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10.バルド

次話も3日目に投稿します。



「兄ちゃんも災難だったなぁ……ここに放り込まれるなんてよ。何か悪さでもしたのかい?」


闘技場に叩き込まれた秋人は、呆然とした様子で夜を過ごし、闘技場の小屋で朝を迎えていた。

異世界初日で牢屋暮らし……一体俺の異世界ライフはどうなっているんだ!?と思いはしたものの、ここで暴れては何の意味もなさないだろう、と。

そう考えて秋人は話しかけてきたおっちゃんと雑談をすることにした。


「悪さ、っーか王国でやらかしまして……騎士団長に追われてここまで逃げてきた?みたいな」


厳密には色々と違っているのだが、詳しく説明しようにも信じてはくれないだろう、とそう考えて秋人は端折った説明をする。

おっちゃんは秋人の言を聞いて、やっぱりそうかと言いたげな表情で頷いた。


「そうかそうか……やっぱ兄ちゃんも俺と同志だってことだな!」


「同志……?」


「いやー、俺も実は王国の騎士から追われた身でよぉ。……と言っても、兄ちゃんみたいに騎士団長自らが出張ってくるなんてことはなかったがなぁ。兄ちゃん、一体何やらかしたんだい?」


「……」


笑いながら問いかけられるも、秋人は苦笑するしかない。

曖昧に笑って頷き、話の続きを促す。


「っと、そうだったなぁ、今は俺の話だよな。俺、王国で納税をちょっとばかし延滞してたんだ。延滞の理由は特にねぇよ。強いて言うんなら俺が飲んだくれダメ亭主だったってだけでなぁ……特に王国が悪いとか騎士団が悪いとか、そんな話じゃねぇんだ」


そのときのことを思い出しているのか、おっちゃんの目には深い後悔の色が浮かび上がる。


「ははっ、失ってはじめて大事だって気付くもんってホントにあんだな。俺にはよ……妻と1人の娘がいるんだが……一緒に暮らしてたときはそうでもなかったのによぉ、ここで奴隷としての暮らしを始めてからはしょっちゅうあいつらの夢見るんだぁ。ホームシックってやつなのか?……わかんねぇ、わかんねぇけど少なくともあいつらがいないと俺の生活にハリがないっーかよぉ…………」


「……奥さんと娘さんは、今どこに?」


「さあな、俺は金が払えねえからと言ってここに奴隷として売られちまったからなぁ……。あいつらの行き先なんてわからねえ……けどよ」


「けど?」


「この闘いで俺が勝てば、俺の妻と娘を王国から取ってきてくれるって、俺の飼い主が言ったんだ」


そう言って、少しだけ目に光が宿る。

それはおっちゃんからしてみれば確かな希望の光だったのだろうが、秋人は気掛かりな点があった。


「おっちゃん……確かに魔族が取り返してくれるかもしれないけどさ。確かここに俺が来たときにも言われたことだけど、人間は基本的にここでは奴隷じゃないと生活できないって、魔族の女の子が言ってたぞ?」


秋人がここに転移してきた当初、紫髪のツインテ少女は確かにそのようなことを言っていた。

秋人はそのときのことを思い出し、ここにおっちゃんの妻と娘を連れてきても奴隷になるだけじゃないのか?と、そういうことを危惧しているのである。

しかし、当のおっちゃんはそんな質問は予測済みと言わんばかりの表情を浮かべる。


「それは大丈夫だ。今回に限っては特例で認めてくれるそうだ。例え人間だとしても魔族と同等の地位で暮らせるよう便宜を図ってくれるそうだぜ」


「へー……」


あんまりにも自信満々に言うものだから、秋人も納得しそうになったが……。

やはりどこか怪しい気がする。

ここは、魔国だ。

王国のようにそんな特例が簡単に認められるのだろうか?

秋人は魔国の、いやそれどころか王国の法律すら知らないため、どのくらいの強制力がある法律なのかは知らないが……少なくとも秋人が住んでいた日本では、そんな簡単に特例などが出せるはずがない。

いくら条件付きだとしても、だ。

何やら嫌な予感がするなぁ、と考えていると闘技場の係員がおっちゃんを呼びに来た。


「バルドさん、もうすぐ貴方の試合が始まりますので、準備をお願いします」


「おうよ、了解!」


おっちゃんの名前、バルドって言うのか……などと惚けている間に、バルドは鎧や剣を装備し始めた。

バルドの戦姿を見てますます不安を感じた秋人は、バルドに闘技場の仕組みを聞くことにした。


「そ、そういえば俺、ここの仕組みについて知らないんですけど……闘技場って誰と戦わされるんですか?」


「ん?おお、そういえば肝心なこと言い忘れていたなぁ。この国にしかいない黒牙豹ブラックサーベルタイガーっていう奴と戦って、5分間生き残れば勝ちだ」


「5分間、生き残る?その獣を倒すんじゃなくて、ですか?」


「バカ言え!あれは適正レベル60は必要な凶暴な野獣なんだ。少なくとも俺や兄ちゃんみたいな一般人じゃあ手も足も出ねぇよ。だから、にげるんだよ。5分間、死に物狂いで、な。そしてその姿をみて魔族共は楽しむッーワケだ。俺たち人間の無様な姿を見て、な」


「なっ……!?」


闘技場の全容に絶句する秋人。

しかしバルドは、そんな秋人には構わずに話を続ける。


「良いか、兄ちゃんみたいな若者は、案外命よりもプライドを優先することもあるようだがなぁ……。止めときな。……生きてなきゃ、何の意味もねぇんだ。確かに男にはプライドも大事だ。だがなぁ、それよりも大事なことはいくらだってある。だから、命を簡単に捨てるようなことをするんじゃねえ!わかったな?」


「え、うん……」


バルドの言葉には妙な迫力があった。

何か以前にそんな若者を見てきたかのような……そんな雰囲気が。

彼の気迫には、経験則のような妙なリアリティを秋人に感じさせた。


「バルドさん、お時間になりました。場内に入りください」


係員の指示に従い、バルドは場内に行くための階段を登り始めた。

すると、階段の途中でバルドは後ろを振り向き言った。


「この試合が終わって、お互いが無事だったらーーー一緒に、酒でも飲もうじゃねぇか?なあ、兄ちゃん」


「あ、ああ……そう、ですね」


「約束だからな?」


そう言って、バルドの姿は場内へと姿が消えていった。

そこはかとない不安感が、秋人を襲った。



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