訣別_1
朝の光が、カーテンの隙間から差しこんで、眩しさに目覚めた。
ふと頬に手をやると、濡れている。どうやら眠りながら泣いていたらしい。皐月は乾きかけている涙を拭うと素早く体を起こした。気持ちがざわついて、悠長に寝てはいられなかった。
古宇里山でのできごともそれから見続けた記憶も、体に泥のような疲労を残していたけれど、目の前に突きつけられた状況の方が大事だった。
初七日は明後日。死者の魂が三途の川を渡る日、死者がこの世への未練を断つ日。祖母が本当にあの世へと逝く日。
悟伯父だった者は、その日を境に、本家は祖母の守りを失うと言った。家が傾くと言った。没落するということなら、なんらかの被害を被るのだろうか。
そして、白彦の力なら、意のままにできるとは。
本家の地域に伝わる狐の嫁入り、先祖が守り伝えてきた、お狐さんを山の神に贄として捧げる風習と祭主としての側面。郷土の図書館でも土蔵に残る昔の記録でも、護伯父でも風子伯母でも小里でも誰でもいい。とにかく今は知らないことが多すぎて、この混沌とした人の理解の及ばぬ世界のことを些細なことでも知りたかった。でなければ、窮地に陥っている白彦を、そして祖母たち先祖が人知れず守り伝えてきた何かを失ってしまう気がした。
残された時間は、きっと少ない。
会社に欠勤連絡をして、陽平に予定時間より早めに会いたいと伝えた。今の皐月がすべきことは、白彦と別れたあの社に戻ることだ。そう告げる自分の直感を信じることしかできないし、二度と、祖母の時のような後悔はしたくなかった。いや、後悔するかもしれなくても、やれるだけのことはした上でなら、きっとその後悔も納得がいくだろう。
洗面所で冷たい水道水を思いきり顔にかけた。それでも鏡の中で水を滴らせた自分の顔は、ひどく頼りなげに見えた。




