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26.透過する鎌撃《スルー・サイズ》

やっと、リンテウス戦を終わらせることが出来ました。

この後、ちょっとした後日談があって、第1章は終了です。

すいません、この後の展開について大分修正しないといけない部分が出てきたので、投稿を遅らせます。

具体的には、12月3日ぐらいになると思います。

報告が遅れてすいません。



聖杯の奇跡セイクリッド・ワンダー

秋人がそう呟くと同時に、秋人の全身を綺麗な水が覆う。


「な、んだ……これは!?」


秋人の全身を覆う水は、まるでこの世の水ではないかのような美しさを体現しており、空から照りつける太陽の光を受け、反射している。

その様は、一種の神々しさ及び神秘的な何かを感じさせるものであり、リンテウスは思わずといった様子で、一歩後ずさる。

実況や解説、観客たちもその神々しさに気圧されたのか、誰一人として口を開く者はいない。


数秒。

体感的には1時間にも2時間にも感じたその光景は、実際には僅か数秒を持って終わりを告げる。

そして、終わると同時にリンテウスは驚愕することになった。


「なっーーー!?き、貴様……それは一体、どういうことだ!?」


「どういうことも何も、ただ身体を治しただけだけど?」


「治す……はっ、それが治癒魔法でも言うのか?ーーー馬鹿なッ。それは、それは……」


言い淀む彼の目には、秋人の完全に治癒されていた左腕が映っていた。

否、治癒というのは誤りなのかもしれない。

秋人の左腕は完全に肩から分断されており、一切の治療を許されていない状態だった。

精々出来て、止血ぐらいが関の山。

そのはずなのに、秋人の身体はほぼ完全体だ。


(よくよく見れば……我によって傷つけられていたはずの頬の傷も、不自然に引き摺っていた足も完治しているようだ……)


その力は、正しく再生。

聖杯の奇跡セイクリッド・ワンダー』によって生み出されたものは、以前秋人が使っていた『回復する指撃リカバリー・フィンガー』とは比べ物にならない効力を発揮していた。

その代り、『回復する指撃リカバリー・フィンガー』とは違って『聖杯の奇跡セイクリッド・ワンダー』は一回しか使用できないようだが……。


『おっとぉおお!?ここで!ま・さ・かのアキト選手、完全復活!!!これは、いよいよ本当に勝負がわからなくなりましたね、ヴェーチェル姫!?』


『ええ、そうね。アキトは先ほどの恩恵(ギフト)で完全復活。それに対してリンテウスは、四肢の内2本は封じられた状態……かなり、アキトに有利な状況になったんじゃないかしら?』


『ほー、なるほど!ちなみに、ヴェーチェル姫?ヴェーチェル姫は、アキト選手のあの恩恵(ギフト)はご存知だったんですか?』


『いえ、知らないわ』


『……そうですか』


お前、何で解説席に座ってんだよ、と思わないわけではないニーファではあったが、相手が王族ということもあって、何も口にはしなかった。

……中々に、賢明な判断である。


しかしながら、秋人の能力をてんで知らないアイレではあるが、彼女の口にしていることは、かなり的を射ていると言える。

先程までは、リンテウスの攻撃によってボロボロになっていたが故に、動きが多少鈍い節があった秋人ではあるものの、今はそれも全快。

更に言えば、リンテウスは左腕と右脚を『束縛する鎖撃(バインド・チェイン)』によって封じられているのだ。

満足な動きはできまい。


「そろそろ、決めないとな……」


自然と、秋人の口からそんな言葉が出る。

彼の右手にはお馴染みのあのカードが握られている。


「リンテウス!」


「……何だ?」


「ーーーこれで、終わりにするぜ」


『トゥルルルルルッッッ!!!カシャンッ!ーーークローバーの!4!!!』


秋人の宣言と共に、『一握りの希望(ギャンブル・カード)』が鳴り響いた。

普段の傲慢なリンテウスならば、戯言だ、とでも言って切り捨てていただろうが、左腕、右脚を封じられた今の自分の姿を見て、口を閉ざす。


クローバー()の効果によって秋人の全身から暴風が吹き荒れる。


「くっ……!」


飛ばされまい。

と、必死に耐えているリンテウスを横目に、秋人はそのカードに一種の感慨を感じていた。


(そういえば、“あの時”もこのカードだったなぁ……)


そして、風は止み、武器の全貌が明らかとなる。





「はぁ、はあはあ……はぁ…………」


息を切らして座り込む俺。

その対面に女の子座りでへたり込んでいる義妹。


床には、赤色の絵の具でも撒き散らしたかのような真っ赤な“ナニカ”が付着していた。


「はぁ、はあ……ゲホッ」


目は涙でぼやけてよく見えない。


しかし、何かソーセージのような細長い物質が地面に撒き散らされているのは、わかる。

そのソーセージの近くでは、父親“だったもの”が人形のように倒れていた。


ーーーしんでる。


俺は、子供ながらにそう直感した。

そして、手には子供の身である俺には不釣り合いな程大きい大鎌があってーーー




この日、俺は初めて人を殺した。





(あの日のことは、今でも鮮明に思い出せる……)


結局のところ、秋人とその義妹は近くの警察署に預けられ、父親の殺人は迷宮入となった。

通常、第一発見者が疑われるものだが……。

その第一発見者がまだ10歳に満たない子供なのだ。

誰も疑おうとする者は、いないだろう。


あの件以来、義妹は人を傷つけることを嫌い、そして赤色が苦手になった。

幼子の時分で大人でも吐き気を催すような場面を間近で見ることになってしまったのだ。

一生のトラウマになってもおかしくない。


「はぁ……」


あれ以来、秋人の4番のカードは出されていない。

何十回、何百回と使用しているはずなのに、一度も4の数字を記したことはなかった。


(偶然だったのか、必然だったのか……)


それは、秋人にもその能力にも……。

もしかすれば、神すらも知りえないことであろう。

が。


(今の俺には、どうでもいい……)


目の前のバカを、ぶっ飛ばれる力があれば、それで……。

そう思って、秋人は異能(武器)を握った。





大鎌。

一見して、秋人の4番のカードの武器は、大きな鎌の様を呈している。


(凄まじい、死の気配を感じる……)


その鎌が繰り出すプレッシャーは、先ほどの『聖杯の奇跡セイクリッド・ワンダー』を使用した時と同等、もしくはそれ以上のものであり、観客や実況席にいるものと、そしてそれに対面している者の動きの一切を封じた。


「リンテウス……一瞬で終わらせる」


「……『|火の壁《ファイヤ・ウォール』!」


相手の技を止める意味を込めて、リンテウスが詠唱すると同時に大きな火の壁が生み出された。


(これで少しは時間稼ぎをーーー)


「ーーー『透過する鎌撃(スルー・サイズ)』」


「……は?」


そんな、間の抜けた声を残して、リンテウスの視界は暗転したーーー







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