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「もうすぐ朝日が昇るわ。」
眠らずに夜を明かしたが、ドラクールの頭は妙に冴えていた。
脳内物質の分泌量が明らかに狂っているのが、自身も分かっていた。
「さあ、手を出して。」
彼は言われた通りにしたが、カーミラの行動は理解出来なかった。
彼女は何故か、足元に転がっていた酒瓶の破片を拾い上げて構えていたのだ。
問う間もなく、差し出したドラクールの右手の小指に鋭い痛みが走った。
それと同時にカーミラはそこから滴り落ちる鮮血を吸い上げた。
彼の指にねっとりと絡み付く温かい舌先。
しかしこれだけでは終わらず、彼は更に驚倒させられた。
唇を離すとカーミラは衣服を脱ぎ始めたが、それに驚いたのではない。
彼女の肉は裂け、骨は砕け、頭髪は変色を始めた。
だがそれはほんの僅かな時間の出来事で、何事かと瞬きをしているうちに終わった。
その場に半裸の己が、いた。
ただただ唖然としていると、カーミラは己の声で語りかけて来た。
「一つ、言い忘れた。」
口調までもが同じで、ドラクールは背筋が寒くなった。
「『地獄の沙汰も金次第』。これを頭に入れておけ。」
夜が白み始めると、一匹の赤い蝶がひらひらと舞い込んで来た。
「着いて行け。その先に馬がいる。」
もう一人の己はそう言うと手近にあった衣服を羽織り、ベッドに潜り込んだ。




