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「…何でもないわ。」
長い睫をたたえた紺碧の瞳を伏せるベネディクト。
特に返事はせず、その気配だけを感じているルーヴィン。
二人の沈黙の間をまた、一つの強い風が吹き抜けた。
「降りそうだな。」
強風は雨雲を運んで来た様だ。じわじわと、更に体感する湿度が上がる。
「雨は嫌いだわ。」
ベネディクトは風に乱れた髪を整える。またすぐ乱されるのを承知の上で。
「忙しくなるからか?」
皮肉混じりに笑むルーヴィンは噴水で煙草の火を消した。
「そうね。」
「今夜は大丈夫だろう。もう夜も更けた。」
「そうね。」
取り留めのない会話。
意味を持たない会話。
━━いつでも貴方はそう。核心になんか、絶対に触れないんだから。
ベネディクトは心の中で一言、兄に不満を呟く。
同じ様に決して核心には触れようとはしない、自分に気付いていながらも。
「さて。私はそろそろ戻るが、お前はどうする?」
ルーヴィンはベネディクトを手招きする。
「まだいいわ。」
彼女は背を向け、広い中庭を歩き進めた。
ルーヴィンが慣れた足取りで吸い込まれて行ったのは、厳然なる建物。
初めて目にした者はもしかしたら、王宮と見紛うかもしれない。
其処は大聖堂。それは威儀や厳粛の象徴でもある。
ルーヴィン・クロイツァー。
彼は、世界宗教『ヴェラクルース神使教』の宗主を担う人物なのだ。