は、あくまで、アキト。……アキトを優先するのは、当然」
「何よ、あんた!あんたが、ここで仕事したいって言うから私が雇ってやったって言うのに……逆らう気なのッ!?クビにするわよっ!」
「……わかったわかった。今、注ぐ」
「対応がおざなり過ぎッ!」
「……へ〜い?」
「アキトのマネすんじゃないわよっ!」
「……わかった。……とりあえず、注いでくる」
「そうよ、それで良いのよ……ったく」
苛立ちを収まらないのか、忙しなく髪の毛をかきあげながら言う。
うわ〜、こんな女の子やだなぁ。
それに加えてウィルミちゃんは天使だなぁ……。
黄色いエプロンに、むき出しの白い背中。
クルンと丸まった尻尾が彼女の小さなお尻を隠しており、なんとも扇情的な姿をしている。
胸はあまり発達していないのか、エプロンを数センチほどしか浮き上がらせることが出来ていないが、逆にそのロリっぽいところが何とも背徳的な気分にさせてしまう。
うんうん、やっぱりウィルミちゃんは最高だな。
そう思って俺は紅茶を口に含み、そしてーーー
「ぶぅうううううううッ!?」
「わっ、汚なっ!何すんのよ、下僕!」
俺は漫画のごとき勢いで吹き出した。
「……どうしたの?」
心配そうな顔で覗き込んでくるウィルミちゃん。
うん、やっぱり天使だ……じゃなくて。
「えっ?何でここにいんのッ?奴隷から解放されたんだよね?故郷に帰ったんじゃないの!?」
「……うん?別に、私は……奴隷じゃ無くなったけど……」
「けど?」
「……まだ、ここでやり残したこと……あるから……」
「そっかぁ……」
やり残したこと、か……。
まぁ、本人が残りたいって言うなら特に問題ないか。
俺がどうこう言える立場じゃないし……。
それに……もっと他に聞きたいことがあるから。
「で?その格好ナニ?」
「……裸エプロン」
「いや、名称ぐらい知ってるっーの!だから、そうじゃなくてだな!何でその格好いんの?ってこと」
だって普通考えておかしいだろう、裸エプロンとか……。
俺が困惑した様子で疑問を呈するとその返答をアイレがした。
「あぁ、そうそうこいつよ、新しい専属メイド。あんたの専属になるんだって」
「へー」
全然、俺の欲しい解答じゃないし、後奴隷に専属のメイドが付くってなんかおかしいと思わないの?
「……男の人は、みんな裸エプロン好きって………言ってたから……」
「……誰が?」
「……リンテウス、様」
「……」
Oh……リンテウス。
お前はどうしてそんなマニアックな趣味を知っているんだい?
この瞬間、俺へのリンテウスの評価が大暴落を起こした瞬間だった。
と、それはともかく。
目の前でぷるぷる震えている彼女には教えてあげなければ、いけない。
その、過ちを……。
「良いかい、ウィルミちゃん。世の中には、確かに裸エプロンが好きっていう男子も少数、いやまあまあ、いやかなりいるとは思うけど……少なくとも俺はそういう趣味を持っていないんだ」
「ほっ」
俺がそう言うと、明らさまにホッとしたような顔をアイレがした。
……何でお前がする?
いや、今はウィルミちゃんに説明するのが先だ。
「だからね?今度からは裸エプロンなんて止めるんだ……」
「……うん、わかった」
「そしてーーー全裸ニーソで俺に給仕してくれっ!」
「ーーーは?」
その瞬間、温度が5度くらい下がった気がした。
「君のそのロリロリしい身体は裸エプロンなんてもので隠して良いものじゃない!もっと堂々と……そう!全裸ニーソの様な格好でーーー」
「ーーー何言ってんのよ、このへんたぁあああい!!!」
「ブベラッ!?」
俺が全てを言い終わる前に、アイレの右ストレートが俺の腹を抉った。
「ぐっ……くそッ、テメェ!何しやがる!?」
「何しやがる!は、こっちのセリフよ!あんたねぇ、ちょっと見直した思ったらとんだ変態じゃない!」
「な、何をぉ!テメェ、あの全裸ニーソの神々しさがわからんのかっ!?」
「はぁ?そんなのわかるわけないでしょ!……リンテウスも馬鹿だ馬鹿だとは思ってたけど、あんたはもっと馬鹿ね!」
「く、くそぉおおおっ」
なんとか反論したいものの、実際奴のが正論だ。
そりゃそうだ。
どこの誰が推定10歳ちょっとのロリボディに全裸ニーソさせようとしていた高校生を擁護できると言うのだろうか?
少なくとも俺はロリコン以外にそんな業が深い奴知らない。
「やっぱ、俺の夢は叶わないのか……」
そう寂しげに声を漏らすと、ウィルミちゃんから天使の声を頂いた。
「……主がどうしても、って言うなら……」
「ウィルミちゃん……」
ジトォとした相変わらずの無表情フェイスではあったが、俺にはわかる。
あれは俺を労わっている表情だ。
少しでも恩返しをしたい、そんな純粋な少女の顔であると。
これで、両者の契約は成立。
めでたしめでたしのはずだったがーーー
「あんたねぇ……私がいながら、そんなことさせると思ってんのぉおおッ!!!」
「ひぃいいいッ、ご、ごめんなさぁああい!!!」
……そう上手くはいきませんでしたとさ。
◆
そうそう、これは完全な後日談なんだけどさ……。
なんと、ウィルミちゃんが全裸ニーソで夜這いに来てくれました!
恥じらいの表情を浮かべながら、
「……あの、優しく、して……」
と、言われて俺は我慢できずに抱きました。
後悔はしてません。
めっちゃ気持ちよかったです。
今まで読んでいただいてありがとうございました。
今回の話をもって第1章は終了です。
この話で完結という形になっていますが、また話の構成が整ったら書く予定なので、そのときは見ていただけると嬉しいです。
ただ、それまでは仮面の勇者の方に専念したいと思います。




