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二日後。件の女が再び、ドラクールの前に現れた。
「ありがとう!指輪、見付かったの。言われた通りだったわ。」
その声に、通りがかった他の若い女が足を止める。
「去年から見付からなくて諦めていたのよ、本当に感謝しているわ!」
彼等を伺う様に見ていた彼女は、ドラクールに向かって歩き出した。
それまでのドラクールは『卜者』らしく、回答は言外に匂わせていた。どうにでも語釈出来る様に、と。
だが現下の彼は、そうではない。
明瞭に率直に導いてくれると、気が付けば評判が評判を呼んでいた。
六日目。
最後の夜には行列が出来上がる程だった。
そして来たる約束の日。
カーミラはドラクールが用立てた現金を受け取るなり、吐き捨てるようにこう言った。
「君は一体、何がしたいの?」
「なに、って。」
彼は不愉快そうに目を細めた。
「こんな端金、何の役にも立たないわ。」
あまりの憤慨に思わずドラクールは怒声を上げそうになる。だがカーミラの表情には、嘲罵も愚弄も浮かんではいなかった。
「君、本当に全てを捨てれるの?」
される必要のない、質問。しかしそれは己の力量不足故の事だと実感した。
彼は静かに首を縦に振るしか、出来なかった。
「良く聞きなさい。」
カーミラは腕を組み、策動について説明を始めた。
「摩天城までは一頭の馬を用意してあるから、後は君自身で判断して交渉なさい。」
「交渉?」
解せない表情のドラクールに、カーミラは些か苛立っている様子だ。
「そうよ。君が行おうとしているのは、不法入国の斡旋でしょう。」
━━最初からそう言え。
今になって漸く、彼は状況を全て飲み込む事が出来た。
「出発は明朝。制限時間は十二時間。」
「待て。朝になんか出たらすぐバレる。」
「大丈夫よ、私が君の身代わりになるから。」
「不可能だ。ベネディクトが気付かない訳がない。」
「心配ないわ。それよりどうするの?」
カーミラは言った。
「君、一連の行動で既に警戒されているわよ。間違いなく追跡される。」
彼にとってまったくの未知数である、この危険な試み。
だからこそ、賭するのは己自身であってリサ達ではならないと、思い直した。




