20.回復する指撃《リカバリー・フィンガー》
うん、俺にしては上出来の投稿スピードだな。
次話は、3日後に投稿します。
リンテウスの登場によって空気が一瞬で凍った。
リンテウスはウィルミの顔をチラと見て、ついでやけに敵意を向けてくる秋人に視線を向ける。
「なんだ貴様……下等種族の分際で、この我に喧嘩でも売っているつもりか?」
傲岸不遜、といった態度がありありと感じさせられる口調に態度……。
リンテウスは制服の上着を肩に羽織ったキザな着方をしており、口調と態度も相まってあまり好ましい人格をしていない事が伺える。
ウィルミは、リンテウスのいきなりの登場に怯えていたので、気付く余地はなかったのだが、ただ一人この場にいた男子生徒だけは秋人の変化に気付いていた。
「(おいおい、こいつ本人を目の前にしても殺気を放てんのかよっ!?)」
先ほど話したときは、秋人という人間はリンテウスという魔族を知らないからこそ出来る態度だと……そう思っていた。
ーーーが。
その考えは誤りだと思わざるをえない。
現に、秋人はリンテウスと対峙しても萎縮するどころかむしろ殺気を増幅させている。
「(こりゃあ……マジで、コイツが大物だって事なのか?)」
リンテウスを目の前にしてもこれほどの殺気を浴びせられる人間、というのは相当の実力の持ち主か、それとも相手の力量を測る事もできない弱者のどちらかだ……。
しかし、秋人の戦闘を彼は一度も見た事がなかったし、それに秋人が恩恵持ちの人間だという事も知らない彼からすれば、秋人が強いかどうかなんて知る術がない。
「(とりあえずはコイツがただの雑魚じゃねえって事は確かだが……。さて、と)」
どちらにせよ秋人が只者ではない事は分かったので、そこは僥倖と捉えよう。
と、そう考えて一旦思考を切り替える。
「(差し当たってはこの空気をどうやって変えるか……だな)」
男子生徒ととしても、ウィルミが虐待を受けている様はあまり好ましくない。
だからリンテウスが気に入らない、という点においては秋人に全面的に賛成したいところではあるが……場の状態があまりにも悪すぎた。
「(リンテウスだけならまだしも……今日は何故か取り巻き3人が全員揃ってやがる。……こんな状況でリンテウスに殴りこむのは得策じゃねぇ)」
そう、リンテウスは一人ではなかった。
否、もちろんの事ながらリンテウス単体の力量も高い。
彼は学生の身でありながら既にレベル80の土台に来ており、学院で最も強い男だと話題に上がるほどなのだ。
しかしながら、いくらレベル80といえど多勢に無勢だ。
ウィルミはリンテウスが恐怖の対象ということもあって使い物になるかどうかはわからないが……。
少なくとも人族である秋人には関係ない。
秋人の実力如何ではこの場をなんとか制することが出来るかもしれない。
「(……だが、それはあくまで単体の話、だ)」
ちら、と男子生徒は取り巻き3人に目を向けている。
桜色の髪を持った巨乳魔族に、魔族の中でも特に高い筋力を誇る鬼人族の娘。
そして、一度怒らせたら手がつけられないと言われている最強の代名詞、竜族の末裔。
桜色の娘はただの普通の魔族だが、残り二人は訳が違う。
特に竜族。
「(あれは俺たち人類が挑んでいい相手じゃねえ……)」
一度だけ竜族の娘の模擬戦を見たことがある男子生徒は、思い出しただけで震えが止まらなかった。
そんな男子生徒をおいて、秋人のリンテウスの間からは険悪な空気が流れてきている。
「……貴様。その目障りな眼差しをやめろ。……忠告しておくが我はそこまで寛容ではないのだ。あまり調子に乗ると、その目をえぐり出すぞ?」
「へぇ……なんだよ、お前。俺に散々下等種族とか言っておいてもしかして怖いの?俺にすごまれるのが怖いのか?」
「ーーー貴様ッ!」
「(ひよえええええええっ!?なして今にも喧嘩しそうなんですか!?)」
一触即発。
まさに彼らの現状に相応しい言葉だ。
取り巻き3人も無言で構えており、どう考えても良い状況とは言えない。
「ふんっ、我をここまでコケにしてくれたのは、あいつ以来だ」
「あいつ……?」
「貴様、名を聞いておこう。この我に刃向かったことを後悔するほどの実力差を見せつけてくれるッ!」
「……アキト」
「ふんっ!」
しかし、男子生徒が危惧していた状況にはならなかった。
リンテウスは意外にも怒りを収め、冷静に秋人の名前を聞いてきたのだ。
普通ならこれだけでも大分レッドカードな気がするが……。
一触即発だったと先ほどと比べれば、幾分かマシといえよう。
リンテウスは秋人の名前を聞き終わると、鼻で笑うような仕草をしてその場を去っていった。
「(はぁ〜〜〜……マジ、助かった!)」
リンテウスが去ると、先ほどまでの喧騒もなくなりまた日常が戻ってきた。
「(まさに、嵐のような男だよなぁ……ったく)」
リンテウスの二つ名を知っている男子生徒からすれば、これほど笑えないシャレもない。
が、先ほどのような危機的状況を無事に乗り越えられたという安堵感は、男子生徒に謎の開放感を与える。
「……とりあえず、今日は帰ろう」
そう独りごちてその場を離れようとしていると、秋人から多量の魔力の発現を感じ取った。
「てめー、何してーーーッ!?」
一瞬、見間違いかと思った。
しかし、何度目を擦っても目の前の光景は変わらない。
秋人は、何事かを呟いたかと思うと、変なカードを出現させ、そしてそのカードを指輪に変換させる。
そして、こう呟いた。
「ーーー『回復する指撃』」
「……ふぇ?」
いきなりウィルミを頭に触れたかと思うと、秋人の指先、正確には指輪から淡い光が漏れ出てウィルミの体全身を包み込んだ。
そして、しばらく経ってその光は止んだ。
「て、てめー……それは、人族の中でも数百万人に一人にしか宿らないって言われてる………恩恵じゃねえか?」
「さあな……俺は知らねえよ、そんなもん。それよりさ、ここで一番大きい図書館ってどこだ?」
「……ウィキトリア図書館っーのが、この学院内にあるが……」
「そうか……悪いけど、ウィルミちゃん。俺、午後の授業サボるから。先生に、そう伝えといてくれ」
そう言って、秋人は去っていった。
おそらく男子生徒が言ったウィキトリア図書館というところに向かったのだろう。
そこで、男子生徒はウィルミの様子がおかしいことに気づいた。
「どうした、ウィルミちゃん!?」
あいつに何かされたのかーーーッ!?
と、そう叫ぶ前に、ウィルミは震えた声音で言った。
「……やけどの、痕が…………ぜんぶ、なおってる」
「………………は?」
そして、その一言は男子生徒を凍りつかせるのには十分だった。
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