狐の嫁入り_2
僧侶の読経がようやく終わり、あちこちで身じろぎする衣擦れの音が聞こえた。皐月もようやく顔をあげ、遺影を見上げた。微笑むその表情は穏やかで、かつてよく見た優しい笑顔だ。葬儀の時よりは初七日の法要の今の方がだいぶ祖母の死を受け止められているかもしれない。葬儀の時には後悔ばかりだった時間も、その経過とともに少しずつ、少しずつ和らいできている。
「お姉ちゃん、大丈夫?」
隣に座っていた依舞が立ち上がりながら、皐月を心配そうにのぞきこんだ。
「うん、大丈夫」
安心させるように笑みを浮かべ、少し痺れている足に気合いをいれるように立ち上がった。参列した法要も、残すは精進落としの会食のみだ。
「手伝いをしなくちゃね。依舞、手伝ってくれる?」
「え、お姉ちゃんは、休んでた方がよくない?」
「そんなこと言ってられないでしょ。これだけ親族が集まって、用意だけでも大変なんだから。お母さんたち、てんてこ舞いしてるじゃない」
依舞の心配をなだめながら土間の方向に廊下を歩いた。
「あ、皐月ちゃん。ちょうど呼びに行こうと思ってたの。母が土間の方手伝ってって」
土間の方からやってきた歳上の従姉妹が、立ち止まった。風子伯母の娘で、歳が近いせいか、よく話をする相手だった。
「ごめんね、うちの母、人使い荒くて」
「そんなことないよ。むしろ足手まといになってなければいいんだけど」
「ううん、すごく助かってる。おばあちゃんが亡くなって、家の中をとりしきんなきゃなんないのに、なんか勝手がまだ掴めないみたいで」
「おばあちゃん、急だったから……」
「そうなの、いろんなしきたりがあるみたいで。小里のおばさんがいてくれるから、母も護おじさんもなんとかやってられるんだと思う」
「しきたり?」
それまで黙っていた依舞が首を傾げた。
「依舞ちゃんは若いからあんまり知らないかな。本家って昔から続く旧家じゃない? だから、いろいろと決まりごとがあるの」
「そうなの? どんな?」
「そうねえ、例えば、古宇里山の神さんにまずご報告にいって、それから決められた順番に、屋敷周りの神棚やお社に報告していく、とか、その時は必ず、その年の新米で作ったおいなりさんを供える、とか」
「えええ、何それ、メンドくさそー!」
「依舞! 口を慎む」
「あ、ごめんなさぁい……」
依舞の素直な反応に、従姉妹が苦笑した。
「まあ、普通はそう思うわよね。でもそうすることで、本家の結束を固めてきたんじゃないかな」
「この精進落としのふるまいも変わってるしね。普通、一般の方も一緒じゃない? でもわざわざ、一般の方用の精進落としがあって、その後また別に遺族だけの精進落としがあるなんて」
「そうよね。倍かかるから、もう訳分かんなくなってくる。でもだからこそ、結束強いんだよねえ……」
「そうね。うちの親族って、人の話聞いてると他より強いみたいね。うちの母が離婚した時だって、就職口とかだいぶ世話してもらったみたいだし」
「うん、いざという時、頼りになる。だから一概に大変とも言えないのよね」
そこまで話をした時、土間の方から従姉妹の名前を呼ぶ風子伯母の声がかすかに届いた。
「わ、マズイ。皐月ちゃん、ちょっと急ぎめで土間行ってくれる?」
「うん。わかった」
慌てて従姉妹と別れて、依舞と土間に早足で向かった。




